第9話 観客席でも始まった戦い

「へぇ~…あれがオニーク族か。実物は初めて見たぞ」


 オニーク族。額に2本の角が生えていて、赤か青の肌を持つ大柄な種族である。

外界との接触を一切せず、辺境や秘境でひっそりと暮らす、温厚な性格の種族でもある。だが、一度キレると持ち前の屈強な体と絶大なパワーで敵を粉砕する。その強さはこの世界で一番強い種族という論争で必ず名が上がるほどである。


「フーム。ただ惜しむらくは男だということだ。この体格差だ、女ならさぞ触り

 甲斐があったろうなぁ~」


「…お主はそればかりだな」(呆れ)


「男はエロいものなのだ。じゃなかったらその種族は絶滅待ったなしだろ」


《では、チャンピオン、デストロVSセクス&レスタ闘士の試合を始めます!!》


 ジャ~~~~~ンと銅鑼の音が鳴ると、チャンピオンが「がああああ」と雄たけびを上げて二人目掛けて突進し、岩石の様な拳を振り下ろした。二人が避けた後の地面は揺れて、大きな拳型にへこんでいた。


「おい! どこが温厚なんだよ! いきなり助走付けて殴り掛かって来たぞ!!」


「あの表情、おそらくあの者には何らかの方法で理性というものを無くしておるの

 でしょう。もはや会話も成立しないかと」 


特別室でガーメッツはニタニタと笑いながらセクス達の戦いを観ていた。


「グヒュ。デストロには精神操作魔法や肉体強化の薬品を大量に使って心を壊して

 ある。奴はもう儂の命令しか聞かん。かなりの金はかかったがおかげで最高の

 殺戮マッシィーンが手に入った。奴ををチャンピオンに据えていれば儂は安泰よ」


ガ―メッツは侍らせている奴隷の女の尻を撫でながら葉巻をふかす。


「男の方は別にどっちでもいいが、レスタは殺すなよ。エノレフ族はレアだからな。  

 奴隷にしてやるのだ。グヒュ」


舞台ではセクスがデストロとの戦いが続く。


「があああああああ!!」


「おいおい、何かコイツ俺ばっか狙ってねーか?」


「セクス殿、避けて下され!!」


 セクスの背から現れたレスタは刀でデストロの腕を切りつけた。

チャンピオンは「うがああ」と叫びながら腕を押えながら仰け反る。


「よし、ナイスだ!!」


セクスも続いてデストロの懐に素早く入り込むと、わき腹を剣で切り裂いた。


「ぎゃあああああ!!」


デストロが傷口を押さえながら片膝をつく。


「ふん、最強種の一角らしいが…あたおか状態で俺とレスタちゃんが相手じゃ

 この程度よ」


「いや、セクス殿。あれを!!」


 デストロの首輪に付いている真空管の一つの中の液体がデストロの首に注入されていく。すると、みるみるうちに腕の傷と脇腹の傷が癒えていく。そればかりか全身の筋肉が膨れ上がり、一回りデカくなった。


「おもっくそドーピングじゃねぇーかっ!!」


「これはもう試合ではなく見世物だ。ガーメッツという男はこのデストロを

 使って闘技場の今の地位に上りつめたのだろう」


「があああああ!!!!」ドオオオオオオン!!!!


 セクスを狙ったデストロの渾身の拳が地面を砕く。闘技場全体が少し揺れるほどの威力だ。


「うおっ! これはさすがにめんどくせぇな」


「……セクス殿。少しの間、時間を稼いでくれないか」


「何か策があんのか?」


「…実は拙者には他の者が真似できない妙技を持っている。形あるものは勿論、

 形を持たないものも拙者が斬ると念じたものは目視出来れば、どんなものでも

 斬ることが出来るのだ。これを拙者は「斬」と呼んでいる」


「あ? お前もエクストラスキル持ちだったのかよ」


「…だがまだ拙者が未熟故、この技を放つ為にはしばし気を練る必要がある」


「その時間を俺が稼げってか? ……上手くいくんだろうな?」


「愚問」


そう言うとレスタは目を閉じて深く深呼吸をし、居合切りの構えをとった。


「いいだろう。 一つ貸しにしといてやる。 おいデカブツ! 遊んでやるぜ!!」


セクスはデストロに向かっていった。


一方、リタとココットも行動を起こして観客用の外周通路を移動していた。


「ちょ、ちょっとリタちゃんどこに行くの!?」


「先ほどの魔法モニターに映っていた女性…彼女がメメイさんです。セクス様は

 彼女を人質のされて今戦っています。ですが人質がいる限りセクス様は本気を

 出せません。それでなくても今は力も弱っているので、このままでは負けて

 しまいます」


「いや…人の奴隷に勝手に手を出したセクスさんの方が悪いと思うんですけど…」


「なのでメメイさんを助けてセクス様の憂いを無くします」


(え? 無視!?)ガビーン


「このまま彼女がいる所に乗り込んで助けます。おそらく魔法モニター下にある

 VIPルームにいるはずです。行きましょう!!」


(しかも同行は強制!?)ガビーン


 しばらく進むとVIPルームに続く通路に辿り着く。そこにはグランサンの黒服の男が二人立って道を塞いでいた。


「…で、どうするのリタちゃん?」


「このまま進みます。正義は我らにありです」


「ノープランかよ!!」


ズンズンとこちらに向かって歩いてくる二人に黒服達が気付く。


「…おい、ここからは関係者以外立ち入り禁止だ!!」


と、警告をしても二人は無視して向かってくる。


「警告無視。女子供でも容赦をするな。撃て」


黒服たちはリタたちに人差し指や、手のひらを向けた。


「ファイアボール!」

「アイスショット!」


 ――この世界の魔法もスキルの一種である。「〇〇操作」というスキルで〇〇に火や水などが入る。そして操作系スキルには1~3までのランクがあり、1は初級、2は達人、3は伝説級とされている。ちなみに黒服たちが使った魔法は初級である。


「リタちゃん危ない!!」


「ココットさん!?


 すかさずココットが前に出て、身を挺して魔法からリタを庇った。全ての魔法が

ココットに命中し、炎と氷の魔法のせいで辺りは水蒸気で包まれた。




 

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この英雄、色を好みすぎる!! 犬雑炊 @korokoro0811

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