叶わぬ願い

あーる

叶わぬ願い

また星が消えてしまった

星が消えることが当たり前になってしまったのは

私が空を眺め過ぎてしまったからかもしれない

今の私は空を眺めることが退屈で仕方ない

朝と夜が何回繰り返されたかなんて もうどうでも良くなってしまった


私は人間には見えない存在 けれど人間は手を合わせ願いを託す

そして人間は願うだけで何もしない しかも願いが叶わないと怒りを振りかざす

そんな怠惰で傲慢な生き物だ


人間は私を この大きな城を災難や不運から守る存在として 守り神と呼んだ

人間の願いを叶える理由はない けれど叶えない理由もない

この退屈に何かが生まれるのなら 叶えてもいいかもしれない

人間が怠惰で傲慢なら 私は同じくらい気まぐれかもしれない


けれど気まぐれに人間の願いを叶えても 空を眺める感情が変わることはなかった

気がつけば星が消えるように 最初に手を合わせていた人間も消えて

城の中が見知らぬ人間に溢れたころ

私は『守り神が離れたとき災難や不運が城を襲う』という

おとぎ話になってしまった


そんな私は変わらず空を眺めていたが

いつの間にかある少女を眺めるようになっていた

この城の人間はみな着飾っているのに 少女の姿はこの城に相応しくなかった


それは私がおとぎ話になったように もうひとつのおとぎ話がここにあったから


『紅い瞳を持った子供は災難や不運を招く』


その紅い瞳を持った少女が生まれたから 人間はそのおとぎ話に惑わされていた

けれど私がいるのだから この城に災難や不運を招くことはない


この少女は窓のない部屋に閉じ込められ 目を背けたくなる扱いを受けていた

そんな少女を部屋で眺めていたら 少女は嬉しそうに私に話しかけてきた

誰かと話すのは久しぶりだと言う少女には なぜか私の姿が見えるらしい

私はこの城の人間が憎くないのか聞いた

紅い瞳を持った自分は生かされているだけでありがたいと 少女は笑って話した


人間が少女に与えたものは 痛みや苦しみや孤独だった

それでもこの少女は 繰り返される終わりの見えない理不尽を受け入れ

生かされていることに感謝をしている


なぜ人間はこんなに清い少女を傷つける

この少女は何もしていない ただ生まれただけだ

そう思ったとき 私の中に名前の知らない感情が生まれた


それからしばらくした日 少女は城の者に殺された

城の者が少女に飲み物を持ってきて

少女は疑いもせずに 毒の入ったそれを飲んでしまった

少女は最期に何を思ったのか

最期くらいこの城の者を憎んだだろうか

どうか自分を嫌いにならないでほしい 君は何も悪くないから


ここまでなら 空を眺める退屈な時間の中に現れた人間

そんな存在で終わっていたかもしれない

けれど動かなくなった少女を この城の人間は森に捨てた


私はこの城の人間を ひとり残らず殺してしまおうかと思った

もっと早く殺してしまえばよかった


そうか あの日の感情は殺意だ


『守り神が離れたとき災難や不運が城を襲う』


私はおとぎ話を本当にしようと思った

どんな災難や不運が起きてもあの子の痛みや苦しみには届かない

それなら その血の繋がりが無くなるまで続けばいい

どんなに悔やんでもあの子の笑顔はもう無いのだから


傷つける存在は全部 私が消してあげる

そして今までで 1番の幸せを私があげる

だから また一緒に話をしよう


災難や不運を招くと言われた紅い瞳が 私にはどんなものより輝いて見えた

願うこと全部 どんな願いだって叶えてあげるから

だから幸せな笑顔を見せて欲しい

そしてまた美しい紅い瞳に私を映してくれ 



この後に起こった災難や不運の原因

それは『紅い瞳の少女を殺したからだと』そんな噂が広まった

それからは 紅い瞳の子供が生まれても誰も傷つける者はいなくなり

そしていつの間にかその噂は『紅い瞳の子供は幸せを運ぶ』に変わっていた


これは星が消える前の おとぎ話になってしまうくらい昔の話だ


『もし今ここにあの子が生きていたら』


そんな叶わない願いを 私は今も空を眺めて星に託している

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叶わぬ願い あーる @RRR_666

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