ぼくは宇宙人のこども

 ぼくはまるで世界の真実でも知ったかのような全能感に溢れていた。お母さんがひた隠しにする事実を自らの手で暴いたのだから、そうもなるだろう。なんせ、ぼくは小学生だ。大人じゃない。


 しかし、そんなことはお構いなしに日常は戻ってくる。休み時間には、いつも通り一人で図書室へと出向く。クラスメイトは誰一人として、ぼくの壮大な作戦のことを知らない。まさか3連休を挟んでぼくの気持ちがこれほどまでに変容しただなんて思いもよらないだろう。現にぼくは、ハリーポッター以外の本を手に取っているのだ。


 その名も「デルトラ・クエスト」


 これはすごい進歩だ。沢田くんがここに居たなら驚愕して腰を抜かしてしまうかもしれない。


 お昼休みが終わり教室に戻る。席に着くなり沢田くんが話しかけてきた。


「また、図書室か? 毎回ハリーポッターばっかり」


「今日はハリーポッターじゃない」


「え? マジで?」


「デルトラクエストや」


「おい、マジかよ……」


 案の定、沢田くんは驚愕していた。腰こそ抜かしてはいないが、冷や汗を流す程度には驚いている(ように見える)。


「あと、実はさ」


「今度はなんやねん…… っていうかキャラ変わってない?」


「宇宙人のこどもっていうの、ほんまやったわ」


「え? いやでも冗談で」


「おばあちゃんの家行って調べてきたからほんまや」


「でも、証拠ないやろ」


「今はないけど、また今度撮ってくるわ。宇宙人のミイラ」


「う、宇宙人のミイラ⁉」


 ぼくは宇宙人のこどもじゃない。だからこそ、ぼくは宇宙人のこどもだと自信をもって言える。どうして、こんなことを口走ったかと言うと、沢田くんに仕返しをしたかった気持ちが半分と、溢れる昂ぶりを発散したかった気持ちが半分。つまり、気の迷いである。


「なになに? どうしたん?」


 沢田くんのおかしな様子に気が付いた横山くんが割って入ってきた。横山くんとは多分一度も話したことがない。


「いや、こいつが宇宙人のこどもやって」


「え? なにそれ、おもろ」


 騒ぎを聞きつけた他のクラスメイト数人も話に混ざってくる。いつものぼくなら困惑する一方だが、その時のぼくは全能感に溢れていたからむしろ興奮すらしていた。


 結局、その日は放課後までおばあちゃんの家で起こった壮大な物語を4割増しにしてクラスメイトに吹聴した。


 ちなみにぼくはこの日以降、オカルト関連の質問攻めにあったり、宇宙人のミイラの写真をこっそり皆に見せたのが先生にバレて怒られたり、そんなのが中学高校と続いてついには自分で宇宙人のミイラを作り始め「宇宙人のこども」として謎の雑誌にインタビューされたりするなんてことになるのだが、当然この時のぼくは知る由もない。

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家の蔵から宇宙人のミイラが出てきた少年の物語 秋田健次郎 @akitakenzirou

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