良い週末へ

おくとりょう

目を開けると

 突然ですが、ここで終わりです。

 始まる前に終わったのではありません。たまたまあなたの目覚めた世界がすでに終わりだったのです。どうかお気を落とさずに。

 ほら、見てください。真っ暗な空。割れた地面に、崩れた建物。世界を覆う植物は黒く枯れ果て、今や臭い泥の皮。すみに流れる七色の水。鈍く鮮やかに輝きます。漂う風に香るのは、紅い錆と乾いた埃。

 そう、ここは終末。いわば、週末。激動の後、平穏の世界という意味では同じことでしょう?いつも必死にお疲れ様です。山あり谷あり、波乱を乗り越え迎えた平穏。おやすみなさい。もう苦痛はありません。

 闇の先には光る星。数多の事件は終わった後。跡にまみれて、後始末。なんて、もうしなくて良いのです。酔って払って、寄ったら迷って。通いの妻に帰って欲しけりゃ、宵の星を探しましょう。


 ――もしも世界に幸福というものがあるならば、きっと不幸もあったはず。怒りに、悲しみ、妬みや、喜び。上塗りできぬ恥や恐れ。憧れていたり、おごっていたり、諦めたかと思えば、愛してみたり憎んだり……。感情に満ちた長い道のり。その先にある、ここが終わり。


 すべての道がローマに通ずるというならば、ローマ以上にローマなのが終末で。

 だって、そうでしょう。王道とは目的という終わりへと向かうものなのですから。

 週末ならば休日ですが、ここは終末。そろそろ、みなさま おねむでしょう?お待たせしました、お仕舞いです。踊って怒って終わりにしましょう。

 不満の雲を繭の代わりに、布団にして。堕ちた理想はほどよい固さの枕にしましょう。空には素敵な走馬灯。世界はもうすぐ眠るので。


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 おやおやおや?そこのキミ、キミ。どうしたの?忘れ物でもしたのかな?

 ふむふむ、なるほど。ひとりぼっちは淋しいものね。それでは内緒の話をしましょう。


 君の目蓋が開いたとき、世界はとっくに起きてます。怒ることなく、傲ることなく。ただただそこにあるだけで。

 始まりなんてあるのでしょうか。終わることはあるのでしょうか。世界はいつまで眠るのでしょうか。眠ることはあるのでしょうか。夢を見るならどんなでしょうか。


 知りたかったら、目を閉じたまま待っていて。寝なくていいから。生きてていいから。私の言葉を信じるならば。

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