第52話 大逆転

 魔王ゴーマの正体は、ゲミュートのインテリジェンス・アイテムだった。


「マージョリー、貴様には死んでもらう!」


 ゲミュートと、マージョリーたんとが、剣を打ち合う。


「盾にやどりし地球人、貴様だけは許さん。なんの許可もなく、勝手にゲーム内に侵入するなど!」


『こっちには理由があるんだよ、クソ脚本家! 【魔導剣マギ・ブレード】!』


 光の剣を放ち、私はゲミュートに叩き込む。


 相手も魔王そのものを刃にして、私と斬りあった。


『よくもこんなクソシナリオを!』


「貴様も、バッドエンドを嫌うか!」


『私は、バッドエンドが嫌いなんじゃない。あんたのシナリオがゴミなんだ!』


 別に私は、胸糞悪い結末も、メリーバッドエンドも嫌いではない。シナリオ上しっかりしていれば、ほろ苦い結末も受け入れる。


 しかし、この男の描くシナリオ、テメエはダメだ。


 明らかに恣意的で、誰も幸せにならない。読者も視聴者も置いていき、自分の欲求だけを満たす。


 それをクソと呼ばずして、なにがクソか。


「死にゆく定めのモノを殺して、何が悪い!? マージョリー・ジンデルさえいなければ、イーデンは孤立して居場所がなくなるというのに!」


『どうしてそこまで、イーデンちゃんに固執するの!? あなたは中の人にフラれただけでしょ!? イーデンちゃんの人格は関係ない!』


「ダテさんのいうとおりですわ。我が妹に手をかけようとする輩は、死すべきです!」


 マージョリーたんの剣戟が、ゲミュートの攻撃をすり抜けてダメージを与える。


「ぬううう! あの女は、死ななければならない! 我を愛さない女は、等しく死ね!」


『人一倍愛情に飢えているくせに、一方的な支配しかできない』


「支配こそ、愛だ! 愛することは、すべてを意のままに操ること! 割れに支配されることは、光栄なのだ!」


 この脚本家は、想像以上にヤバいやつだった。


……こんなヤツだから、みんなこの脚本家から離れたのだろう。


 スタッフも、イーデンちゃんの中の人も。おそらく、マージョリーたんの中の人だって。


 おまけに、自身が持っていた良心にさえ見放された。


 今の彼は、歪んだ自意識の塊だ。

 私たちの声だって、きっと届かないのだろう。


「支配されるのを拒否するなら、この世界ごと破壊してくれる! 【増殖】!」


 ゲミュートが、魔王を天に掲げる。


 魔王の身体が膨れ上がり、天井を突き破った。魔王と思しき黒い粘液が、外へと漏れ出す。


「ハハハ! 我の分身が、お前の仲間たちに襲いかかるぞ! お前は、手出しできない!」


「……それは、どうですかしら?」


 勝ち誇るゲミュートに対して、マージョリーたんは不敵に笑う。


「フン、負け惜しみを……なに!?」


 ゲミュートが浮遊して、外の様子を伺った。

 マージョリーたんも、浮遊して外へ。

 その瞬間、半数以上の魔王がイーデンちゃんの【アルカナ・フラッシュ】によって消滅していく。


「ば、ばかな。いくら【神格化】しているからといって、あそこまで連発など!?」


「存じ上げないのかしら? 神格化の本当の恐ろしさを」


 私がメキラに対して言ったセリフを、マージョリーたんが復唱した。

 イーデンちゃんを、カリスが攻撃する。


 マキビシを食らって、イーデンちゃんは瀕死の重傷に。だがそれも、神格化にて瞬時に回復した。


 神格化で回復したイーデンちゃんが、二発目の【アルカナ・フラッシュ】を放つ。また、魔王たちが蒸発した。


「おのれええ!」


 またも、ゲミュートが魔王を増殖する。

 今度は、アマネ姫がイーデンちゃんに突撃した。


 大ダメージを負って、イーデンちゃんは全身ボロボロになっている。しかし、またしても神格化の光によって再生する。三度アルカナ・フラッシュで魔王の群れを壊滅させた。


 イーデンちゃんは、義理の姉であるケフェスを魔王に殺されている。魔王に対して、怒りを覚えていた。アルカナ・フラッシュの攻撃力も、最終戦闘前につけた【不倶戴天】によって、クリティカル率とダメージが増加している。


「忌々しい! 我のシナリオがこうもメチャクチャに!」


『お前の書く滅びの脚本なんて、誰も望んでない!』


 私は、マージョリーたんの足に各パーツをかぶせていく。その姿は、鳥のくちばしに似ていた。


『マージョリーたん!』


「ええ、ダテさん。くらいなさい、【フェニックス】!」


 ゲミュートに対して、マージョリーたんが足刀蹴りの体勢で飛びかかる。

 私は炎の翼をマージョリーたんに背負わせて、さらに加速度を増した。

 クソシナリオを焼き尽くし、すべてを書き換える!


「ぬごおおおおおおおお!」


 マージョリーたんが、ゲミュートの心臓に私を叩き込む。 


「なぜだ! なぜ我が負ける!?」


『キャラクターの性質を、理解していなかったからだよ! キャラクターだって、生きているんだ。お前の操り人形じゃない!』


 一緒に冒険をして、わかった。

 キャラクターは、単なる駒ではない。

 血が通っている。考えもあった。笑い、怒り、悲しみ、泣く。

 自分の人生を、生きているんだ。


「この世界に、あなたの存在は不要です! 物語を狂わせる存在は、滅しなさい!」


「おのれええええ!」


 マージョリーたんが蹴りに力を込めて、ゲミュートを完全に消滅させた。


 

 

 そして、私にも、ヒビが入る。

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