媒体の強み。健気な主人公

僭越ながら、本作品を拝読させて頂いた上で私が一番面白いと感じたのは、スライムに変化してしまった主人公の語り(地の文)でした。
何が面白かったのかと言いますと、それは主人公がスライムの身体故に感じる人ではあり得ない特殊な感覚や体験、身体の状態を叙述してくれる点です。
簡単な例としては、布に身体の水分が吸われてしまう、液体だから壺に収まると気持ちいい、重いものがうまく持てないといった描写で、ジョブを外している間は人間に戻れるという設定のお陰でスライム時と人間時の対比も際立っていると感じます。
絵や映像を通してではこうした描写を精緻に表現することは難しく、小説という媒体を活かした上で更に文章力に裏打ちされた鮮明で飽きを感じさせない文章だと思います。
逆境にも負けず未知の身体での戦い方を手探りで探す主人公は応援したくなりますし、所々に科学的な描写を交えた文章には説得力もあります。総じて上質な作品だと感じました。
素晴らしい作品をありがとうございます、これからも楽しみに拝読させて頂きます。