エピローグ SMILE
第41話 ドタバタ
最後の最後でジミィと花蓮が僕達を裏切る。すなわち、脅しに屈しないで約束を破るという展開もあり得たが、彼らはそうはしなかった。
ゲームから帰った僕を迎えたのは、ゲームが始まる時と同じメンバー。
ジミィに、花蓮に、そして都さんだった。
都さんがいるということは、花蓮が約束を守ったということ。花蓮に視線を向けると、彼女は僕の視線に気づき、小さく笑ってうなずいた。
「本当に……良かったのか?」
ジミィが花蓮に尋ねる。彼女は横にいるジミィを見上げた。その横顔は、まるで朝日のように美しい少女のものだった。眠たげな半目の奥が、きらきらと希望のように輝いている。
「あたし達は、手を伸ばせば届くものの為に闘っていた。だから……これで、良かったんだと思う」
花蓮はそれから、不意に僕のほうを見つめた。瞳は大きく見開かれており、テレビ画面そのままの、彼女の笑顔がそこにあった。
「それに、あなたの恋を……応援したい気持ちもあったしね?」
どきんと胸が跳ねた。
「直也――っ」
バンっと勢いよく、非常階段への扉が開かれた。その聞き覚えのありすぎる声にしびれを感じつつ、弾かれたように視線を向ける。そこには、雛乃の姿があった。
切りそろえたばかりの短い黒髪が、あちらこちらに跳ねていて、呼吸が軽く乱れている。彼女は、階段を駆け下りてきたのだろう。
「直也! 直也!」
雛乃が飛び跳ねるように、僕に抱きついてきた。その身体を受け止めようと反射的に手を広げる。しかし、人間一人分の衝撃に耐え切れず、僕はよろけて床に倒れてしまった。
「ありがとう!」
僕の上に折り重なった雛乃が、ぎゅっと首筋に手を回し抱きしめてきた。豊かな胸があたって気持ちが良い。しかし、脳内が桃色になったのは一瞬で、かぁっと一気に体温が上昇した。
「ひ、ひな、雛乃! あの、離れてくれ……っ」
「え? ねぇ、なんで? 直也は私のこと好きなんだよね? 私も直也のことが大好きっ。だから良いじゃな――」
「いけませんわッ! 学生ならば、もっと健全でおありなさいッ!」
僕たちの近くでしゃがみ、ずいっと都さんは、引き裂くように手を広げた。その手に引き離されて、雛乃の身体が浮き上がる。素早く僕は雛乃の下から抜け出して、立ち上がった。身体が離れた僕は、ほっと一息をつく。同時にちょっともったいなさも感じたが。
「ちょっと何すんの!」
雛乃が怒鳴る。都さんはびくんと大きく震えると、素早く僕の後ろに隠れた。その細いては僕の服をつまんでおり、かすかに震えが伝わってくる。先ほどの威勢の良さはどこへやら、すっかり萎縮してしまっているらしい。彼女たちの間で起こったこと(都さんは雛乃に殺されました×2)を考えれば、当然すぎる反応だ。
「ま、まあまあ雛乃。落ち着いて」
「むー……。でも、その女は直紀に告は――」
「あーあーあーッ! 聞こえませんわ! なにも聞こえませんわ!」
「なっ。何、ごまかすつもりなの!? ……いや待てよ。なかったことにするならそれはそれでいっか♪」
「え、え?」
あたふたと都さんが焦ったような顔を浮かべる。その表情をにこやかに眺めつつ、雛乃は「うそうそ」と笑った。
そんな僕らの様子を、
「あはは。モテモテだな、青鴉」
「……あたしも、嫌いじゃない」
「え!?」
「安心して。鈴緒のほうがずぅっと好き……」
「あっそ………………、ありがとな」
花蓮とジミィは、二人並んで笑顔で、穏やかな会話をしながら眺めていた。
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