第二話 オガワLv.1【悪食】

 馬車の中には酷く怯えた10歳にも満たないであろう女の子と、これまた恐怖によるものか、必死に全身の震えを抑えつけ、女の子を守ろうとする護衛の騎士が2人乗っていた。一瞬しか見えていなかったのにもかかわらず、オガワはその光景を正しく認識していたのである。一般的な人間の記憶力ではそうはいかないであろう。しかしソレが小川の身に起きた全てを物語っていた。

 「…くそ」

 何度目になるかわからないため息とともに、小川は空を見上げながら呟く。大地に身を投げ出し、太陽が2つあるとか、ほんとに異世界じゃん…。などと内心現実逃避ぎみの小川。そこから動くような気力もなく、今の小川を支配しているのは、なぜ?という思いだけである。

 小川の身に何が起こったのか。小川本人の知識や言葉を借りて表現するなれば、“異世界転生したら悪魔だった件”といったところか。某ライトノベルのタイトルに近しいようではあるが、現実とはなんと…。そのうえ小川にはステータス鑑定のスキルがないため、本人には自分が他の悪魔や魔物たちの間で、どの程度の位置関係にいるのかすらわからないというおまけつき。

 『あー、オガワ様、聞こえておりますでしょうかー?』

 そこへ間の抜けた幼い女の子の声が聞こえた。

 「…誰だ?さっきの天使?…でもないようだが」

 『聞こえてますねー、よかったですー。』

 声の主は小川の質問にいっさい答える気がないらしい。“おい”と思わなくもなかったが小川は口にはしなかった。

 『本当はですねー、異世界転生後の方とのやり取りはー、禁止されているのですがー、このままだと面白くないと上の方が困るのでー、状況整理に参りましたー。』

 「上の方…というか困るってなんだよ。俺が今困ってんだよ」

 『はいー、そう思いましたのでー、参りましたー。』

 —ちっ、無視かよ。

 『では状況整理に入りますー。まずですねー、オガワ様の種族はー、レッサーデーモンになりますー。種族特性といたしましてー、マインドポイント…めんどくさいのでー、以降はMPと略しますー。こちらを消費してですねー、傷なんかも治っちゃいますー、という特性がありますー。次にですねー、転生特典のチートスキルなのですがー、オガワ様の場合はー、悪食となっておりますー。悪食の効果についてはですねー、怒られちゃうのでー、オガワ様自身で理解していってくださいー。ちなみにー、現在のオガワ様のステータスはー、レベルが1でー、体力…HPといえば伝わるでしょうかー?そちらはですねー、15のMPは0となっておりますー。気を抜くと死んじゃいますー、以上ですー、では改めましてよき転生ライフをー』

 ―なぜ傷が治ったのかが分かった…それは素直にありがたい。…が、現状MPを回復する手段が分からないうえ、HPが15だというのがこの世界的にどのぐらいの状態なのかがいまだに不明だ。…いや気を抜くと死ぬといわれたあたりなかなかやばいのかもしれない。それにしても…悪魔系なのは理解していたがレッサーて、めっちゃ弱いんじゃ?てか転生特典の悪食こそどういうスキルか説明しろよ…。

 「…くそ」

 

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