ミステリーって何でしょう?

栄三五

PSYCHO-PASSと刑事モノ

「PSYCHO-PASS PROVIDENCE」見てきました!!

とにかく素晴らしかったです。

これから視聴する方もいらっしゃると思うので詳しい感想はここでは述べません。



今回は『PSYCHO-PASS』第1期のある描写について、刑事モノの要素と絡めてお話したいと思います。


『PSYCHO-PASS』シリーズを未視聴の方向けにあらすじを説明すると、人間の心理状態や性格傾向を計測、数値化する機能を持つ「シビュラシステム」が導入された近未来の日本。

中でも、将来犯罪を起こす可能性を表す数値「犯罪係数」が既定値を超えれば、罪を犯さずとも「潜在犯」として隔離もしくは射殺される厳しい世界で、主人公達が属する警察組織が蔓延る犯罪に対処していく。

そんなストーリーのアニメです。


『マイノリティ・リポート』をイメージしていただくといいかもしれません。


もう10年もシリーズが続いている(嘘でしょ!?)長期作品です。


そんな『PSYCHO-PASS』第1期と劇場版は『踊る大捜査線』シリーズの監督、本広克行さんが総監督を務めています。


本広克行監督といえば、刑事モノ。


『PSYCHO-PASS』にも本広総監督が培った刑事モノのエッセンスが散りばめられているそうです。


それを象徴するようなエピソードがあります。


確かOFFICIAL PLOFILINGか劇場版パンフレットに載っていた話だったと記憶しています。


『PSYCHO-PASS』第1期1話冒頭部分のサイレンの音は本広総監督の指示で入れた、というものです。


簡単にですが冒頭部分を紹介しましょう。


まず、主題歌と共に近未来の東京の全景が映ります。

カメラが東京に近づくと共に聞こえてくる、街の喧騒。

その中で一際甲高い、人の本能的な危機感を呼び起こすような音が聞こえます。


パトカーのサイレンです。


正確には公安局(未来の警察です)の所有するドローンから鳴るサイレンの音なわけですが。

とにかく、そのドローンがサイレンを鳴らしながら高速道路の隙間を縫って現場へ急行しています。


そしてカメラは聳え立つ高層タワーを映します。

その上層階には柱の陰に身を隠し、荒い息を整える男が1人。


頬に今しがたついたばかりの傷から滴る血。

鬣の様に逆立った黒髪。

ヨレた黒スーツに緩い黒ネクタイの野性的な着こなし。

獣の様な鋭い眼光。手には黒鉄のドミネーター


主人公の狡噛慎也こうがみ しんや

『刑事』です。


息を整える狡噛に電動チェーンソーで武装した敵の工作員が襲いかかってきます。

数度の交錯の末、武装した相手をタワーの外に放り投げ、ドミネーターを向ける狡噛。

その銃口から光線が発射され、相手を物言わぬ肉片に変えます。


そして、どこかから響く足音。

手下を始末したことを祝福するように、血で塗り固められたような赤い階段を、聖者の如く降りてくる因縁の相手、槙島聖護まきしま しょうご

初めて顔を合わせた2人は互いの『敵』を確認し合い終わる。

そんな印象的なシーンです。


サイレンが鳴る場面は、主人公と宿敵の対峙シーンの前。数秒あるかないかのカット。

いわば前座も前座です。


ですが、私はこのサイレンの音が『PSYCHO-PASS』という作品を明確に刑事モノにしていると思います。


少し滑稽な例えかもしれませんが、皆さんの前に黒スーツ黒ネクタイの男が現れたとします。

その男が現れる前に鈴と木魚の音が鳴っていたらどんな印象を受けるでしょうか?


9割くらいの方はお葬式と思うのではないでしょうか。私もそう思います。


あと、関係ないんですが『鈴と木魚』って『凛として時雨』っぽくないですか?

…別に似てない?

そうですか……。


話を戻します。

では、男が現れる前に鳴ったのがサイレンならどうでしょう?


サイレンに赤く明滅するパトランプ。

次のカットで映る銃を構えたタフな男。


これはもう『刑事』でしょう。


サイレンひとつで、このアニメが刑事たちの物語だということを、少なくともこれから行われるのが刑事たちによる捕物帖だということを雄弁に語っているのです。


そして、上で挙げた点だけでも充分凄い効果なのですが、物語の描写上も特別な意味合いがあります。


別にサイレンの音がなくとも、狡噛の姿を映すだけで彼が刑事であるということは分かります。なにせ銃を抱えています。


でも、彼が登場する前に、職務執行中の刑事を意識させるサイレンがあるのとないのとでは、その意味合いが大きく変わります。


なぜなら、狡噛の名前が登場するのはだからです。


サイレンが鳴ってから最後に槇島に名前を呼ばれるまで、狡噛は視聴者にとってとして登場します。

彼が『名前のない刑事』として登場することで、冒頭の彼の活躍は、この世界の刑事が行うであることが示されます。


犯罪者を卓越した体術で追い込み、即射殺することがです。


我々の常識と一致するはずもない近未来の警察の職務をこのシーンだけで描写しているのです。




異世界転生やSF、ファンタジーを書いていて、私達の世界と違う生活を、習俗をどう猫写すべきか悩んだことはないでしょうか?

私はあります。SFで力尽きました。


必要な猫写なので飛ばすわけにはいかない。

でも、詳しく猫写しすぎれば、ともすればくどくなる。


そんなときに、上のサイレンのように、地の文で説明することなく猫写ひとつでキャラクター役割や立ち位置を描き出せたら素晴らしいなと、そう思ったのです。


作家さんで、この方がお上手です、という例が出せないのが私の浅学がにじみ出ていてお恥ずかしい限りですが…。


伊藤計劃さんなんか、説明が少なく軽い描写で読者を世界観に没入させるので、こういったところが上手なのかもしれません。

ハーモニーでは特殊な文体で描写する、等という離れ業をされていたはずです。


私などが試せばあれやこれやと不要な描写が増え、かえって読みにくくなるでしょう。


それを構成とサイレンの音ひとつでやってしまうところが本広総監督の手腕なのだと思います。


さて、長くなってしまいましたが、私が今になって10年以上前のアニメ(嘘でしょ!?)の話をしたのは、上で書いたことがつい最近気づいたことだからです。


正確にはここひと月で拙いながらも継続して文章を書き始め、地の文や描写に悩み始めたとき、上のサイレンに含まれる情報量の多さに戦慄したからです。


まあ、世の物書きの皆さんは当たり前のようにやっていることなのかもしれませんが…。


私にとっては大発見だったのです。


それで、とくに近況というわけでもないので近況ノートには書かず、エッセイとして文章にしました。



ここまで「PSYCHO-PASS PROVIDENCE」を見た後の高揚したテンションで書ききったのでろくに見返してないのですが、全然ミステリーの話してないですね、私。


次回があれば、『PSYCHO-PASSと謎』のテーマでミステリーについても触れることにします。(笑)

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