第17話 ショッピングモール

 俺と透華にとっての夏休みという長期休暇が漸く開始した。


 学校がないのでいつもよりゆっくり起床することが出来た。おかげさまで身体的に楽になり、不快感もなくベッドから身体を起こす。


「夏休み最高!」

 ……なんて言っている暇もなくショッピングモールへ行く為の支度を始める事にした。


「もっと遊べる所の方が透華は嬉しかったか? でも何か探し物があったらしいし。てか透華の探したいものってなんだ……」


 何も考えずに用意するでもなく今日の予定について思考を巡らせながら服を選び、財布をカバンに入れる。


「まぁ夏休みは長いし、今日くらいはショッピングモールで良いか。夏休み中に遊ぶ為の道具も買えるかもしれないし」


 集合時間は透華の提案してくれた午前10時になっている。

 俺は朝食を取り、万全の状態で集合時間の15分前に家を出て集合場所に向かった。



 ◇


 余裕をもって集合場所に向かったつもりだったが、俺が集合場所に到着するのと同じくらいの時間に透華も集合場所に来た。


「おはよう、透華」

「お、おはよう。まーくん」


 会うたび顔をじーっと見て来ていたのに今日はあまり顔に視線を感じない。しかし、透華の様子はそれ以外どこも変わっていない気がする。


「前に映画を観に行った時と同じようにショッピングモールに着いて最初にご飯を食べるってので良い?」

「うん、良いよ。じゃあ行こう」

「何が食べたいとかある?」

「ううん、まーくんに任せるよ」

「おっけい」


 気になっていたショッピングモールでの透華の探しているものが何なのかを歩き出してから聞くことに決めた。


「透華、ショッピングモールで何を探してるんだ?」

「えーっと……着いてからのお楽しみってことで」

「わ、分かった」


 無理に作っているような苦笑を見せる透華を見て会話が続かなくなり気まずい空気が二人の間で生まれてしまった。


 ◇


 なんとかショッピングモールに到着し二人の意見が合ったお店を選び、昼食を取ることにした。


 席に到着して注文まで終えた。

 注文を終えてからというもの透華の様子が少し変な気がする、どこかソワソワして落ち着かない感じが見て取れる。


「透華、大丈夫? どこか具合悪い所とか無い?」


 昨日勉強が終わって疲れているように見えたがもしかすると夏バテなのかもしれない。


「ううん、平気だよ。ごめんね、心配させちゃって」

「しんどかったら無理しないで言ってくれたらいいからね? 折角の夏休みなんだし悪化して楽しめなくなるの透華も嫌でしょ?」

「嫌……だね。うん、ありがとう!」


 落ち着きがなかったように見えたが会話を重ねて幾分か収まったように思える。


 そんな話をしていると席についてから注文した商品が運ばれて来た。

 互いの頼んだものが机の上に並んだ所で俺は食べ始める事にした。


 ご飯を何度か口に入れて透華の方を見るとこっちをガン見しているのに気付いた。


「どうした?」

「……ううん、何でもない」


 気になる……一口食べる度にこっちをチラチラ見ている気がする。


 ◇


 前みたいなあーんをするなんてハプニングは起こらず、俺は透華の探しているものが売っている場所に連れられるまま向かった。


「どういう系のものかは教えてくれたりする?」

「うーん……身に着けるものかな?」


 身に着けるもの……夏服とかか? それなら時期的にちょっと遅い気もするが……。


「こ、ここ。探していたものがあるのは」


 続けて話をするまもなく目的地に着いた。そこには水着があった。


「透華……もしかして水着を買いたかったのか?」

「そうだよ。もしよかったら――」

「誰かと一緒に行く約束とかしてるのか? 男……じゃないよな?」

「……一応男の人と行きたいと思ってるんだけど」


 男……。俺の他に透華が男と仲良くしているなんて知らなかった。俺に好きだと言っておきながら他の男と……。


 一瞬、俺と行きたいのかと思っていたが俺は透華に誘われた記憶がない。つまりその男から俺が除外されている可能性がほぼ確定しているようなものだ。


「ごめん。やっぱり今日は今すぐ帰って解散にしない?」


 他の男と行くための水着なんて俺は選びたくない。


「まーくん、プール好きだよね? もしかして嫌いだった。それなら――」

「ん? 俺は好きだけど、なんで俺がプールが好きか嫌いかが今出て来るんだ? 俺以外の……男と……行くんだろ?」

「えっ……なんでそうなるの? 行くわけないじゃん。私、まーくん以外の男子と何も接点無いよ。そもそも接点があったとしても関係を進展させる気は全くないよ」


 透華がオーバーリアクションだと言っても良いほど俺の目の前で驚いたかと思えば饒舌に話始めた。


「いやだって俺プールに誘われてないし」

「これから誘おうかなって思ってたの。……私はまーくん以外眼中に無いから安心して欲しいな。それでどうかな、一緒にプール行ってくれない?」


 可愛げな瞳で俺の事を見つめて来る透華を見て決心した。


「ごめん。無理」

「え、どうして」

「プールに行けば透華と水遊び出来るのは間違いない。でも、俺は……いや、透華はプールに行ってほしくない。透華が嫌いとかそういうんじゃないんだよ。ただ嫌いじゃないからこそ、なんだよ」


 プールに行けば透華と水遊びが出来る、それは間違いのない事実。しかし、男どもの視界に水着姿の透華が晒されてしまうのもまた事実である。


「兎に角俺は透華をプールに連れて行きたくはない」

「……分かった」


 透華ならナンパされてもおかしくないし。透華には言えないけど色んなステータスが高い事を自覚した方が良い。


 そんな会話をしているとポケットに入れている俺のスマホが震えた。


「代わりに何か埋め合わせす――」

「電話なってるよ?」

「ごめん……出ても良い?」

「うん。待ってるね」


 ◇


 電話の相手は母さんで、仕事がかなり早く終わったとのことで明日父さんが帰って来るという事と、透華の家族を踏まえてBBQをするから丁度ショッピングモールにいるのなら具材を買って来て欲しいとの事だった。


「ごめん。明日急きょ透華家とうちの家でBBQをすることになったらしい。だから食材買って来てって連絡だった」

「そうなんだ……。楽しみ」


 明日の予定が決まったのに透華のテンションが少し低い気がする。

 もしかしてプールの事、ショックだったのか? でも、あんな可愛げな風にお願いされたら増々他の男に見られたくないよ……。

 ちゃんと埋め合わせの事言わないと。


「透華、さっきのプールの事だけど――」

「食材買って今日は帰ろっか!」

「あ、うん……」


 それからは埋め合わせの話をしようとする度透華が何かと話を遮って来て結局話すことが出来なかった。



 ◇◇◇


「まーくんは嫌ってるわけじゃないって言ってたけどどうしてプールに私が行くのを嫌がったんだろう。理由、聞けばよかったな」


 透華は昔にプールで正樹と映るツーショットの写真を眺めながら自室で独り呟く。


「あーんも出来なかったなぁ。初めてあーんした時はまーくんが私にプロポーズしたと思ってたから出来たけど。今は私の事をどう思っているのか分からない所があるから少し怖気づいちゃったな」


 今日何度も自分を心配してくれていたことから透華は嫌われている事は無いと分かっていた。しかし、好意がどこまで芽生えているのかが分かっていない。


「明日のBBQから徐々にまーくんと男女として親密度を上げられるように頑張ろう」




 ――――――――――――――――――

 更新遅くなって申し訳ありません。

 元々新キャラが出て来るのは後の方でしたがストーリーが変わったことによりもうすぐ出てきます。

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幼馴染が高校卒業後の進路に迷っていたので、俺の所に永久就職しないかと言ったら翌日から嫁ムーブが始まった件 夏穂志 @kaga_natuho

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