閑話
閑話 聖女と悪役令嬢
前世のユリアは周囲から見るとパッとしない少女だった。だが本人は自己愛が強く、常に自分が一番可愛く、誰より正しいと思っていた。
「モテないのはいい出会いがないから!」
「あんなレベルの低い男となんか釣り合わないわ」
「あの男、女の趣味悪すぎ」
ファッションやメイクに気を使っているわけでもないのに、周りを見下し根拠のない自信に溢れていた。それは転生した後も続いたが、転生後は見た目も能力も一級品だ。中身は伴わないが。
前世では自分以外は皆馬鹿で、自分を理解も評価も出来ない親や教師や友人は全員無能だと思っていた。そしてそんな相手にはいつも攻撃的な態度をとった。周囲は当たり障りのない対応しかしなくなった。彼女の相手をするだけでとても疲弊するからだ。
SNS上で知った情報が全てで、それを知っている自分は世の中の全てを理解している自信があった。自分が興味のないニュースや事柄は世界にとって大して必要のない情報として処理していた。
そして転生後はまさかの自分がやりこんでいた乙女ゲームの世界だ。この世界の事を熟知していると言っても過言ではない。それが彼女の根拠のない自信に拍車をかけることになってしまった。
そうして生まれ変わった世界では、前世よりもさらに全能感で満たされていた。ユリアはとても幸せだった。
ほんの少しだけ、悪役令嬢であるはずのレミリアが悪役令嬢でなかったことが気になってはいたが、それも杞憂に終わった。彼女の思惑通り、悪役令嬢は国外追放になったのだ。
ほんの少しだけ、断罪シーンも違ったが、それも些細なことだろう。結果は同じだったのだから。
だからユリアは確信を強めた。この世界は自分のためにあるのだと。
原作が終わった後のことなど、何も知らないのに。
◇◇◇◇◇
前世のレミリアは社畜と呼ぶのに相応しい働きぶりだった。責任感の強さから終電過ぎまで仕事を続け、休日の電話対応は当たり前、休日出勤もしょっちゅうだった。他人に頼るのが苦手で、何でも自分でやろうとした。
「私が休んだら大変なことになる……!」
上司も同僚も同じように彼女の必要性を口にしていた。前世のレミリアは使命感に近い感覚を持って仕事をこなした。いつの間にか誰の為か何の為かよくわからなくなっていたが。
しかし大きな仕事を受け持っている最中、ついに彼女は過労で倒れてしまった。罪悪感に押し潰されながら横になっても少しも楽にはならなかった。だが、その仕事はどうにかなったのだ。彼女がいなくても。
「私の代わりなんていくらでもいるんだ……」
寂しさや不甲斐なさを感じながらもホッとしている自分に気が付いた。それから彼女は少しずつ自分を改めた。責任感は相変わらずだったので、他人に頼った時はその分他の人の仕事を手伝うようにした。そうやって心のバランスをとるようになった。
レミリアとして生まれ変わった後、また彼女は馬車馬の如く働くことになってしまった。王太子の婚約者としての妃教育も公務も完璧であろうと努めた。前世の記憶も役に立ち、あの辛い日々も無駄ではなかったのだと思うと、今世での辛い日々も耐えられた。家でも学校でも気を抜けなかったが、勝手に師と仰ぐ大賢者と繋がりを持てたことは十分な心の支えになった。
それに今回は目的がハッキリしている。自分の未来の為だ。
やれるだけやって迎えた運命の日、残念ながらがっくりと肩を落とすことになったが、それでようやく吹っ切れた。むしろスッキリとした気分だ。
運命から解放されたレミリアは、高揚感の中、不安と期待で胸をいっぱいにし、飛竜にまたがり飛び立った。
【完結】予定通り婚約破棄され追放です!~せっかく最強賢者に弟子入りしたのに復讐する前に自滅しないで!?~ 桃月とと @momomoonmomo
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