第5話 エンジのオーバーパワー
ひとまず、ドラゴンが産まれた経緯が分かったエンジ。次に気になったのが、洞窟を塞いでいた大岩だ。
「お前、あれどかしたんだよな?重くなかったか?」
「え?ううん、重くなかったよ」
ドラゴンは首を横に振って、大岩の所に向かう。そして、両手で軽々と持ち上げてしまった。
「ほら!軽いよ!」
「……」
エンジはムッとしていた。森のボスとしてのプライドが刺激されたのだ。それは、単純な負けず嫌いだった。
もちろん、相手は自分とは比にならないほどの桁外れの力を持っていることは承知している。しかし、そのくらいなら俺でもできる、と思う自分もいたのだ。
「おい、その岩ちょっと貸せ」
「うん、いいよ」
ドラゴンが大岩を下ろすと、エンジは両腕で抱えて持ち上げ始めた。
「ふんがぁぁあ!!」
すると、岩の底面が少しだけ持ち上がった。
「ぐっ、くそ……、やっぱ重い……」
しかし、これ以上持ち上がらなかった。そんなエンジを見たドラゴンが目を輝かせる。
「うわぁ〜、かっこいい……!」
「んぎぎぎぎっ……!!」
エンジは息を切らせつつも、大岩を持ち上げようとしていた。するとドラゴンは大きく息を吸い込み、全力で応援した!
「エンジ頑張れぇぇ!!!」
ボゴォオン!!
「ぐおっ!?」
その時、突然重かったはずの大岩が軽々持ち上がったのだ。急の出来事にバランスを崩しかける。
「おわっ!?なっ、なんだ!?」
エンジが驚いていると、自分の身体の違和感に気づいた。そして、視線を大岩から自分に向けると、
「な、なんだこりゃあ!?」
自分の筋肉が数倍以上に膨れ上がっていた。元から太かった腕はさらに極太になり、胸の筋肉もはちきれんばかりに膨らんでいた。腹筋も見事に割れていて、背中にも巨大な筋肉の膨らみがあった。
あまりにも筋肉が肥大化し過ぎて、自分の頭が筋肉で埋もれ、位置も肩よりも低くなっている。
さらに、肩幅も倍近く広がっていて、巨大な腕は筋肉質すぎて真下に下ろすことができない。
「おお……、どうなってんだ?これが俺なのか……?」
身体中から無限に力が湧き出てくるような感覚にエンジは心底驚きながらも、冷静に分析を始めた。
この変化は、ドラゴンが大声で声援をかけた瞬間に起きたこと。となると、ドラゴンは応援と一緒に強化魔法もかけたのだろうか。
しかも、このドラゴンの力は膨大だ。強化魔法の効果も絶大だろう。つまり、ドラゴンの強化魔法を受けたエンジは、通常の数十倍の力を手にしていることになる。
しかし、なぜドラゴンがそのようなことをする理由があるのだろうか。エンジには見当もつかなかった。
しかし、すぐに答えを知ることになる。
「おお!すごい!ムキムキだぁ!どうやってやったの!?」
そう。このドラゴンは無意識だったのだ。エンジを応援したいがあまり、一緒に強化魔法も送っていたのだ。自分がやったことも知らず、ただエンジがすごいと思っているようだ。ドラゴンはエンジの姿を見て喜んでいた。
「お前、応援と一緒に魔力まで送って来やがって。それでこうなっちまったんだよ」
「え、そうなの!?」
ドラゴンは自分のしたことだと知ると、驚いた様子だった。
「……嫌だった?」
「……全然。むしろこっちの方がいいな。いかにも強そうだし、実際強いしな」
エンジが腕を曲げて力を籠めると、ボゴッと音を立ててさらに盛り上がる。
「へへっ、これこそボスって感じだな。ライドにもこの姿を見せてやりたいぜ」
エンジは嬉しくなり、何度か筋肉を膨らませて優越感に浸る度に、その様子を見ていたドラゴンも一緒に喜んでいた。
その日の夜、エンジは元の姿に戻っていた。どうやら強化魔法は一時的な物だったようだ。もちろん永続的に強化させることも可能だったのだが、あの時のドラゴンの強化魔法は無意識だった故に、効果時間を決めていなかったのだ(効力の方はエンジを応援したいがために絶大だったが)。
「エンジ。また魔法かけてあげようか?」
「いや、要らねぇ。今度は俺様の力だけでできるようになりてぇし、お前に頼りっきりじゃボスのメンツが丸潰れだ」
「そっか……。かっこいいのに……」
ドラゴンは残念そうにしていた。それを聞いたエンジは少し照れたように頭を掻いていた。
「今日はお前のお陰で俺様の理想図がはっきりした。俺様も修行して理想に近づけるようにしねぇとな!」
エンジは拳を強く握り締めて、自分の胸を強く叩いた。
ドゴォン!!
エンジのドラミングが部屋に響き渡る。
こうして、エンジとドラゴンの共同生活が始まったのであった。
エンジの森の最強ドラゴン ちゃむ @BulkieCharge
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