チャプター1(合宿編)
第七話 『クラスメイト』
翌週の早朝。
俺はホームルーム予冷前に教室を訪れると予想外の出来事に遭遇した。
ガラリと教室のドアを開けると、普段は挨拶すら交わさない程度のクラスメイト
から好奇心溢れる衆目に晒され…………更には俺の顔を見るや否や男女問わず
各グループごとにヒソヒソと話しを始める。
「見て桐生くんよ」
「おいヒーローの登場だぞ!」
と思ったら直後、別の生徒から声が上がりワラワラと俺の席周辺に人だかりが
形成される。そして――――
「桐生、お前スゲェな! 昨日の試合見たぜ、超カッコ良かったよ!」
「ホントホント。途中妨害してきた上級生もケチョンケチョンにしちゃうんだから」
「あそこは見ててスカッとしたよな」
「そうそう」
「俺は特に最後が好きだったな。隣のクラスの奴との殴り合ってるとこ」
「あれは手に汗握ったな」
「しかも初室上で優勝しちゃうなんて!」
などなど。
それぞれが止めどなく自身の感想や俺に対する称賛といった声を発する。
「お、おう。ありがとう」
今までもクラスメイトに囲まれるような人生を送ってこなかった俺としては、
どう対処していいか分からず、とりあえず相槌と簡単なお礼を口にする。
どうやらかなりの数の生徒が昨日の試合の中継を見ていたらしく、
この学園でのエスぺラルド、その影響力を嫌という程思い知らされた。
結局、彼らの熱は予冷が鳴るまでは冷めることがなく。
それからも話すキッカケができたおかげか、多少なりともクラスで打ち解けること
が出来始めたように思える。
「随分と人気者になっているみたいですね」
休憩時間。
クラスメイトからの質問や絡みから逃げるようにしてやってきた人気の無いベンチ
でいつの間にか隣に座っていた都島凛が呟く。
「みたいだな。――――というかお前、何故ここにいる」
「ふふふっ…………これでも私は新聞部ですからね。今話題の人物を逃したりは
しません」
「目敏いな」
「目聡い、ともいいます」
「…………」
「というかそもそもどうして俺なんだ。虎崎とは幼馴染だし同じクラスなんだから
そっちの方が取材しやすいだろ」
「謙吾とはいつでも会えますからね。それよりもやっぱり優勝という二文字は
大きいですよ」
「話題性か」
「はい。話題性です」
都島は悪びれる様子もなく元気よく答える。
「正直、俺はあんまり目立ちたい方ではないんだがな…………」
「あらそうなんですか。でも写真写りは良いみたいですね」
そう言って彼女はベンチの近くにあった掲示板に張られた、
新聞部製作の学園新聞を見つめる。ちなみにその記事を執筆名には
しっかりと『都島凛』と記載されていた。
「あれのおかげでいい迷惑だよ」
「そう言わないでくださいよ。我ながら初めてにしては良い出来だと自負している
んですから」
「そういえば虎崎の方はどうなんだ? あいつもやっぱり注目されてるんだろ?」
「ですね。ただアイツの場合は桐生さんみたいに愛想がいい方じゃないから。
変わらずツンケンしてますよ」
「ははっ、それは何とも虎崎らしいな」
その光景が優に想像できる、まさにアイツのイメージ通りの話である。
「しかもあれで内心、相当悔しがってるでしょうから今日はいつも以上に
不機嫌そうでした」
「それは、何というか。巻き込まれたくはないな」
虎崎は明らかに自身の腕に自信があってプライドが高いタイプ。
苦勝とはいえ一度黒星を付けた俺に対しては、遠からずリベンジを持ち掛けて
くるだろう。
「(実際、昨日の祝宴会では「次は勝つ」なんて言い放っていたからな)」
ハッキリ言ってそういうのはとても面倒くさい。
何故なら俺の目的は青柳星那先輩とお近づきになることなんだから。
「ちなみに、桐生くんはハウンズって知ってる?」
「ハウンズ? なんだそりゃ」
「あーやっぱり知らないんだね」
その返答に都島はやれやれといった感じで肩を竦める。
「教えてくれ」
「うーんじゃあ教えてあげる」
「桐生くんも知っての通り、この学園のエスぺラルド会場は全部で五つあって、
それぞれの生徒が自分に合った会場に所属しているでしょ?」
「あぁ」
「けど中にはどの会場にも属さない逸れの人達もいるの。そしてそういった人達を
取り纏めているのがハウンドってグループなの」
「それってエスぺラルドのルール的には問題ないのか?」
「それに関してはそうね。ハウンドのリーダーの人徳あってこそかしら」
「へぇ」
問題児たちの集まるこの学園で好き好んでエスぺラルドに参加する人種。
そこから更に組織に属さない奴らを取り纏めるハウンド。
それだけ聞くとそのリーダーという人は相当なやり手であることが伺える。
「なんだか危なそうな奴らだな」
「いいえ。むしろ逆よ」
「? ――――どういうことだ?」
「いい。エスぺラルドで会場に所属できるってことはそれ相応の実力がないといけ
ないの。エンタメ的にね。対して逸れの人達の殆どは勝率の低い、もしくは
そこまで試合に意欲的じゃない選手ばかり。だから群れを作るの」
「故にハウンドか」
「そういうこと」
「(ということはつまり、ハウンズはポイントは欲しいが自分一人では勝ち目が
低い、みたいな奴が集まるグループということか)」
とするならば確かに徒党を組んでいるとはいえ、脅威とは言い難いのかも
しれない。
「ちなみにもう既にハウンドも新入生獲得に向けて勧誘を始めているみたいよ」
「あーそれなら確かに。少し前に俺も声を掛けられた気がするな」
全く興味がなかったから適当にあしらったけれども。
「それって祝部奈緒さんと荒木京助くんでしょ?」
「そうだ。ほんとよく知ってるな」
祝部奈緒と荒木京助は俺と同じクラスに所属しているクラスメイトであり、
二人とも社交性が高い性格をしている為か今までもよく話しかけてくれていて、
そういう事情も相まってクラスの中でも割と話をする二人なのである。
「桐生くん、折角の選手仲間なんだから仲良くしといた方がいいですよ」
「余計なお世話だ」
そうして俺は食事を済ませるとベンチから立ち上がりその場を後にした。
問題児たちはまともな青春を送れない 諸星影 @mrobosi_ei_0321
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