第7話

「ねえ、優乃」


「ん?」


「なんか飲み物飲みたい。」


奏、甘えモード発令。熱出した時とかに現れる珍しいモード。猫ちゃんみたいで結構可愛いねん。そうそう、そうやって辛い時は甘えてくれたら良い。私は君の親友であり、一蓮托生の相棒やからな!


「自販機あるから買ってくるわ。希望はある?」


「コーヒー牛乳かミルクティー」


「了解!ちょっと待っとって!寝てて良いからね」


私は自動販売機のある、食堂のある建物へ急ぎ足で向かった。奏のお願いならお安いご用意やわ。


自動販売機の前には先着の女の人がおった。制服着てるし多分先輩かな。やから隙間から何が売ってるか見つつ、並んで待っとった。


ミルクティーもコーヒー牛乳、カフェオレもあるやん。どうしよう。とりあえずミルクティーとカフェオレ一本ずつ買って選ばせよっかな。


そんなことを考えてる時だった。

先着が買い終わって振り向いた。


うわ、めっちゃ可愛いやん。


いちごオレを持ったその人は身長が150cmぐらいで、何より顔がすごく可愛い。猫目でぱっちりした二重、ふっくらとした薄ピンクの唇、ボブカットに揃えたフワフワの茶色い髪。


ふと目が合った。私は微笑んで軽く会釈をし、その人を横切り、自動販売機へ向かおうとした。


「君、私のこと知らないの?」


不意に声を掛けられた。


うーん、知らんな。こんな可愛い人知り合いにおったら一生忘れんと思うけど。忘れてたら悪いな。


私は首を傾げ、再度微笑んだ。


「本当に知らないんだ!面白いね!」


そう言って彼女は私に詰め寄ってきた。


「うわっ」


めっちゃ距離近ない?30cmもないで?そしてこの人桃のめっちゃいい匂いするわ。


「申し訳ないですけど、知らないです!あと、めっちゃ近いです!すみません!」


私はそう言って愛想笑いをしながら後退りをした。可愛いのにナルシストなのかな。


「へえ!私に惚れないタイプのシャオミーミー?」


「はぁ。」


確かにこの人の容姿は男女共に惚れそう。でもこの人のノリ、ちょっとな...ていうか、しゃおみーみーってなんだ?新種の虫か?


「気に入った。私の名前はタォファ。たおふぁって呼んでね!」


「え?」


いやいやいや、展開が早すぎる。気にいる要素どこにあった?勝手に話進めるな?


「愚昧无知平民、我应如何与你玩?」


「は?」


めっちゃニヤニヤ笑うやんけ。なんやねん。怖いて。何語?中国語?多分?豆腐やら、みーみーやら、意味わからんわ!日本語喋れや!


「うんん!なんでもないよ!これから楽しませてね、小咪咪ちゃん?」


そう言って、豆腐先輩?は去って行った。


うん、なんか変な先輩に目を付けられた気がする。気ぃ付けよ。風のように去って行ったな。なんやねん。怖すぎるわ。


まあ、ちゃっちゃっとご注文の品を購入して戻ろうか。


私は小銭を自動販売機に入れた。


今思えばこの時の私って本当に浅はかだったと思う。なんで体調の悪い奏を置いてその場を離れちゃったんやろ。そして桃花先輩の存在を知っていれば、もっと興味を持っていれば。賢く縋っていれば。


こんなことになるなんて、あの時はわかりもしなかった。

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