第53話 最終話 さらばトミコ・ダテ! 二度目の……

 ゲミュートに攻撃をして、私は粉々に砕け散った。


「ダテさん!?」


 壊れた私を、マージョリーたんがかき集める。


「ご無事ですか? ダテさん!」


 私のかけらに、何度もマージョリーたんが話しかけた。


「おいダテ!」


「ダテ殿!」


 他のメンバーも、駆けつけてくる。


「ダテちゃん!」


「お気を確かに、ダテさま」


 ヴィル王女とアマネ姫も、私に呼びかけてきた。 


「ダテさんから、魔力がなくなってきています! ゼットさん、どうにかなりませんか?」


『ダメです。自然に魔力が私に戻ってきています。ダテさんは、インテリジェンスアイテムとしての機能を、私に変換しているのです』


 イーデンちゃんの質問に、ゼットさんは冷静に答える。


「じゃあ、ダテさんは?」


『もう、この世界で魂を維持できません』


 マージョリーたんが、「そんな」とつぶやく。


「ダテさん、しっかりなさいまし! こんな終わり方は、あんまりですわ!」


『いいんだよ。交換条件だから』


「なんですって?」


 最終決戦前に、私は女神さまに祈った。

「私はどうなってもいいから、ゴットフリート王子は生かしてほしい」って。

 女神様は渋っていたけど、私がどうしてもとお願いしたことで、承諾してくれたのだ。


 すべてが終わり、脚本家の闇を取り除いたことで、私はお役御免となった。


「そんな。あなたが死んだら、どうにもならないじゃないですか!」


『ムリなんだ。異物は消滅しないと』


 この世界に、イレギュラーはいらない。それは、私も含まれる。

 脚本家だけではなく、私だってこの世界からすれば異分子に過ぎない。


 だったら、全てが終われば消滅するべきだ。


『最初に言ったでしょ? 私は眺めているポジションが一番いいんだって』


 私は積極的に、この世界の住人と接触するのを避けてきた。

 こうなることを、予測していたからだ。

 必要以上に関われば、きっと別れが辛くなる。


『私の目的は、自分が幸せになることじゃない。推しが幸せになること。なのにマージョリーたんは、愛するゴットフリートを失うことを選んだ。私の推しが不幸になるなんて、許せない。なにより私が許さないよ』


 だから女神に願って、自分の命を差し出した。

 どれだけわがままだと言われようと、私は自分の主義を貫く。

 マージョリーたんを幸せにする。

 そのためなら、この命は惜しくない。


「そこまでする価値が、わたくしにありますの? わたくしなんて、あなたからすればただの物語の登場人物なのでございましょう? そこまで入れ込むなんて」


「マージョリーたんたちは、人間だよ!」


 産まれてきたからには、みんな血が通っていて、命が宿っている。作り物だったとしても。


『たしかにあなたたちは、クソったれな脚本家が作った、虚像だよ。でも、生きているんだ。最終的な人格を形成するのは、親じゃない。自分自身なんだ。私はみんなと関わって、ようやく気づいた』


 幸せになる権利は、誰にだってあるのだ。仮初めの命にだって。

 私は、推しを守り通し、推しの幸せを確証して、逝ける。


『心残りがあるとしたら、マージョリーたんのウェディングドレスを見られなかったことかな』


 今度こそ、私は粉々に砕け散った。


「ダテさん!」


 とうとう、マージョリーたんの声も聞こえなくなる。






 

 それから、一二年の時が流れた。

 

「ダテさん! まだぐずってらっしゃるの!? 早く支度なさい!」


「待ってよマージョリーた……じゃなかった。お母様!」


 魔法学校の制服をまとって、私は部屋を出た。母であるマージョリーたんに急かされながら。



 私はどういうわけか、マージョリーたんの娘に転生していた。



「もう、わたくしの娘ながら、誰に似たのでしょう? 前の世界のダテさんって、こんな感じでしたの?」


「うーん。そうだったかなぁ?」


 生前の記憶は、あまりない。生活に潤いがなかったからなあ。ゲームをしていた記憶以外は、ドブに捨ててきた。

 そんな私が、ゲーム世界で推しの娘として再生するなんて。


「父上、ダリア・テレーザ・グレーデン。ここに」


 新たにグレーデンの王となったゴットフリートに、ひざまずく。魔法学校へ入学する前にあいさつをした。


『ダリア・テレーザ・グレーデン』をもじって『ダテ・グレーデン』。これが第二、いや第三の私の名前である。ダリアはマージョリーたんが、ミドルネームのテレーザは、父ゴトフリート王がつけてくれた。


「えらく寝坊だったな、我が娘よ」 


「面目ない。では父上、行ってまいります」


 あのときは、本当に死んだと思っていた。それでいいとさえ思っていたのに。

 女神様は、私をまだ生かしておきたいらしい。

 生き直させてくれたとは言え、なにをさせたいのやら。

 とにかく、今度はゲーム世界への積極的な介入が必要になってくる。


 魔法学校の校門にて、ポニーテールの少女が私に声をかけてきた。


「遅いぞー、ダテ」


「すいませんクリスちゃん、いや、クリス先輩」


 この子は、カリスの孫だ。子どものような背格好のせいで、ついつい「ちゃん付け」で呼んでしまう。


「ダテちゃんはさー、遅刻寸前でも余裕な感じだよねー。大人びてるって感じ」


 クリスちゃんの隣にいるギャルは、私の同級生だ。ヴィル王女と婿養子になったゴドウィンの娘である。


 学校に入ろうとしたら、サイレンが鳴り響いた。


「げー、警報?」


 校門前に、魔物が出現する。


「生徒は避難しなさい! ここはわたしが!」


 ゼットさんを身構えて、イーデン先生が魔物たちに立ち向かう。


「だるいけど、攻撃ー」


 新たな魔王となったフィゼが、後方から魔物に指示を出す。

 といっても、フィゼを含めて魔物たちは全員、長いセーラー服を着た特攻服ヤンキーばかりだ。


「目指すは、魔法学校の学食スイーツ。【ゴマ女】魂れっつごー」


 ゴーマ女学園、通称ゴマ女の連中が、今日もわが校の学食を襲いにきたのである。

 フィゼが魔王になってからは、ずっとこんな感じ。


「先生、加勢するよ!」


「ダテさん! あなたは転生体とはいえ、レベルだって低いじゃないですか! 先生に任せなさい」


「大丈夫!」


 私は背負っていた【魔神の盾・改】を構える。


「一網打尽にしてやる! 【魔神剣マギ・ブウウウゥメラン】っ!」



(完!)

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悪役令嬢ではありません。壁役令嬢です! ~しゃべる盾に転生して、死亡フラグだらけのクソゲーから推し令嬢を守る~ 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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