第2話 過ちは繰り返される

 私は藤井雫。空波からなみ高校普通科二年生。部活には所属しているけど幽霊部員だ。元々、幽霊みたいに曖昧な部活動だったけど。


 普通科には四つのクラスがある。私のクラスは二年四組。ちなみに一年のときも四組だ。

 この学校では四組には、成績こそ悪くなくとも問題のある生徒が集まる。

 そんな風に言われているが、これは根も葉もある噂で、事実に沿った真実だ。

 不良生徒たちを矯正するためのクラス、なんてつまらない言い方をされたりもする。

 それでも悪いところばかりではない。

 たとえば、前の方の席に座っている才原さいはらまい

 彼女は次期生徒会長の第一候補だ。

 〈完璧〉と呼ばれる現生徒会長に一番近い生徒。


「完璧ていうのは生物として理想的な姿であっても、人間としてはむしろ落第だよね」


 後ろから聞き慣れた声が届く。


「人間は群れて生きる動物なのに、一匹で物事を完結できるとなると、それはもう別の存在になってしまう」


 奈月はさも誰かと喋っているかのように、独り言を続ける。

 黙っていればまだ可愛げがあるのに。

 完璧な存在。そういうのを人はなんて言うんだっけ。


「神様とでも言いたいの?」


 そうそう、神様。ん?

 振り返ると、奈月と彼女が対峙していた。奈月と舞ちゃんが。

 これはちょっとまずいかも。


「神様? まさか。言うなら悪魔だよ、才ちゃん」


「その呼び方はやめて」


「自分に才能があるみたいだから?」


「……! うるさい!」


 あーあ、言わんこっちゃない。


「まあまあ、落ち着いて舞ちゃん。こんな捻くれ者の言うこと、真に受けなくていいって」


 真に受けちゃった私が言うのもなんだけど。


「そうだ、奈月。今日は中庭でお昼食べよう」


「え? でもまだ才ちゃんと話して――」


「ほら、早く行かないとベンチが埋まっちゃうよ」



 日に日に暑くなるこの時期に、好んで外で食べようとするのは私達くらいのもので、難なく日陰のベンチを確保できた。


「何も舞ちゃんに聞こえるように言わなくてもよかったでしょう?」


「雫がなかなか反応してくれなかったからさ、声が大きくなっちゃった」


「私に話してたの?」


「うん。ついでに才ちゃんにも聞こえたら、とは思ってたよ」


「やっぱりわざとじゃん。それで、悪魔ってどういうこと?」


「そのままだよ。才ちゃんは神様って言ってたけど、完璧ということは間違えないってこと。それはある意味、正義とも言えるね」


 それがどう悪魔と繋がるのだろう。


「こうも〈完璧〉と称されると、順序が逆転するかもしれないんだ。正しいことを生徒会長が行うんじゃなくて、生徒会長のやることが正しい、てな感じで」


 行き過ぎた憶測、妄想にも思えるけど言いたいことはわかる。


「そんな存在が自分と同じカテゴリーの同じ土俵にいると思うと恐怖でしかないね。そんなやつが人間であっていいはずがない」


「もしかして、本当に生徒会長が悪魔だと思ってる?」


「じゃなかったら宇宙人かもね」


 そう軽口を叩いて、私達は昼食を終える。


「つぎの標的は舞ちゃんかと思ってたよ」


「才ちゃんの目標を壊すことにはなるけどね」


 何度も懲りずに彼は、彼と私は、間違い続ける。

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人工関係 大西ずくも @zukumo

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