ちくたく

かい

ちくたく

 ちくたくちくたく。

 物音一つしない部屋のなかで、唯一僕の耳に届く音。

 ちくたくちくたく。

 寝付けない僕はその音が気になってしまい、余計に眠れなくなってしまう。

 音の発生源は、壁に掛けている時計だ。

 僕の部屋の時計はいわゆる振り子時計と呼ばれるもので、時計の針がある部分の下に振子がついていて、振子が揺れることで秒針が進む。

 その振子が問題で、通常であれば全く気にならないのだが、周りが静かだとどうしてもその音が気になって仕方がない。

 ちくたくちくたく。

 僕は閉じていた目を開ける。

 今は何時だろうか?

 周囲は暗く、時計なんかは見えるはずもなく、近くにあるはずのスマホを手探りで探す。

 近くに置いておいたはずだが、見つからない。

 ちくたくちくたく。

 僕は少し苛立ちながら体を起こす。

 体を起こしたことで時計が見えるかもと、時計の方を見るが、暗闇が支配している部屋のなかでは見えるはずもなかった。

 僕は少しふらつきながら、ベットから出る。

 ベットから降りようとした僕だったが、左足に力が入らず倒れるように、床に座り込んでしまう。

 大きな音がしたように思うが、僕の耳には振り子時計の音しか聞こえない。

 ちくたくちくたく。

 僕は、座り込んだ姿勢から起き上がろうと顔を上げる。

 僕の目の前に黒い影が立っていた。

 あまりに突然のことに驚いて、声も出ない僕だったが、この時にやっと気がついた。

 これは夢だ。

 ちくたくチクタク。

 夢だと気がついたからなのか、僕の耳に聞こえる振り子時計の音が大きくなった気がした。

 僕は黒い影を手で払うと、部屋の扉を目指す。

 扉の上のところに振り子時計があるのだけれど、近づいてみても時間を確認することはできなかった。

 僕は仕方なしに部屋から出ようと、扉を開けた。



 ちくたくチクタク。

 物音一つしない部屋のなかで、唯一僕の耳に届く音。

 ちくたくチクタク。

 寝付けない僕はその音が気になってしまい、余計に眠れなくなってしまう。

 音の発生源は、壁に掛けている時計だ。

 僕の部屋の時計はいわゆる振り子時計と呼ばれるもので、時計の針がある部分の下に振子がついていて、振子が揺れることで秒針が進む。

 その振子が問題で、通常であれば全く気にならないのだが、周りが静かだとどうしてもその音が気になって仕方がない。

 ちくたくチクタク。

 僕は目を開けて、眼球だけを動かしてスマホを探す。

 見える範囲にはスマホがないようだ。

 仕方なしに、スマホがあるであろう場所に手を伸ばして探す。

 残念ながらスマホは見つからず、僕は再び目を閉じる。

 ちくたくチクタク。

 振り子時計の音が気になって仕方がない。

 こうなってしまうと寝なおすのは少しばかり難しい。

 水でも飲もうかと思い、僕は体を起こす。

 僕の部屋のなかが異常に暗いように感じた。

 ちくたくチクタク。

 眠るときに電気はすべて消すのだけれど、カーテンを閉めていたとしても、街灯などのおかげでもう少し視界は確保できるはずなのだが……。

 普段よりも暗いように感じる自分の部屋に違和感を覚えつつ、僕はベットから出ようとする。

 しかし、ベットから出ようとする僕の目の前に黒い影が立っていた。

 ちくたくチクタク。

 言葉を失い影を凝視してしまう僕だったが、僕の耳に響いている振り子時計の音で冷静になる。

 これは夢だ。

 チクタクチクタク。

 なんですぐに気がつかなかったのだろうかと思ってしまう。

 僕の部屋に振り子時計があったのはずいぶんと昔の話だ。

 僕は影を無視してベットから出ると、部屋の扉に向かう。

 チクタクチクタク。

 振り子時計の音が大きくなったように思う。

 振り子時計に近づいたから音が大きくなったわけではないと思う。

 だって、音は僕の耳の中で響いているのだから。

 僕は部屋の扉を開けた。



 ちくたくちくたく。

 僕の頭の中に振り子時計の音が響く。

 チクタクチクタク。

 振り子時計の音は僕の頭の中で響いている。

 僕の頭の中が揺れているように錯覚する。

 僕は体を起こし周囲を見る。

 部屋のなかは闇に支配されていて、ろくに周りが見えないが、僕の部屋のなかであるためよく見えた。

 ちくたくちくたく。

 僕の部屋のなかにある違和感。

 チクタクチクタク。

 黒いシルエット。

 これは夢。

 ちくたくちくたくちくたくちくたく。

 僕は黒いシルエットに近づく。

 チクタクチクタクチクタクチクタク。

 黒いシルエットは女の子のようであった。

 僕はその黒い女の子を腕で薙ぎ払った。

 初めからそこには何もなかったように黒い女の子は無くなった。

 ちくたくちくたくちくたくちくたく。

 僕は扉を見る。

 チクタクチクタクチクタクチクタク。

 なぜだか、扉はダメだと思った。

 僕は窓に近づくと、カーテンを開けた。



 ちくたくちくたくちくたくちくたく。

 うるさい。

 チクタクチクタクチクタクチクタク。

「うるさいっ!」

 僕は声をあげながら起き上がる。

 頭の中で振り子時計の音が響いて仕方がない。

 ちくたくちくたくちくたくちくたく。

 耳を塞いでみるが音が聞こえ続ける。

 チクタクチクタクチクタクチクタク。

 僕は頭を振るが、そんなことをしても意味なんてあるはずもなかった。

 頭を振ったことで、少し気持ち悪さを感じながら、僕は部屋のなかを見渡す。

 僕はなぜだかいるだろうと思っていた、黒いものが部屋のなかにいた。

 ちくたくちくたくちくたくちくたく。

 僕は黒いものに向かって枕を投げた。

 チクタクチクタクチクタクチクタク。

 黒いものの一つはそれで消えたが、黒いものは別にもいた。

 僕はベットから立ち上がると、黒いものに近づく。

 黒いものに触れようと手を伸ばしてみる。

 黒いものに触れるかどうかというところで、黒いものは消えてしまった。

 ちくたくちくたくちくたくちくたく。

 チクタクチクタクチクタクチクタク。

 頭がちくたくちくたくちくたくちくたく。

 チクタクチクタクチクタクチクタク痛い。

 思考が途切れたように感じた。

 ちくたくちくたくちくたくちくたく。

 うるさくて仕方がない。

 チクタクチクタクチクタクチクタク。

 こんな部屋に居られない。

 僕は扉を目指す。

 ドアノブを縋りつくように掴み、僕は扉を開けた。



 ちくたくちくたく。

 ぼくはちくたくちくたく。

 うるちくたくちくたく。

 あたまがちくたくちくたく。

 おきあちくたくちくたく。

 なにがちくたくちくたく。

 ちくたくちくたく。

 くろいかちくたくちくたく。

 とびらちくたくちくたく。

 ちくたくちくたく。

 開けた。



 ちくたくちくたく。

 ちくたくちくたく。

 ちくたくちくたく。

 ちくたくちくたく。

 ちくたく……。

 ちくたく……。

 ……。

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ちくたく かい @kai2525

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