第15話 永久就職は……

「自由だーー」

「やっと終わったー」


 俺と透華は夏休みが始まってわずか2日で夏休み明けのテスト用として残しているものを除けば学校から出た課題を全て終えることが出来た。


「あとは始業日前に休み明けテストの勉強をするぐらいだな。透華、二日間お疲れ様」

「まーくんもお疲れ様! やっと夏休みだぁぁ」


 互いを労いながら座り続けたまま勉強したことで凝り固まってしまった身体を伸ばす為に二人揃って伸びをする。

 俺は腕を天井に向けて上げる。同じくして透華もまたグッと伸ばす。

 透華が腕を伸ばす時、ナニとは言わないが揺れるモノが見えてしまったので咄嗟に透華へ向いていた顔を他所へ背ける。


「んっ……ふぁぁ」


 透華はこの2日間、過剰にテンションを上げていたのかどうやら疲れが溜まっていたみたいで、伸びのポーズを崩さないまま俺のベッドに倒れ込み、目を瞑った。

 苦しそうな表情でも無かったのでリラックス出来ているのだと思い、無理に起き上がらせることは辞めた。


 寝ているかどうかは分からないが目を閉じて横になっている透華をそっとしておいて、俺は透華が風邪を引かないようにさっきまでガンガンに掛けていた冷房の温度を少し上げた。


 寝ているかも知れない透華を起こさない為にもテレビゲームをやるわけにもいかず、手持無沙汰になってしまったので透華のそばにでも寄ってみる事にする。


「なんか、恋人みたいだな……」


 透華をそっと見つめながら今の自分を状況を客観視して考えてみる。


 透華が好きだと言ってくれているのだし彼氏ヅラしても良い関係……かもしれないが、俺は透華に付き合ってくださいなどといった申し出もしていないし、俺の中では俺と透華は恋人ではない。

 だからそんな状態でこんなに純粋な透華の彼氏ヅラしたいとは思わない。


「やっぱり仕事だけじゃなく、プライベートでも一緒になるのであれば堅実に事を進めたいし、まずは儀礼的であっても告白して付き合う所から始めたいな。そうなったら透華に永久就職の事は間違いだったって言う必要があるな……」


 透華を眺めながら虚空に向かって一人呟く。


「透華、傷つくかな……ってそれは流石に自意識過剰か。いやでも俺のことをあんなに正面から好きって言ってくれるし……本当の事を言ったら割とショックを受けるかも?」


 俺がブツブツ一人で喋っていると透華がんんっと目は瞑ったままだが少し顔を歪ませてしまったので少しうるさかったのかなと思い、静かにすることにした。


 ◇


「透華、そろそろ起きた方が良いぞ。あんまり昼寝も長いと夜に寝れなくなるから」


 お昼寝としてあまり長くならない程度の時間になってから透華を起こす。


「……んん、ありがとう」

「明日からは本格的に休みだな。さっそく明日どこか行くか?」

「そうだね……また決めよ」

「なんか、テンション低いけど。まだ眠かったか?」

「ううん、大丈夫。ちょっと疲れちゃっただけ。今日はもう帰って休もうかな。ありがとね」


 明らかに透華のテンションが下がっているように見えたが、気のせいだろうか。

 帰る前、母さんに挨拶する時もどこか暗そうな気がしたが……。



 ◇◇◇


 透華は帰宅するとすぐさま自室に入り、部屋の明かりも付けずにベッドの端に膝を抱え込み、三角座りをした。


「嘘……だよね? いや、嘘じゃないよね? まーくん……ほんとなの? 永久就職が間違いだったって言うのは嘘なんだよね? 永久就職して欲しいって言うのは嘘じゃないよね?」


 透華はさっき知ってしまった事実に対して良く分からなくなっていた。


「まーくん、私が寝てると思って多分言っていたんだよね。どうしよう……やっと今から夏休みでいっぱい色んな事をしようと思ってたのにそれどころじゃなくなっちゃったよ。まーくんに話す? それともまーくんが言っていたみたいに待つ? 永久就職が間違いだったって何? まーくんは私をどう思ってるの?」


 透華は一人で疑問を解決することも出来ず、もやもやしたままその日は過ごした。その結果、目が冴えてしまった夜寝付くことが出来なかった。


「兎に角、今はまーくんに意識してもらって、まーくんに告白してもらえるように頑張るしかないよね……」

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