第2話 プロローグ2

 「四季音さーん、ごはんですよー」


 刻子が呼びかけると、部屋の中からごそごそと何かが動く音がした。やはり寝ていたらしい。しばらくするとまた静かになってしまった。「四季音さーん!」今度はさっきよりも大きな声で呼びかける。「…へーい…」中からやる気のない返事。少しの間の後、部屋の扉が開いた。


 「四季音さん、ごはんですよ」


 「ごめんごめん……もうそんな時間なんだねえ……」


膝上程まである大きいTシャツに、ズボンは…履いていない。髪もボサボサで、絵に描いたような残念美女。一年も経つのにごはんの時間を覚えられないこの人が、四季音さん。私を人。


 「みんなでごはん食べるのって、楽しいよねえ…」


ふにゃふにゃと眠そうに食卓へと向かう四季音の後を追いつつ、刻子はふと思った。私が来る前って、みんなどうしていたんだろう。ごはんの時間もないし、下手をすれば何日も、顔すら合わせることなく過ぎてしまうんじゃないだろうか。ただでさえ自由過ぎるくらいの人たちなのだ…。


____



 「今とそんなに変わらないと思うわ」


 「でも、私に合わせて、みんな生活してくれてるじゃないですか?」


 食事の後は、華箭の部屋で勉強をする。と言っても毎日ではない。華箭から呼ばれたり、逆に刻子が本を読みたくなったときに声をかけたり、気ままにやっている。今日は、さっきの質問をするため、刻子の方から押しかけた形だ。


 「ごはんのときに聞いてみたらよかったじゃない」


 「四季音さん、寝ながらごはん食べてたじゃないですか。あれじゃ聞けないですよ。縁さんも四季音さんのお世話してるし」


 「まあ、確かに…。あんなに眠そうなのは珍しいわね」


 「というわけで、華箭さんに聞いてみようかなって」


 「そう言ってもねえ…」


 華箭は考え込んでしまう。刻子が来る前から、3人はもう長いこと好きに生きていた。確かに今は刻子に合わせていることも多いが、みんなが好きでやってることに変わりはない。今の刻子に、特別聞かせたいようなこともないのだ。


 「私は専ら読書をしていたかしら。四季音は寝てるか外を歩き回ってるか、かな。縁はいろいろやってたけど、熱しやすく冷めやすいってところね」


 「…今と変わらないですね」


 「だからそう言ったじゃない!……あ、でも一緒に行動することも多いのよ。仕事もそうだし、四季音の冒険に付き合ったりね。あなたを見つけたときみたいに」


 「冒険の話、聞きたいです!!」


 「そうね、いいわよ。ただし……」


 華箭が何を言おうとしているかは、特別な能力のない刻子にも容易にわかった。そして、今日は話を聞く望みがないことも……。


 「宿題を終えたらね!」

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刻の住む町 角千代 @kakuchiyo

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