第42話 ハッピーエンド

 みんなと別れ、帰り道。

 僕はいつもよりも軽い足取りで歩いていた。このままスキップでもしたい気分だった。なにせ――誰も傷つけることなく、僕たちはゲームから解放されたのだ。


 これから、もしかしたら仲良くできるかもしれない。ゲームという不思議な縁で結ばれた僕たち。それは、奇妙で、けれど素敵なものに思えた。


「あはっ。君、嬉しそうな顔してるですの?」


 声が聞こえた。

 今までの楽しさを塗りつぶすように、ゾクリっと、背筋に嫌悪が塗りたくられる。

 振り返ると、瑠璃色の髪をもった少女が立っていた。


「崎……永遠音……ッ」

「ですよ?」


 永遠音は、お花の形をしたポシェットを肩からかけていた。ふわふわとした足取りで僕の隣に自然と並んでくる。彼女から、僕は距離をとった。


「そんなに警戒しないでくださいよー。ほら永遠音、今回のゲーム、全然全く邪魔していないですし――?」


 それは、戦闘中、頭の片隅でずっと不思議に思っていたことだった。悪魔を退治するという目的のために、歪んだゲームを押し付けるような奴なのに。

「どうしてだ」と尋ねると、


「実はですねー。悪魔退治には、本当にポイントがあるのですよ? 殺して消してしまうより、愛の力で解決! のほうが、天界の評判がよろしいのですー」


 あっけに取られた。そのはちゃめちゃな設定はもとより、僕を焚きつけた理由にも。彼女は世界の平和だなんだと言いながら、結局のところは効率と他者からの評価を気にして生きている。


「青鴉。あなたは見事、本物の『退魔師』になってくれましたですよ? 永遠音は、心の底から感謝を述べます!」


 ニコニコニコと永遠音は笑う。そのムカつく顔面を、一発殴ってやりたいと思った。しかしその瞬間。不意に彼女は僕に何かを放り投げた。

 片手で受け取る。

 それは、もはやお馴染みとなった黒い携帯電話だった。


「パスワードは、みるくが使っているものですよ? それでは、ぐっばーい、なのですっ」


 ひらりと永遠音が右手を振る。

 すると、彼女の体は空気と溶け合うようにして薄くなり、そして消えていった。


「……あいつ、まじかよ……」


 永遠音が消えた場所を、じいっと凝視してみる。しかし、彼女が再び現れるなどということもない。

 だらしなく開いていた口を閉じ、僕は手元を見下ろした。永遠音から受け取った、黒い携帯電話。その電源をおそるおそる入れる。


 ロック画面が現れた。

 パスワードを考える。みるくが大切だと思う人の誕生日。それが、この携帯電話のパスワード。


「『0414』……と」


 自分の誕生日。

 僕は若干照れながら、その番号を入れた。

 ロック画面が解除され、在線が引かれたルーズリーフのような背景に、華やかなオレンジ色のふざけた文字が踊っていた。



『 Congratulations! Happy end.  And more…….』



 ―――― おめでとう! ハッピーエンド。また、どこかで……。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


最後までお読みいただきまして、本当にありがとうございました!!!

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僕と彼女の嘘つきゲーム 愛良絵馬 @usagi02

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