61 洋花の『気』修行

 青龍たちは,洋花の道場に来た。午後だったので,道場生たちのランク 付けの試合をしていた。下位の挑戦者が,上位の者に挑戦するという仕組みだ。


 だが,最近の道場生の構成は少々変化していた。大勢の軍隊がこの町を包囲しているが,非番の隊員たちが,腕だめしにこの道場に来ていた。運隊たちは,全国から腕自慢の人材が集められている。そのため,このしがない空手道場にもかかわらず,国内のトップクラスの空手自慢の連中が,新規道場生として参加していた。


 そこに,青龍たち3名が顔を出したという次第だ。 


 ランク付け試合を仕切っているのは,この道場の高弟であるナガトだ。空手4段の腕前で,『気』の修得も視野に入れて修練している。


 上座に空手着をした洋花が座っていた。


 ナガト「えーっと,数日前から,急に道場生のレベルが大幅に上がってしまいました。そこで,すでに他流派で段位を持っている方は,その段位を尊重して,試合することなくランク付けをしたいと思います」

 

 ナガトは,新規生に自分の段位の自己申請をさせることでランク付けをしていった。


 隊員X「俺は,隼流空手道場で5段位を持っている」

 ナガト「5段ですか。では,ランクは3番とします。ちなみに,1番は道蔵師範で,2番は洋花師範代理です」

 隊員X「では,洋花師範代理に挑戦すれば,2番になれるのかな?」

 ナガト「はい,その理解で結構です」

 隊員X「師範はいないようだが,俺が2番になれば,この道場の看板を奪ってもいいということかな?」

 

 ナガトは,洋花の顔を見た。彼女は,こんな道場,潰れても惜しくはないと思っている。場所貸しの料金で運営していけばいいから,誰がトップになろうが気にしない。


 洋花「その理解で結構です。わたしに勝った人は,自由に看板を変えてください。ただし,それに関わる費用は自己負担でお願いします」


 その話を聞いて,隊員Xはニヤニヤした。彼は,ペンキで上書きすればいいだけのことだと思った。 


 この日は,他に隊員が3名ほど来ていた。いずれも他流派の空手の有段者で,隊員Y2段,隊員R3段,隊員K4段の腕前だった。それぞれ,ランクを13番,9番,6番になった。

 

 隊員たちの自己申請が終わった後,今度は,青龍たちの番だ。青龍から自己申請をおこなった。

 

 青龍「俺の名は青龍。武道の神様だ。段位は,,,武芸百般というから,100段としよう」


 たかが12歳のクソガキが,自分のことを武道の神様で100段という言葉に,隊員たちがクスクスと笑った。

 

 隊員X「おい,坊や。冗談もその顔だけにしておけ。試合すればすぐにボロが出る」

 

 ナガトもそう思ったものの,試合すれば済むことだ。


 ナガト「確かに試合すれば分ることなので,申請通り,青龍さんのランクは3番とし,それ以下のランクの人たちは,1番ずつ下げることにします。では,次の方,どうぞ」

 

 次は,ハマルの番だ。彼は剣術使いであって,空手家ではない。それでも,剣術に秀でた腕前は,空手道にも通じると信じている。


 ハマル「俺の名はハマル。青龍様の弟子です。空手としての腕前は,,,そうだな,,,50段だ」

 

 ハマルは,ちょっと控えめに言った。隊員たちは呆れ顔だ。文句を言う元気もない。


 ナガト「・・・,まあいいでしょう。自己申告制ですから。では,ランクの順位は4番とし,それ以降のランクの人たちは一番ずつ下げることにします。では,次の方,どうぞ」

 オミレ「わたし,オミレです。同じく青龍様の弟子です。ハマルさんよりも弱いと思うので,30段くらいにします」


 誰もが,『クソガキのくせに,よくもシャーシャーと30段なんて言えたもんだ』と思ったが,口には出さなかった。試合でコテンパンにやっつければいいだけのことだ。


 ナガト「では,ランクの順位は5番とし,それ以降のランクの人たちは一番ずつ下げることにします。では,試合を始めます。順番が下位の者から希望する相手を選んでください」


 空手2段の隊員Yが,青龍に試合を申し込んだ。


 隊員Y「青龍君,わたしと試合をしてもらえるかな?」

 青龍「俺に挑戦するには,弟子のハマルを倒すのが条件です」

 隊員Y「・・・,では,ハマル君,わたしと試合してもらえるかな?」

 ハマル「俺に挑戦するには,妹弟子のオミレを倒すのが条件です」

 隊員Y「・・・・・・,では,オミレちゃん,わたしと試合してもらえるかな?」

 

 オミレには,もう振るべき弟子がいない。


 オミレ「わかりました。試合を受けましょう」

 

 かくして,自称30段のオミレと2段の隊員Yの試合が成立した。


 この空手道場は実践空手をうたっている。急所攻撃は禁じているものの,寸止めはせず,その他の部位への攻撃が許可されている。もっとも,選手は,頭,脚,腕,腹部,胸,胸部側面に防御具を装着しているので,仮にクリーンヒットしたとしても,大事には至らない。


 オミレは,体の動きが悪くなるからと,一切の防護具の着用を拒否した。審判の役目であるナガトは,怪我しても自己責任ということを了承してもらって,オミレの防護具の非着用を認めた。


 隊員Yとしても,15,16歳の小娘が防具なしで戦うと言った以上,彼も防具なしとした。


 オミレは5品の強化呪符を使うつもりだ。それを知った青龍は,オミレを呼んだ。


 青龍「オミレ,お前の使う呪符を見せなさい」

 オミレ「これです。5品の強化呪符を使おうと思います。10秒しかもちませんが,敵を倒すのにそれで充分だと思います」

 

 青龍は,その呪符の元になっているのが魔力だと知っている。


 青龍「なるほど。やはり,魔力を念の力で無理やり強化系に転嫁している。でも,魔力の使い方としては効率が悪すぎる」


 そう言って,青龍はその呪符にある魔法陣を植え付けて,それをオミレに渡した。


 青龍「オミレ,その呪符を心臓に一番近い部分に貼りなさい。全身が強化される。この呪符の魔力量だと,強化倍率は2倍,持続時間は1分ほどだろう」

 オミレ「え?2倍で1分もですか? それって,ほんとうですか?」

 青龍「そのための強化魔法陣だ。もっとも,魔法陣としては,初歩レベルのものだがな」

 

 オミレは尊敬の眼差しで青龍をみた。これまで虚道宗で呪符に念を送り込む修行をしていたのが,バカみたいだった気がした。 


 オミレ「はい!じゃあ,わたし,これで無敵になれます!」


 強化呪符を左胸の肌に貼ったオミレは隊員Yと対峙した。審判係のナガトが試合の号令をかけた。


 ナガト「試合時間は3分間です。では,試合始め!」


 この合図と共に,オミレは左胸に貼り付けた呪符を強打した。それが呪符の効果は発動する。


 最初に攻撃を仕掛けたのは隊員Yだ。なにせ日頃から軍部の空き地で練習をしている身だ。空手2段といっても,もし昇段試験を受ければ,軽く3段に昇進できる腕前だ。彼の高速の突き,蹴りの攻撃がオミレを襲った。その攻撃の速度は,今のオミレにとっては,子供の痴戯のようなものだ。オミレの体の動きだけでなく,眼で相手の攻撃を認識する速度も2倍に跳ね上がっている。


 オミレは,軽やかに隊員Yの攻撃を躱して,カウンターで続けざまに,突きと蹴りで彼の横腹と胸を攻撃した。


 その突きと蹴りの威力も2倍に跳ね上がっている。女性の有段者の突きと蹴りが2倍ということは,男性のトップレベルの突きと蹴りに等しいレベルだ。


 ダーン!(隊員Yが蹴り飛ばされて床に激突する音)


 隊員Yは,数メートルほど飛ばされてその場で気絶した。勝敗が決したので,オミレは,再び呪符を強打して発動を止めた。まだ10秒しか発動していないので,残り50秒も使うことができる。


 一方,青龍は,隊員Yの傍によって,審判役のナガトに声をかけた。


 青龍「彼の看護はわたしが見ましょう。多少,医療の心得がありますから」

 ナガト「それはありがたい。では,お願いします」


 青龍は隊員Yを抱いて,稽古部屋の隣に設置してある医務室に連れていった。そこで,彼は,隊員Yの怪我の様子を見た。骨に異常はなく,ただ,床に激突した時に,打ち所が悪かっただけだと判断した。ならば,早速,彼の手首を切って血をいただくことにした。これが青龍の目的だ。しかも,今回は,ちょっと大々的なあら料理をする予定だ。


 オミレの鋭い動きを見た他の有段者の隊員たちは,びっくり仰天した。小娘が男顔負けの速度とパワーを引き出したのだ。しかも10秒も経たずに蹴り飛ばしてしまった。驚愕に値する。


 だが,トップレベルの運動能力を持つ隊員が小娘にやられてしまっては沽券にかかわる。 次に空手3段の隊員Rが数歩前に出た。


 隊員R「小娘,次は俺と勝負だ」

 オミレ「いつでもどうぞ」


 隊員Rは,速攻で蹴り突きの連続技を展開した。だが,それらの攻撃は呪符を発動して2倍速を獲得したオミレには通用しなかった。オミレは,うまく隊員R’の背後に周り,彼の後頭部を強打することで気絶させた。


 というのも,青龍が隊員たちを気絶させてほしいというような目つきをしているが感じ取れたからだ。案の定,隊員Rが気絶したのを見計らって,医務室から青龍が来て,事務的に隊員Rを医務室に連れていった。 

 

 これを見た空手4段の隊員Kは,挑戦するかどうか迷った。その微妙な心理を察知したハマルは彼らに言った。


 ハマル「妹弟子はそろそろ疲れが出てきたようだ。わたしが,あなたたち2人を同時に相手するのはどうかな? 空手4段と空手5段,合わせて9段にしかならない。50段のわたしに比べるまでもないが,ぎりぎり相手してあげよう」


 この売り言葉に隊員Kと隊員Xは憤慨した。彼らは,ハマルの尖った鼻っぱしをへし折ってやるべく,ハマルの提案に同意した。


 オミレは,左胸に貼り付けた強化呪符を取り外してハマルに渡した。まだ40秒ほどの有効時間が残っている。彼はそれを自分の心臓部に当てた。彼も虚道宗の呪符の使い方をよく知ってる。


 ハマルは,若干19歳だ。小さい頃から木刀を振ってきて,すべてを捨てて剣の道をすすんできた。町の剣道の道場ではなく,たまたま縁あって近くに住む剣の師匠に師事した。その師匠は自分の剣技をハマルに教えた。その剣技は殺人剣であり,人を殺すための剣だった。ハマルは,中学の在学中にその殺人剣の技と型をマスターした。自己努力でレベルアップが図れるほどになった。 師匠は,ハマルにこれ以上教えるものはないと言い残してこの世界を去った。


 その後,ハマルは中学を卒業したものの,高校には進学しなかった。中卒の学歴で仕事を探そうとしたものの,まともな仕事がなかった。已むなく,危ない仕事をしている人たちの鞄持ち兼用心棒的な仕事をした。時には,麻薬販売の手伝いもした。

 このような仕事を転々として,最後に行き着いたのが虚道宗での用心棒だ。ここでは,いろいろと面白いことが経験できた。呪符の存在を知ったし,少女を犯し放題という夢の世界まで経験した。そして今はモモカの下僕であり,かつ,青龍の弟子の身分でもある。


 彼らはハマルを蔑すんだ。ハマルはまだ若造と言っていい年齢だ。50段という馬鹿げた段位を,冗談でも言っていい年齢ではない。


 隊員X「よかろう。防具は一切なしでいいのだな?」

 ハマル「もちろん。われわれの試合に防具など不要だ」


 隊員Kも防具なしに同意した。


 ナガト「では,御三方,準備はよろしいですか?」


 隊員X,隊員K,そしてハマルも,軽く顔を縦に振った。ハマルは,すぐに強化呪符を発動させた。これにより40秒間だけ2倍速での動作が可能だ。


 ナガト「では,試合始め!」


 隊員Xが主に攻撃し,隊員Kが補佐的に攻撃するという作戦をとって,ハマルを攻撃した。隊員Xにといっては,空手5段としての強さを示す絶好の機会だ。ハマルの間合いに一歩踏み込んで自分のもっとも得意な正拳付きを放った。


 それを見たハマルは,軽々と体を斜め45度に退いて,両の手の平を合わせて,木刀を持っているイメージで,両の手の平を2倍速で振り下ろした。


 ガッ!(隊員Xの正拳突きをした手首部分に,ハマルの合掌した手の小指側の側面が強打した音)


 ハマルの両手攻撃に,かつ,2倍速で,かつ,2倍もの重たい攻撃に,隊員Xの手首は耐えられなかった。


 隊員X「ううう,,,,」


 隊員Xは左手で右手を庇って,その場でうずくまった。手首を骨折してしまった。試合開始から,ものの数秒しか経過していないのに,隊員Xは戦う気力を無くした。


 だが,ハマルの隊員Xへの攻撃はそれだけではなかった。隊員Xが気絶しないのを見て,すぐに彼の後頭部を強打して気絶させた。


 隊員Xがやられたのを見て,隊員Kがすぐにハマルの横っ腹に回し蹴りを放った。だが,その蹴りはハマルの膝と肘でその蹴りの脚を挟みこんで粉砕した。


 隊員K「ぐわぁぁーー」


 隊員Kの脚は骨折してしまった。そのあまりの痛さに隊員Kは,その場で失神してしまった。

 

 ハマルは,2倍速の威力はさすがにすごいとため息をついた。彼は強化呪符の発動を止めた。まだ20秒も残っていた。


 隊員Xと隊員Kが気絶したのを見計らって,青龍が医務室から出て来て,彼らを医務室に運んだ。なんとも,うまく連携プレーが取れていた。


 ハマルは,空手を修行してきたわけではない。だが,剣を使わなくても,敵に勝つための殺人技を師匠から仕込まれている。そのひとつが『合掌破邪の剣』だ。名前は格好いいが,なんてことはない,両手を合掌の形に合わせて,両の手刀の勢いで相手の骨を断つ技だ。確実に骨を断つ!


 殺人技を仕込まれたハマルにとって,安全な防具で守られて試合をする温床育ちの空手家など敵ではない。


 ナガトは,まさかこんなに早く決着がつくとは思ってもみなかった。オミレにしろ,ハマルにしろ,どうやらレベルが違う強さだと感じた。


 運隊の隊員たちは医務室に消えてしまった。そこで,ナガトは,この後どうしたらいいか,師範代理の洋花に聞いた。洋花は,青龍の弟子たちに『気』を教えるようにと言われている。ならば,一度,ハマルやオミレと手合わせするいい機会だと思った。


 洋花「一度,50段の腕前のハマルさんと,30段の腕前のオミレさんと,試合をしたいと思います」

 ナガト「え? 師範代理自ら挑戦するのですか?」

 洋花「そうです。何か,おかしいですか?」


 ナガトは,なんでそんなことを言うのか意味不明だ。確かに洋花は,空手のセンスは抜群だ。しかし,それは年齢相応の強さでしかない。ナガトと戦っても,簡単に負けるほどだ。それが,どうしてそんなことを言うのか?


 洋花の言葉にハマルが反応した。


 ハマル「師範代理,お嬢ちゃんが負けたら,看板を外してもいいのですね?」

 洋花「はい,結構です。わたし,この道場で縛られたくありませんから」

 ハマル「ハハハ,そうですか。それは,大変結構だ。妹弟子よ,ちょっと相手してやれ。呪符の威力を見せてやれ」


 オミレは,別にハマルの指図を受けるいわれはない。でも,ハマルは歳上だから,この場は彼の顔を立てることにした。ハマルから20秒ほど残っている呪符を受け取って,再び自分の心臓部に貼り付けた。


 オミレ「わたしでよければ,お相手いたします」

 洋花「はい,ではよろしくお願いします」

 ナガト「両者準備はいいかな? では,試合開始!」


 その合図に,オミレは,強化呪符を発動させて,2倍速の連続技で洋花を襲った。

 

 一方,洋花は,得意の気を自分の身体に展開した。これまでは,両腕を大きく旋回して大気の気を取り込む動作が必要だった。しかし,青龍との『双修』を経た今,そんな動作をしなくても,容易に気のパワーで3倍速ができるようになった。


 オミレの2倍速の攻撃は,確かに早くて威力のあるものだ。しかし,その攻撃のすべては,洋花の3倍速の軽やかな躱し技によって,洋花の道着にさえも触ることができなった。


 オミレの加速できる20秒が過ぎてしまった。オミレのアドバンテージが終了した。オミレは思った。洋花はもしかして,モモカ並の化け物ではないのかと。その思いは,ハマルも同様だった。洋花の動きは,人間が到達できるような動きではなかった。


 彼は,かつて虚道宗で,3倍速の動きを見たことがある。7品の強化呪符を使った動きだ。やはり,10秒間しか持続しなかったものの,その動きと洋花が展開した動きが酷似しているように思った。


 ハマル『もしかして,洋花は,強化呪符を使わずに,3倍速が可能ではないのか? それって,霊力なのか?』


 ハマルは,自分の考えを否定した。霊力は,精子と切っても切れない関係だ。13歳のクソガキに,大量の精子を取り込むような度胸などないと思った。となると,,,他に考えられるとしたら,青龍から習う予定の『気』ではないのか??


 洋花としても,事前に大気を取り込む動作をしていないのに,簡単に3倍速の速度が出せるなど,思ってもみなかった。洋花はちょっと顔を赤くした。


 洋花『もしかして,これって,『双修』による効果なの?』


 洋花は,青龍との『双修』の絶大なる効果に驚いた。


 オミレは,洋花に素直に負けを認めざるを得なかった。


 オミレ「洋花,わたしの負けだわ。でも,どうしてわたしの2倍速の攻撃を躱せるの?あなた,いったい,何者?」

 

 この質問に,ハマルが自分の憶測を語った。


 ハマル「ボタンのような霊力とは違うようだ。ならば,青龍が見せたように,『気』の応用ではないのか?」

 洋花「そうよ。わたし,『気』を操ることができるの。青龍から,その極意も教わったわ」

 ハマル「何? それは本当か?」


 洋花は『極意』と言ったことを後悔した。それは,『双修』のことを意味していたからだ。


 洋花「極意と言っても,相手の気を感じるための訓練方法なんだけどね」

 オミレ「青龍様は,洋花師匠に『気』を学んでくださいと言っていました。ぜひ『気』を教えてください! 師匠!!」

 ハマル「洋花師匠,わたしにも教えてください。青龍様は,大変忙しい方なので,わたしたちを洋花師匠から『気』を教わるようにとおっしゃっていました。『気』のご指導をお願いします」


 洋花は,青龍に頼まれていたことなので,『気』の指導をすることにした。


 洋花「わかりました。青龍からも頼まれていましたから。では,今日の午後8時にまたここに来てください。その時に,少し講義をしてあげましょう」

 

 洋花は,オミレとハマルに,自分が体得した気功術を教えることにした。


 青龍は,4名の隊員たちの処置を終了させて,医務室から出てきた。それを見たオミレが青龍に言った。


 オミレ「青龍様,洋花師匠がわたしたちに『気』を教えてくれることになりました。今日の午後8時からです」

 青龍「そうか,それはよかった。では,いったん,お前達は所長邸に戻っていなさい。わたしは,まだ洋花に用事がある」

  

 オミレとハマルは,青龍と洋花に挨拶して道場を後にした。洋花は,道場のことを審判役のナガトにすべて任せて,2階に引き下がった。青龍も,当然のように洋花の後に従った。


 青龍の後ろ姿を見たナガトは,嫉妬心が沸いて彼に声をかけた。


 ナガト「青龍,なんで洋花師範代理の後を追うんだ?」


 青龍は足を止めた。


 青龍「なにか文句があるのかな?」

 ナガト「2階には,洋花師範代理以外,他のものが行くことはまかりならん」

 青龍「なんでお前の許可を取る必要があるのかな?」

 ナガト「貴様! 自分の立場をわきまえろ!」


 青龍は,このままではラチがあかないと思った。ここは拳で勝負するしかない。青龍は洋花に目配せをした。洋花もその意味をなんとなく察知して,ひとりで2階に移動した。


 青龍は,ナガトに向かって言った。


 青龍「では,試合といきましょうか?」

 ナガト「望むところだ」


 ナガトは,軽く体を動かして体をほぐした。


 ナガト「青龍,準備はいいか?」

 青龍「はい,いつでもどうぞ」


 ナガトは,自分の得意技,後ろ回し蹴りを青龍に放った。青龍は,和輝の体に,一切の『気』とか『剣意』を発動させることなく,受けに徹することにした。実践をより多く経験することで,この和輝の体を鍛えるためだ。


 青龍はナガトの得意技を,足のステップと腰の回転によって躱した。ナガトは,得意技を躱されたことに,ちょっと驚いたものの,すぐに速度を上げて,突き,蹴りの連続技に切り替えた。青龍は,腕を使うことなく,足と腰の動きだけで躱すことに集中した。


 ナガトは,自分の攻撃がまったく青龍に届かないことにいらだった。これまで,防御に徹する相手はいたが,両腕で防御していた。しかし,青龍は,それすらもせず,せせら笑うかのように,足のステップと腰の動きだけで躱していった。


 ナガトの連続攻撃は,1分,2分,3分と続いた。その連続攻撃を,青龍はせせら笑うように,足と腰の動きだけで躱し続けた。


 青龍は,心の中でつぶやいた。


 青龍『隊員4名を合体でこの身体に取りんだ成果は絶大だな。何もしなくても5倍速の動きが可能だ。魔力や『気』のパワーをうまく会わせれば,50倍や,もしかしたら,鉄砲の弾さえも躱せる100倍速を達成できるかもしれん』


 ナガトの連続攻撃も,2分が過ぎた頃には,威力がかなり低下してきた。青龍は,そろそろケリをつける頃合いだと感じて,得意の『剣意』を展開をした。


 ナガトの攻撃は,青龍の周囲に展開した剣意の層に阻まれて,その威力が大幅に低減した。あたかも水飴を攻撃しているような感じを受けた。


 その隙を狙って,青龍はナガトの後頭部を強打して気絶させた。そして,彼を医務室に運んだ。



 青龍は,ナガトから血という血を完全に吸い取って死亡させた。その後,吸い取った血を使って,合体魔法を展開した。


 青龍は,ピアロビ顧問の持っている精霊の指輪に囚われている身だ。だが,決して悪いことばかりではない。精霊の指輪が有する特殊な魔法を使うことができる。そのひとつが合体魔法だ。外見は和輝の体のままだが,その肉体は,すでに4名の隊員の体を取り込んでいる。


 青龍は合体魔法によって,ナガトの体を和輝の体の中に融合するかのようにして合体させた。  


 青龍『フフフ,これで5人分の強靭な体を取り込んだことになる。強靭な体を身につけることができた。これなら,『気』の展開も,全力とまではいかないまでも,3割程度のパワーくらいは引き出せるようだ。さっそく洋花を使って試してみるか』


 青龍は,誰に邪魔されることなく2階に移動した。


 青龍は,洋花の部屋でしばらく休息して,体力を回復した後,風呂を浴びてパジャマを着た。洋花もすでにパジャマ姿になって,青龍と『気』を交流する『双修』の準備ができている。


 洋花の本日の道着姿は,片方で1kgにもなってしまったGカップのおっぱいの揺れを抑えるため,サラシを巻いて,その上からTシャツを着て,さらに道着を着ていた。そのため,胸の谷間などまったく見ることができなかった。


 しかし,今の洋花は,下着類をいっさいつけておらず,パジャマ姿だ。Gカップの巨乳がパジャマ姿からでもハッキリと見てとれる。


 青龍は洋花にある質問をした。


 青龍「洋花,お前は,超人になりたいと思うか?」

 洋花「超人?」

 青龍「そうだ。超人とは,鉄砲の弾さえも回避できるほどの運動能力を有する者だ。しかも,仮に弾にあたっても,それを跳ね返すだけの防御能力も有する。そうなりたいと思わないかな?」

 洋花「もちろん,そんな力を手に入れることができたら,嬉しいですけど,でも,そんなこと実現できるわけでもないし」

 青龍「俺には,前世の記憶がある。それによれば,それを可能にする方法が2種類ある」

 洋花「え?2種類もあるのですか?」

 青龍「そうだ。1つめは,霊力というパワーを引き継ぐ方法だ。これは,他人の持つ霊力を引き継げばいい。だが,縁がないとそんなラッキーなことは起こらない。洋花の場合,その縁はないようだ」

 洋花「じゃあ,2つめの方法は?」

 青龍「俺,青龍と『気』を極める方法だ」


 この言葉に,洋花はちょっとガッカリした。


 洋花「言うのは容易いですけど,『気』を極めるには,何年も何十年もかかってしまいます。おばあちゃんになってから超人になっても,ぜんぜん嬉しくありません」

 青龍「それもそうだ,ハハハ」


 洋花は,青龍がまだ何か隠していると思った。そこで,青龍に背もたれて寄り掛かるようにして,青龍の手を自分のパジャマの下から入れさせて,Gカップになったおっぱいを触らせた。


 洋花は,甘えるような声で囁いた。まだ,13歳の身だが,Gカップになって,ヒップ周りも100cmにもなったので,その甘える声も様になってきた。


 洋花「どう?このおっぱい? 気持ちいい? 青龍がここまで巨乳にしたのよ。もっと巨乳にしていいわよ。でも,簡単に超人になれる方法,知っているんでしょう? それを教えて。わたし,青龍のいうことなら,なんでもするし,なんだってできるわ」


 青龍は,洋花のGカップの巨乳を何度も揉みながら詳しく説明することにした。


 青龍「実は,簡単な方法はあるにはある。前にも言ったが,ひとつめは,霊力を引き継ぐという方法だ。ボタンがその方法を実践中だ。

 もうひとつの方法は,『気』を極めた後,特殊な魔道具でそのパワーを何倍にもするというチート方法だ。この方法なら,洋花に適しているし,短期間で100倍速をものにできるかもしれん」


 洋花は俄然,目を輝かした。


 洋花「わかりました! それで100倍速って,何秒くらい,活動できるのですか?10秒くらいですか?」

 青龍「もっと短い」

 洋花「では,5秒くらいですか?」

 青龍「もっと短い」

 洋花「では,1秒?」

 青龍「もっと短い」

 洋花「えーー?もしかして,0.1秒?」

 青龍「もっともっと短い」

 洋花「??」


 洋花は,もう理解が追い付かなかった。


 青龍「0.1秒の100分の1,つまり,0.001秒だ」

 

 洋花が理解不能な顔をしているので,青龍が追加説明した。


 青龍「100倍速といっても,体をわずか1メートルほど,超超高速で動かすだけだ。0.001秒で事足りる。もっとも,事前に,10倍速で体を馴染ませる必要があるから,実質的には,0.1秒くらいだ。

 

 それに,目の動体視力も100倍ほど高速になる。弾丸の軌道さえも読み取れるようになる。超人の誕生だ。だが,まずは,『気』の強化だ。双修で強化する。準備はいいか?」

 洋花「はい!ご主人様!」


 洋花は,よく理解できなかったけど,とにかく『気』の強化が先決だということがわかった。


 青龍は,最初に洋花と手の平同士を重ね合わせて,右手から『気』を送って,洋花の体内を巡らせて,左手から『気』を取り込む『気』の循環を行った。


 その後,青龍と洋花が,お互い全裸になって,体を一つにして,青龍の逸物から『気』を洋花の膣の中に送り込み,洋花の体中を巡って,彼女の口から青龍の口へと戻す『気』の循環を行った。これこそが双修だ。


 洋花は,あらゆる刺激に対して,超敏感になっていった。『気』の巡りと同時に,青龍の膣への絶え間ない小刻みなピストン運動に,永続的な絶頂を感じ,ほとんど昇天状態になった。


 青龍と洋花は,数時間ほど双修を行った後,お互い体を離して,『気』を落ち着かせて平常状態に戻った。


 青龍「洋花,どうだ?『気』の扱いがスムーズになったと思わないか?」


 洋花は,体内の『気』を自分の体表に展開してみた。すると,いままで以上にスムーズに,かつ濃厚な『気』を展開できることがわかった。洋花は興奮気味に言さけんだ。


 洋花「ご主人様!!す,すごいです! 『気』がとってもスムーズに,しかも,今までも何倍も厚みのある『気』を展開できるようになりました!! これって,ほんとうにすごいです!!」


 洋花は感激のあまり,青龍の体に抱きついた。そして,甘い声で青龍にねだった。


 洋花「ご主人様,『気』を強化した後は,特殊な魔道具がいるって言ってましたようね。それって,どこにあるんですか?」

 青龍「今は,オミレが持っている。まだ,機能していないが,そのうち,機能できるようになる」

 洋花「じゃあ,オミレさんからもらえばいいのですね?」

 青龍「そうだ。それと,オミレはある作戦を考えている。それの手伝いもしてやってほしい」

 洋花「はい,ご主人様!」

 

 そこで,青龍は,ニヤッと微笑んで洋花に定番の要求をした。


 青龍「洋花,お前の体は,まだ俺の理想型にはなっていない。さらに,おっぱいを大きくしていく」 

 洋花「ご主人様,ちょっと待ってください。いいものがあります」


 洋花は,台所からステンレス製の串セットを持って来た。100本くらいはあるようだ。バーベキュー用の串だ。仲間内で料理するので豊富にある。


 洋花「ご主人様,この串を使ってください。剣山よりもずっと軽くて使い勝手がいいと思います」

 青龍「おお? 気が利くな。いい心構えだ」

 洋花「だって,ご主人様は,おっぱいを虐待するのが好きなんでしょう?」

 青龍「別に好きというほどでもないが,和輝の霊魂が超喜ぶからな。彼の代わりにしているようなもんだ」


 青龍は和輝のせいにした。霊魂の和輝としても,確かにそのような行為は超大好きなので,文句は言わなかった。


 青龍は洋花を風呂場に連れてきて,彼女の片方で1kgにもなるGカップのおっぱいを串刺しにしていった。


 洋花は,おっぱいが傷つけられる痛みを,すでに快楽として感じた。洋花は自分が,本物のマゾになってしまったんだと感じた。


 Gカップといっても,さほど大きな乳房ではない。片方で1kgくらいの重さだ。片方で15本も刺していったら,もう刺す場所がなくなってしまった。


 青龍は,串を刺した後から血が滲み出てきて,全身血まみれになった洋花に言った。


 青龍「ここまでが限界か,,,出てきた血はもったいないから,今から舐めてあげよう。その後,串を抜いていって,最後におっぱいを回復させる」


 だが,その言葉は洋花には届いていなかった。おっぱいを串で貫かれる痛みが,超快楽になってしまった洋花は,その断続的な快楽刺激に耐えきれず失神してしまった。


 それから1時間後,おっぱいから出た血をことごとく吸って,その血から得た魔力を使って,おっぱいに回復魔法を展開した。その結果,洋花のおっぱいは,片方で2kgにもなるIカップの巨乳に変化した。


 青龍は,洋花の血に汚れた体を洗ってあげて,風呂場から洋花の部屋に運んでベッドに横たわらせた。


 青龍は,洋花の巨乳にではなく,これまで鍛え上げられた優れた肢体を見た。なるほど,この肢体なら,合体というチート技を使わなくても100倍速に耐えることができる優れた肢体だと感じた。


 ひるがえって,青龍が憑依している和輝の体を見た。合体したばかりなので,まだ,完全に融合ができない。青龍も,仮眠を取ることで,体の融合をはかることにした。青龍は,そのベッドで洋花の隣でそのまま寝入った。


 数時間後,洋花が目覚めた。


 その隣に青龍がまだ寝ていた。時計を見ると,そろそろ午後8時だ。オミレとハマルが道場に来る時間だ。彼女は,青龍をそのまま寝かせた。


 洋花は,片方で2kgにもなったおっぱいをなんども自分の手でなでて,ちょっと嬉しくなった。これなら,青龍をこの体で確実につなぎ止めれると思った。


 サラシで,巨乳をしっかりと固定させてからTシャツを着て,その上に道着を着用してから,1階の道場に顔を出した。


 道場では,数人の道場生が自主的に練習していたが,そろそろ帰る時間なので,洋花に挨拶して去っていった。


 ひとりになった洋花は,空手の一連の連続技の型を練習して,さらに豊富になった『気』を展開していった。3倍速はもちろんのこと,5倍速までできるようになった。


 だが,洋花は,『気』の感じ方が,ちょっと違和感を覚えだした。その違和感が何なのかは,今は,よくわからなっかった。でも,『気』とは別物の存在を少し感じるようになった。


 洋花が5倍速の練習をしている頃,オミレとハマルが道場にやってきた。


 洋花は,だっそく,約束通り,オミレとハマルに『気』の概念を一通り教えた後,3人があぐら座りをして,お互いに手を繋いで,『気』を巡らせることを体験させた。


 オミレ「あっ,これって『気』ですか? とっても温かいんですけど!!」

 ハマル「俺も感じる。これが『気』というものか?!」


 オミレとハマルは,初めて『気』というものを感じることが出来てうれしかった。


 このような微量の『気』を展開する時は,洋花は違和感を特に感じなかった。その違和感は,5倍速を展開する時だけ感じるものだった。

 

 一通り訓練した後,洋花は,オミレの仕事の手伝いを申し出た。


 洋花「オミレさん,青龍様から,オミレさんの仕事を手伝うように言われました。どんなことをすればいいのですか?」

 オミレ「え? そうなの? 青龍は今,どこにいるの?」 

 洋花「彼は2階の部屋でぐっすりと寝ています」

 オミレ「あら,そうなの?まあいいわ。わたしの作戦,青龍の了解をとりたかったけど,どうせ,OKでるだろうから」

 

 オミレは, 一息入れてから洋花に依頼した。


 オミレ「洋花,あなた,修道女になりなさい」

 

 洋花にとっては,まったく理解不能な依頼だった。

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第5節 メリルがいく ー月本国編ー @anyun55

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