朧月薄紅色の風まとい

蒼河颯人

朧月薄紅色の風まとい

提灯のほんのり包むこの街の行き交う人の賑やかさかな


待ちかねて闇の夜空を見上げれば 憂いを帯びた淡い星達


からころと紅い鼻緒の下駄の音 我が胸元の早鐘を打つ


涼しげな清水流るる青柳 しだれ桜の立ち姿かな


宵闇に明かりの灯るぼんぼりがほのかに照らす 君の横顔


せせらぎに枝を伸ばした八重桜 流れる季節ふと立ち止まる

  

出来るならこの手で花を手折りたい 朝ともなれば消える幻


雲低く潤い帯びた星々は 暗闇覆う花吹雪かな


艷やかな髪にさしたる櫛の上に 落ちたる月の影の静けさ


人知れず愛しい君の手を引いて 夜空に浮かぶ月に隠れん

 

許されぬ一夜限りの恋だから 夢を見させて覚めない夢を


朧月薄紅色の風まとい 星のまたたき空の彼方へ


襟足をましろく照らす春の月 静心なく散り惑う花


仄暗い帳の中で櫛が落ちほどけゆく髪たゆたう心

  

あでやかにほころび揺れる花びらはうつむきかけた紅い唇


月明かり羽二重肌の君を愛で 明けてくれるな永遠の夜


限られた尽きることのない時の中こぼれる涙白珠に似て


息ひそめ今宵の熱で咲き誇り月に溶けゆく桜花かな


夜が明けて静けさの中身にまとう服の残り香忘れ得ぬ君


一陣の 風に散りゆく 白き花 我にささやく 「夢は終わり」と

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朧月薄紅色の風まとい 蒼河颯人 @hayato_sm

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