リリリリストラクション

帆多 丁

あなたは私が必要かもだけど、私は、そうじゃないよ……?

「あなたは私が必要かもだけど、私は、そうじゃないよ……?」

 そんなつれない言葉を残して仕事は去っていきました。2023年5月の事です。

 

 問題:上記には嘘が含まれておりますが、どの点でしょうか?

 

「去っていく」ですか? 違います。「つれない言葉を残して」です。仕事は何も言わずに去る。何か言うのは人事部です。


(挿入歌)リストラークション、りりり、リストラークション。


 失って初めて叫ぶ職への愛。けれどすべては遅すぎた。収入よ、君も職と共に行くというのか。

「大丈夫! 120日間わたしが一緒よ!」

「失業保険……!!」


 はい。

 誕生日の三日後のことでした。Twitterその他SNSでお祝いしてもらって浮かれていました。

 前日には連載してた小説がいいとこまで書き終わって気持ちよく、また突発的に有給も取れたんで買ったんですよ。ゼルダの。キングダムのティアーズを。

 ウキウキと起動。ボブカットの姫に全力で「かわいい」を贈り、空島の湖へダイブ! 着水! 着信! 上司!


「帆多さんすみません。16:30からのコール電話会議に出てください」とどこか不穏な気配。出席者にはシニア・ダイレクターとかいう、普段存在を意識しないような偉い人の名前がありました。なんなら名前も初めて聞いた。


 そのシニア・ダイレクター、絶望した声色で曰わく「9月から部署を丸ごとOut Source。 Sorry but 退職 please。お前のポストは So Sorry」


 退職勧告ですね。戦力外通告じゃなくて良かった。良くはない。

 そして帆多は10年勤めた職を失いました。

 しずかに電話会議から退出し、まっすぐに時の神殿を目指します。ゼルダ、君は僕が救う。イチカラ村で共に暮らそう。


 この翌日、帆多は友人から誕生日を祝われました。

「最近どう?」

「リストラされた」

 蛙の串焼きと共に伝えます。


 収入もなくなるとなると、お金を使うのが急に怖くなりますね。とりあえずネトフリの課金を停止です。

 すみません、鶏の頭の串焼きと牛の腎臓2本、あと生ふたつ。


 退職勧告を受けてから有給の消化に入るまでがおよそ1か月ありましたが、職場に来ることもないのかと思うと、オフィスの窓から見える近所の公園もちょっとは特別に見えますね。

 出社最終日は大阪出張。帰りの新幹線で上司にお礼のメールを差し上げ、ターンエンドです。

 さらば労働の日々。職よ、ぼくは決して君が嫌いではなかったよ。


 そして労働のない日常へ。

 こっからは先は箇条書きです。


 粛々と就活してましたので、話としては大きな動きもありません。


・習慣付いてる行動が僕を日常に縫い付ける。ありがとうフィットボクシング。

・他人との関わりが僕を日常に縫い付ける。ありがとう趣味界隈の方々。

・失業手当、会社都合退職でも実際に振り込まれるまで一ヶ月ぐらいあるんですね。

・ハローワークに行くと「わあ、僕の他にも無職がたくさん!」って気持ちになれます。君は一人じゃない。僕たちずっと無職でいようね。

・ところでハローワーク窓口での相談は、実際に仕事を探すための活動であるとともに、「人と話す」という機能があると思った。すくなくとも僕の管轄のハロワ職員の方は親身でしたので、これはかなり助かった。

・三連休だって? おれはもう三ヶ月休んでるぜ?

・無職をうっかり夢職と打った。死にたい。なんだそのキモ文字列は。「夢職だから顔晴って志事見つけます!!」ってことか。キモい。腹が立つ。

・あたらしい銀行口座を作ろうとしたところ、オンラインでも作成できることを知る。へえ、便利だなと進めて言ったら、クレジットカードの新規入会も必要らしい。クレジットカードってそういえば、作る時に勤務先聞かれるのね。くそう。

・選考がひとつも進んでいないタイミングがあって、これが一番心に来た。扶養家族がいたりローンがあったりしたら、プレッシャーもそうとうキツかったと思う。

・「お金はあるけど仕事はない」状態だったんですが、これでのんびりできるかというと、無理でした。いまからのんびりします。仕事決まったので。

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