尾道の坂をのぼれば時かけて

九月ソナタ

旅の思い出

尾道の坂をのぼれば時かけてシネマ見た日のわたしに出会う


蟻と蜂どちら選べと言われたらハチを選ぶわ空翔べるから


黒アリも産んで育てて死んでいく、旅に出ようと決めたその瞬間(とき)


待つことができる賢さ待つことをやめるきっかけ探しての旅


夕焼けに南の山へカラス飛ぶ丸いおめめの子がいるのかい


キシキシと鳴いてよだかが空に消え賢治の童話思い出す夜


ひまわりの映画をきみと見なければ黄色い花の悲しさ知らず


目が覚めてここはどこかと思うかな音もにおいも違う異国で


夕立やミラノの駅はさみしくて映画の別れ思い出すなり


菜の花の黄が霧まで染める刻(とき)テレビで見たり雲南の里


白い道低い霧笛がグーと響(な)き、上だけ見えるオレンジの橋


ビルの間(なか)女がひとり歩いてく夕陽がその顔金色に染め


リギ山は白い沈黙雲ひらきアルプス輝くきみも輝く


カウベルが聞こえる町に友が住む前にリギ山後ろピラトス


アルプスの水を集めてギースバッハ落ちて砕けてまた落ちて散る


アンデスの耳飾りという赤い花ふたつ並んで下を向いてる


浜木綿の百重のちぢれ宵がきて茎をつかんでゆすってみたい


眺めれば醍醐の山に霞たつ桜のあとにうぐいすの声


落ちている桜の中にたたずめば風吹いてきて百枚散らす


四月半(なか)平野神社に来てみればさきがけ散らず雨中で待てり


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

尾道の坂をのぼれば時かけて 九月ソナタ @sepstar

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ