第一話 オガワLv.1【不明】
食料がない。現在地がわからない。与えられたスキルがわからない。人が近くにいるような気配もなし。
「あの天使め…。実は悪魔だったとかないよな」
もっと異世界転生といえばチートスキルで無双したり、楽に生きていけるものだと思っていた。ライトノベル作品の一部では主人公が不遇な目にあうような異世界転生物もあるにはあったが、まさかそっちよりの異世界転生だったとは…。
目を開けるとそこは、ごつごつとした岩が散乱する砂漠のようなところだった。そこから歩いてたぶん3時間。景色は一向に変わらず、ここが異世界なのかすら怪しく思えるほどに異世界感がまったくない。ステータス!などと叫んでみたものの、ゲームや異世界転生でおなじみの分かりやすい親切な画面が表示される気配もなく、少しがっかりしたのがつい先刻。今は騒ぐような余裕もなく、せめて水が欲しいと願うばかり。
気のせいだろうか?こんなにも長時間歩いているにしては、あまり疲労感がないような気がする。…まさか疲れにくいとかそういうスキル?
「そんなこと…ないよな?…ハハハ」
あまり考えたくはないことであはあるが、可能性として一度疑念を抱いてしまえばなかなか消えてくれない。
そんなことを考えているとやっと遠くに1台の馬車が走っているのが見えた。
「お?おぉー、あれ馬車じゃね?なんか一気に異世界っぽい」
今の進路のまま馬車が進んできたとしたら、おそらくすれ違うことになるだろう。…と思っていたのだが、いきなり馬車は慌てたように方向を変え、来た道を引き返すように走り出した。
「あ、ちょっと!まってくれ!…って聞こえないわな」
今ここで現地民と接触できなければ次の機会は果たしていつになるだろうか…。
そう思って小川は軽く走って追いかけただけのつもりであった。にもかかわらず冷静になって考えれば追いつけるはずもない馬車に、小川はものの10秒もかからずに追いついていた。
「!!※▲〇*✖#&%〇!!!」
「まってくれー!お願いだ、話だけでも!!」
馬車の御者が何やら慌てふためいているが、何を言っているのか小川にはわからなかった。
理由が良くわからないが、御者はパニックで会話ができそうな状況ではない。ならば馬車の中の人ならだれか会話が成り立たないだろうか。
そう考え、馬車の中へと目を向けた時、小川は馬車の窓ガラスに反射して写っているソレを目にしてしまった。そしてそれが原因で一瞬、わずかではあったがその場で固まってしまった。
パリンとガラスの割れる音とともに、じんわりと左目に温かなものを感じたかと思うと、それはすぐさま顔の左半分を焼くかのような痛みへと変わった。
声にならない声を上げ、のたうち回り、その場で2,3回嘔吐した。
頭と心の整理がつかず、左目は疼痛に襲われ、自分の身に何が起こったのかすらわからなかった。ただ、そうなった原因だけが深々と小川の心に刻みこまれていた。
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