刻の住む町

角千代

第1話 プロローグ1

 この町に住んで1年が経ち、わかったことがある。ごはんが必要なのは私くらい。空を飛べないのは私くらい。勉強が必要なのは私くらい。みんなと違うのは私くらい。


 人間は、私くらい。


____



 「ごはんできたよー」


 下の階からゆかりの声が聞こえ、刻子ときこは考えるのをやめた。はーい、と返事をして階段を降りる。とくに深刻に考えていたわけではない。もう慣れっこだ。でも、私が目覚めてすぐの頃はいろいろ大変だったらしい。みんなが飛んでいるのを見て屋根から飛び降りた、とか、ごはんを全然食べなくてどんどんやつれていった、とか。あんまり覚えてないんだけどね。それに、今はみんなが一緒に食べてくれるから、ごはんは楽しい時間の一つになっている。


 「勉強は順調かい?」


食卓に着くなり華箭かせんが尋ねる。刻子は、えへへ、と笑いながら席に着いた。

 

 「まったく、最近たるんでるんじゃないか?」


 「ほらほら華箭ちゃん、ごはんのときに勉強の話はしないの」


うんうんと頷いて、縁に100%同意する。まったく、華箭さんは相変わらず厳しいなあ。まあ、確かに最近、宿題がおざなりになってるような気も、しないことはないんだけど。

 

 この二人、縁と華箭は刻子の今の家族だ。縁はやさしくてふわふわしていて、毎日おいしいごはんを作ってくれる。見た目も刻子と大して変わらない。大きなふさふさの尻尾があること以外は。対する華箭は、刻子に厳しい先生だ。口うるさいときもあるけれど、何もわからない刻子にいろいろなことを教えてくれている。こちらは見た目も刻子とおんなじで、人間にしか見えない。でも、実はとっても長生きで、センニンというんだと、華箭が教えてくれた。全然違う性格の二人だが、刻子は二人が大好きだった。そして、もう一人いるはずなのだが……


 「四季音さんが来ませんね」


 「寝てるのかも。刻子ちゃん、ちょっと見てきてくれる?」


縁に言われて気がついた。そうだった。私がこの1年でわかったことがもう一つある。


 ―――四季音さんは、いい加減だ

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