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第1話 朝の道で

 朝は、嫌いだ。眠いし、疲れてるし、お腹が空くし、昨日の後悔と今日の憂鬱が同時に襲ってくる。でも今日は違う、ぶっちゃけワクワクが止まらない。


 今日より、俺蛍光領は“警視庁幻素少年対策課“の“特別対策少年警察官“に任命された。つまり俺は、『奇跡の子供』の一人ってわけさ。世間一般では、単に強い子供としてしか知られていないが、正直その力にはそれに見合った訓練が必要だ。俺らは12歳から、個別の訓練施設で、『幻素』の力を操るための訓練をしていた。特に戦闘訓練は学校が‘無い日は丸一日訓練されることも多くあり正直、辛かった。だがそれも今日からは違う。

 今日からは実践だ、正直2年間毎日のように訓練させられるとは思わなかったが、正直俺はなりたいと思ってこの課に志願している。俺は早くこの時が来ないかと待ちくたびれていたのだ。やっと、なれるんだ。あの人みたいに。


 俺は目を覚ますと、いつもは重く動かない体を素早く起こし、窓を開ける。まだ日の出の時間で、外はオレンジに染まり、朝の風がこの身を優しく撫でるように吹く。

 そして、ゆっくり窓を閉じ、リビングに行く。キッチンで、水を沸かしフライパンに油を引き、卵を割り焼く。パンはトースターで焼き、コップと皿を用意し、コップには麦茶のティーパックを入れる。


「はぁ…眠い。」


 少しワクワクしてるからと言って眠気は変わらない。昨日まで本当に訓練三昧だったからな。トースターの焼ける音、ケトルも時間が経ちお湯が沸き、卵もそろそろ焼けるだろう。火を切り、ケトルからお湯をコップに入れ、トースターからパンを取り出し、目玉焼きをパンにのせる。


 いつも通り静かな朝、親とは2年前家を出てから別居している。国もこの為だけに寮を作ろうとはしない。俺は今は一人暮らしだ。

 だけど、寂しいことは無い。休みが全くなという訳じゃなかったから、定期的に会いに行ける上、電話だってしている、小学生の頃は少し淋しくとも、今は一人が悪く無いと思う。


 俺は、料理を机に運び電子新聞を読みながら食べる。暖かい麦茶の麦の風味が心を落ち使せ、体をあっためる。多分これから忙しくなる。そうすれば、こんなゆったり朝を過ごせないのだろう。だから今は少しでもゆっくりしよう。この時間を大切に。


◇◆◇◆◇◆


「きゃぁぁぁ、誰か。」


 街中で叫び声が響く。女性の声か、少し急ぐか。俺は足を思いっきり踏み込み走り出す。声的に大体800m先かな、急がないと。


「こんな世の中もう生きている意味なんてない。こいつを巻き込んで死んでやる。」


 男は完全に狂乱に満ちた顔をし、周囲も完全に混乱して恐怖を感じて、膝を床に突け、動けない者もいる。


「落ち着くんだ、君こんなことをしても……」


「うるさい、黙れ。お前に何が分かる。」


 周りの一人の男性が諭そうとするが、男は強く言い返す。俺もそろそろ視界に二人の姿が入ってくる。どうやら男はナイフを女性に向けているようだ現代社会では珍しい古典的な犯行、素人か。

 少し、だるいけど……頑張るか。俺はさらに足を速く加速させる。体の中にある『幻電子』を神経により速い速度で流し、体の限界を越える。周りは俺の行動を見て驚きの顔を見せる。


「少年よせ……今は。」


 そして先ほど男を諭していた男性は俺のことを止めてくる。だが俺はそんな生死を振り切り、加速を止めなかった。そして俺はその加速の勢いで跳躍し。


「おい、お前近づ……」


 男の顔を跳び膝蹴りした。そして男の腕を女性から引き剥がし、ナイフを蹴り飛ばし男に追い討ちの腹パンを喰らわせる。

 男はその勢いで倒れ込み、すかさず俺は取り押さえる。


「7時36分。現行犯だ。」


 俺は手錠を取り出し、そして手につける。男は動く気力すらないのか、暴れることもしなかった。


「くそ……警察官かよ。」


「あぁ、そうだ。大人しく捕まっとけ。」


 その後は、こっち専門の警察に連絡し、すぐにパトカーが到着した。どうやら事件が起きた時点で誰かが連絡していたようで、すでに向かっていたようだ。


「宜しくお願いします。」


「くそ……くそ……」


 駆けつけた警察官に引き渡すと男は最後までそう憎悪に満ちた言葉を残しながら連行された。ただし、その足取りは、イラつきすら見せていなかった。恐らく、そもそもそんなに強く出れる人間じゃなかったようだ。


「あの……ありがとうございます。」


 女性が近づいて来てそう言う。そしてその後女性は、そのままもう一台の警察車両で事情聴取へ向かった。トラウマになってなければ良いのだが、まあ今の様子なら大丈夫そうだ。


「少年、まさか君が警察官だったとは。恐れ入ったよ。というか君、まさか?」


「はい、“警視庁幻素少年対策課“の……」


「どうりであの速度なわけだ。さすがだ。」


 先程俺を止めてきた男性は関心したような顔で言う。まあ、ニュースでも話題になっていたからな、そこそこ知名度がある課だしな。

 そして、周りも少しざわめき始める、元々人が集まってるしな。もうそろそろ向かわないと……


「あっ。」


「どうした少年?」


 俺が時計を確認すると長い針が11を指している。8時集合だからつまり……


「もう、時間だ…..まずい。」


 そして俺は先程と同じように、強く足を踏み込みその場から去った。


「すごい速度だな……感謝すら言えなかった。」


◇◆◇◆◇◆


「はぁ……はぁはぁ。」


 流石に4km全力で走ると息切れは起こす。なんとか、部署のある階までついた。俺は少し息を整える。


「よし、大丈夫だ行ける。」


 訓練は個人だったから、部署の仲間と会うのはこれが初めてだ。緊張しながらも部署の扉をノックする。


「失礼します。」


 そして扉を開ける。もう、時間だ流石に全員揃っているだろう。謝んないと…


「よう、やっと来たか一人目。お前が一人目だ。」


 俺は一人しか部署の中に居ないのを見て、少しこれからを不安に思うのだった。

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Energies Enter Chapter1 @arugon3721

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