第7話 試験開始

 試験会場では既に案内が始まっていた。この試験で示すのは霊力量と操作能力だ。人間は誰しも霊力を持つことがわかっているが、操作できる人はそう多くない。


「なんで霊力の総量がわかるんだろう?」


「ああ、この試験は別に総量を見るわけじゃないわよ」


「えっ、そうなの?」


「問題ない範囲で霊力を流し込んで、最低限の反応をしているのか確認するだけ」


 霊力量を測るというのは総量だと思っていたので驚きの事実だった。

 沙織が言うには、そろばんのように玉がついている術具が垂直に置いてあるそうだ。霊力を流すと下に揃っている玉が上に動き、その個数で実戦に使えるかどうかを判断しているらしい。


「結構簡易的というか、本当にそれでわかるの?」


「合格ラインでも数体の餓鬼は倒せるわ。だから全く問題ないわよ」


「量よりも術の選択とか発動速度の方が重要だからね。師匠と戦うと実感するよ……」


 二年間戦っていないが、二年前はボコボコにされた。懐かしい日々を痛い記憶と共に思い出した。


「次の受験者番号、八一番から九〇番までお入りください!」


 自分と沙織の番号が呼ばれたので腰を上げた。中に入ると病院にあるようなカーテンの仕切りがあり、その中で試験を受けるようだ。


「では、端から番号の若い順に入ってください。その後、担当試験官から案内があります」


 自分の手元にある番号を確認し、『八五番』なので五番目の仕切りの中へと入った。中には一人の男性がおり、座るように指示された。机の上には沙織から聞いていたものと同じ術具が置かれている。


「では、この術具の下に触れて、霊力を流し込んでください」


「はい」


 淡々と流れ作業をするかのような言い方で、個人的には機械を相手するかのようで気楽にできそうだ。言われた通りに手を当て、霊力を流し込む。


「おっ」


 縦に連なっていた十個全ての玉が、勢いよく上に打ち上げられるように飛び甲高い音を立てた。このまま霊力を流し続けたらどうなるのか、という好奇心が胸に芽生える。そこに早口で焦ったような声が遮った。


「霊力ストップでお願いします!」


「わかりました」


 追加で注ごうかと思ったが、試験官に止められてしまった。焦っていた試験官は安心したのか、大きくため息をついている。


「体調に問題はありませんか?」


  そうか、と納得する。霊力は体内から減ると体調を崩すし、無くなれば最悪死ぬ可能性もある。

 この試験は無理すれば体調を崩して次に進めないのだ。無理に実力に見合わない数の玉を動かそうとすれば自動的に足切りされる。言外に調子に乗るやつはいらない、と言われているようで気が引き締まった。


「はい、問題ありません」


「わかりました。では合格ですので、あちらの扉の中で待機をお願いします」


 そのまま扉の向こう側へと入ると、すでに沙織は中にいた。他の受験者もいるようだが、最大で九十人いるはずの室内には五十人前後しか見当たらなかった。


「無事に合格したようね」


「あれ結構いじわるだね」


 伝えたいことがわかったのか、沙織も苦笑いしている。やはりあの意図に気づいたようだ。


「見栄を張って任務失敗なんて最悪だから仕方ないわ。それよりも何個動かせた?」


「十個全部動いたよ。沙織姉さんは?」


「ちっ、私は九個よ……でもまだ伸びるんだから……!」


 強力な妖怪や悪霊などを倒すと、自身の霊力が上がるのだ。また、年齢的にも現在十五歳。十八歳前後まで霊力は伸び続ける。


「沙織姉さんが伸びるなら俺も伸びるけどね」


 勝ち誇るように笑う。霊力の使い方は沙織姉さんの方が上手なのだ。これくらいは勝ち誇るのを許してほしい。


「ま、私は遠距離主体だからいいのよ。朔の戦い方だとそもそも組める人が限られちゃう」


「そうなの?」


「そうよ。敵の近くで切り結んでる味方に当てずにフォローするってかなりの技術だから、複数人で依頼を受けるときは要注意ね」


 普通の戦い方は遠距離中心で、近づけさせないのが基本らしい。最悪近くまで相手が来たら、刀など近接で応戦する。なので、近接中心という退魔師はかなり少ない。上位層で数える程度のようだ。


「うげっ、じゃあ結構依頼は選ばないといけないのか」


「だから父さんも私たちに依頼を回すって言ったんだと思う。二人で解決できる程度しかこないはずよ」


「そういう意味もあったのか……助かるよ」


 段々と試験を終えた人たちが集まってくる。全てが終わったのか、中の人が百人を越したくらいになると係員が入ってきた。


「皆様、一次試験お疲れ様でした。二次試験の学力検査は十時から二時間行われます。場所は上の階にある大会議室で行われますので、時間までにお集まりください」


 時計を見るとあと二十分くらいあった。そういえば真白はどうしただろうか。次の試験では別室にて待機しないといけないので、そろそろ姿を見せてほしいところだ。


「とりあえず上で待機しようか」


「そうね。別にやることもないし」


 沙織と共に階段を昇ると、真白が係員の人と立っていた。真白はどこか嬉しそうな雰囲気を出している。ただ、隣にいる係員の男性は疲れ切っているように見えた。


「真白!用事は終わったの?」


「おお、朔か!大丈夫じゃ。友人に挨拶しておいただけだからの」


 友人という言葉に首を傾げるが、嬉しそうなので問題ないだろう。自分よりも何千年も生きているのだ。友人がいない方が心配になる。


「ふう……では次の試験中は大会議室の隣の部屋で待機しておいてください。くれぐれも『ご友人』は呼ばないようお願いします」


「わかったのじゃ。手持ちの諸々を手入れしながら待っておるぞ」


 そう言って真白は機嫌が良さそうに大会議室の隣部屋へと入って行った。


「すみません、何かご迷惑を?」


「いえいえ!問題はありませんよ。軽々しく口に出せないのが申し訳ありませんが……はい、問題はありません。では、そろそろ試験の準備があるので失礼します」


「はあ……ありがとうございます」


 そう言ってそそくさとその場を去って行った。口に出さないのか、口に出せないのか。疑問は多々あるが、今は試験前なので気にしないことにした。


「真白はなにをやったんだ……」


「ま、あの様子なら大丈夫でしょう。さあ、大会議室に入るわよ」


 大会議室に入り、自分の番号が書かれた座席へと座る。先ほどのことが気になるせいか、そこまで緊張は酷くなかった。周りの人は参考書を必死に読み耽っている割合が高い。そういう人を見ていると、少し不安になってくる。


「一応目を通しておくか……」


「朔はもう大丈夫でしょう。逆効果かもしれないわよ」


 そう言われて話を振ってくるので、沙織と小声で雑談を続けた。どうやら昼休憩は長いらしく、この施設内の食堂か、外に出て食べてきても良いらしい。真白がいるので食堂になるだろう。


「まあ、昼は食堂かな。真白に何度も我慢させるのは後で怖いよ」


「それは同感ね。食べなくてもいいはずなのに一番食べるのよね」


 二人で笑っていると、試験官らしき人々が入ってきた。前に数名、監視するためなのか後ろにも数名入ってくる。明らかに実力者らしき人もいるので、恐らく現役の退魔師だろう。カンニングで従魔を使っている人を感知するためかもしれない。


「さて、そろそろ試験時間なので皆さん席についてください」




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お読みいただきありがとうございます。体調崩し気味なのでゆっくり更新が続きそうです

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捲土重来の退魔師〜両親を殺した黒幕を探すために妖怪を退治する〜 みずはみけ @shino8298

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