第16話 二人の夏休み、最初の予定

「透華、大丈夫かな……」


 明日から本格的に夏休みが始まるというのにさっき家を出て行った透華がここ最近で一番テンションが下がっているような気がした。


「明日どこかへ行こうって誘ってみる……って言ってもどこへ行く?」


 明日ってのも急だから割と近場にするか……ってか透華、明日空いてるのか? それが一番重要だよな、空いてるって言ってた気もするけど一応聞いてみるか。


『透華、明日って空いてたりする? 別にどこかに行きたいって所があるわけじゃないけど』


 俺は机に置いていたスマホを手に取り、メッセージアプリの履歴で一番上に来ている透華にメッセージを送る。


『うん、空いてるよ。でも、何しよう』


 透華にしては割と遅めに返事が返って来た。

 まぁ、いつも暇ってわけじゃないだろうし気にする事ではないか。


 でも、何しよう……。無難に映画とか? いや、映画は最近行ったし行ってなくても見たい映画があるわけでもないしな。じゃあどうしようか、これから夏休みだし夏休みように何か買うっていうのも良いか。


『ショッピングモールにでも行かないか?』


 俺は思いついてすぐに明日の行き先を提案する形で透華に送った。

 ――しかし、透華から直ぐに返事が返ってくることは無かった。



 ◇◇◇


「どうしようどうしようどうしよう……。私から行きたい場所言った方が良かったかな? 相手に色々任せるのは印象良くないって言うし、まーくんが誘ってくれたんだから今度は私から行動を示すべきだったかな……。でもどこに行きたいとか無いし」


 正樹からのメッセージに喜ぶ暇もなく慌てまくる透華。正樹が一度アクションを起こしたのだから次は自身がアクションを起こさないと。と思いさらにテンパってしまう。


「まーくんの行きたい場所を考える? それともまーくんが私を意識してしまうような場所を選ぶ? 提案するとしたらどっちが良いんだろう」



 ピロンッ


 さっきまで持っていたものの、悩むのと同時に一度机に置いたスマホの画面が光る。


「え……、もしかしてまーくん?」


 自分が行動を起こすべきだと悩んでいた透華はまさか、という嫌な予感を身に覚えながら恐る恐る光るスマホの画面に視線を向ける。


『ショッピングモールにでも行かないか?』


 そこには正樹から明日の行き先に関する提案がメッセージとして送られてきていた。


「あー、まーくんに提案させちゃった……。これはまーくんが行きたい所なのかな?それとも私の事を考えて? どう返事したらいいかな? もし、まーくんが私の事を今まで私が考えていたほど好きじゃなかったとしたらあんまりベタベタした返事はあんまり良くないよね」


 今までの透華であれば『まーくんとならどこでも良いよ』と返事するところだったが今はそんな楽観的に返事をする気も起きない。


「一回冷静に考えてから返事した方が良いかも。まーくん、あとでちゃんと返事するから」


 透華は冷静になる為、スマホを机の上に置き、自室を出て行った後そのままお風呂に入ることにする。



 ◇◇◇


「透華から返事来ないなぁ。ちょっと様子見とくか」


 スマホとにらめっこしながらひたすらに透華の返事を待っているのも時間が長く感じてしまうので、俺はテスト勉強などで怠ってしまっている経営に関する勉強を再開することにした。


「ヤバい、今だったら学校の勉強の方が簡単に感じる気がする……。こんな所経理とかが処理する内容じゃないのかよ。……でも無知っていうのも格好付かないし」



 ピロンッ


 父親に課された経営に関する勉強を黙々と進めていた所、勉強を開始するのに合わせてベッドに放り投げたスマホから音が鳴った。


「透華か?」


 自然と透華の名前を呟きながら俺はベッドに腰を掛けてスマホの画面を見つめる。


『大丈夫、丁度私も探したいものがあったからショッピングモール良いよ!』


 透華から丁度用事があったと聞いて行き先選びは当たりだったなと感じた。


『時間は午前10時くらいで良いかな?』


 続けて透華がメッセージを送って来る。



 ◇◇◇


「冷静に、かつショッピングモールで寧ろ自分も嬉しいって気持ちも乗せないと……。そうだ!」


 透華は考えに考えた結果、自身をアピールできる場所へ行く約束を自然と結び付けられる案を考えた。


『大丈夫、丁度私も探したいものがあったからショッピングモール良いよ!』


「水着が欲しかったって言ってから、まーくんと行きたいって言えば意識してくれるよね。ショッピングモールにいる時じゃなくても……うん。まーくんは約束も絶対してくれるはずだし。間違ってないし、ちゃんと冷静に考えられているはず」


 透華はお風呂でお湯に浸かったことで海やプールを連想してしまい、お風呂に入っても冷静に判断できると断言できる状態ではなかった。

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