第4話

「おかえり、ラジュールにラーフェ!」


「……おかえり」



 一応、挨拶だけはしとく。

 紹介はしておこうか。


 赤髪赤目でポニーテル。そして剣バカであるラルージュは火属性の女剣士。

 熱血、そしてナルシストな彼女はアタシの苦手タイプを体現したかのような人だ。


 そしてその隣。

 背が小さく、暗めの深緑の髪にオレンジの目を持つ彼女はラーフェ。

 風属性の魔法使いだが臆病で怖がり。加えて魔法が苦手ときた。しかし頭の回転が速く、人をまとめるのがうまい。指揮官として有望だといえるだろう。

 ラーフェは別に苦手なタイプではないが、なにせラルージュとよく一緒にいる。

 必然的に関わる機会が少ないのだ。



「2人も食べる? 私が作ったチョコタルト。アロアが紅茶も淹れてくれるって!」


「アタシは2人に淹れるなんて一度も言ってないけど?」


「そんなつれないこと言わないでよー。ガイダンスも終わったことだし、親睦会ってことでさ!」


「私、食べたいな。……お願いしてもいい?」


「む、みな食べるのか? なら私もいただくとしよう」


「甘いものが好きじゃないラルージュさんは別に無理しなくてもいいですよー」


「そんなこといわないの。用意したげて? 私も手伝うから」



 ミーテムはアタシの扱いがうまい。


 はあ、と小さく溜息をつきつつ、4人分の紅茶を淹れた。

 残りのチョコタルトはミーテムが用意してくれたようだ。



「みなさーん、できましたよー」



 4人分のタルトをお盆にのせ、リビングに持っていくミーテム。

 アタシはそれに続き、紅茶を運んだ。



「わっ、美味しそう……! さすがミーテムさんですね!」


「紅茶の香りが強いな。ミントのようなすっきりする香りだ。これは何の紅茶なんだ?」


「ウバだよ。あんまり親しまれていないけど、ダージリンやキーマンと並ぶ世界三大銘茶の一つなんだ。メントール系の爽やかな香りと、カップに注いだときにあらわれるコロナリングっていう輝く水色が特徴だよ」


「ほう……」


「アロアは紅茶のことになるとよくしゃべるわよね」


「うるさいよ」


「ふふっ、さ、みんなで食べましょ」


「そうですね、紅茶が冷めちゃうといけませんもん」



 ミーテムに少し不服だが、ここで言い出すのも面倒だ。


 フォークでタルトを切り、口へと運ぶ。

 瞬間、濃厚なチョコが口の中いっぱいに広がった。濃厚で甘いのだが、砂糖を入れた不自然な甘さじゃない。

 タルト生地もしっとりとしていて、チョコの甘さを邪魔していない。

 こんな美味しさを作れるなんて、ミーテム最高。


 美味しさにうっとりしつつも、ティーカップを手に持ち紅茶を口に含む。すると、先程まであった甘さが一気に洗い流され、食べる前と同じ状態の口に戻っていった。

 ああ、ウバを選んだアタシ、天才かも。

 このタルトの美味しさが何度も味わえるんだから。


 他の人たちはどんな反応をしているんだろうと見てみると、案の定美味しさにうっとりしているラルージュとラーフェ。

 そして勝ち誇ったように微笑んでいるミーテムがいた。

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