9話
むかしむかし、ある国にアーサーという勇敢な男が住んでいました。アーサーはとても強い剣の使い手で、王国で一番の戦士でした。
彼はいつも真面目で誰にでも優しく、困っている人を放って置けない人でした。そのため、王国中の人から好かれていました。
ある日、王国に大きな恐ろしいドラゴンが現れました。このドラゴンは燃え盛る炎を吐いたり、大きな足で家々を壊すことができるほど恐ろしい生き物でした。王国の人々はそのドラゴンをとても怖がりました。
そこで、アーサーは王国の平和を取り戻すために立ち上がりました。彼は仲間たちとともに、ドラゴンが住処とする火山へ向かいました。
火山への道は険しく、仲間たちと力を合わせて進んでいきました。ついに火山の頂上に到達し、アーサーと仲間たちは恐ろしいドラゴンとと対峙しました。
ドラゴンはとても強かったですが、アーサーと彼の仲間たちは勇敢に戦いました。ひとり、またひとりと仲間が倒れていき、ついにアーサーひとりになってしまいました。それでもアーサーは必死に戦い、ドラゴンを倒しました。
しかし、アーサーも死にそうなほど傷だらけでした。彼は生き残るためにドラゴンの肉を食べました。
王国ではドラゴンの肉にはとてつもない力が得られると言われていたからです。アーサーがドラゴンの肉を食べると、傷がみるみるうちにが治っていきました。
アーサーは王国に戻り、ドラゴンを倒した英雄として称えられました。彼はそれからも悪しきものと戦い、困っている人々を助けて平和をもたらしました。
◇◇◇◇◇
雑貨店のなかで少女がもう一人の女性に対して興奮気味に話しかけている。その少女の手の中には一冊の本があった。
どうやらその本について説明しているようだ。
「魔女様知らないんですか?アーサーの伝説。」
「なんだ、そのつまらなそうなタイトルは。オマエの自作小説か?」
「違いますよ!大人から子供まで知ってる有名な物語ですよ。絵本とか演劇にもなってますよ。」
リリィは魔女が知らないことに驚きつつも、彼女にその物語の内容について教える。
いかにその偉大な英雄譚が面白いか、をまるで自分のことのように自慢げに語る。テンション高めなリリィとは対照的に、魔女は本当に聞いているのか分からないような態度であった。
説明に夢中な少女がそれに気づくことはなかった。
「どうですか魔女様、面白そうじゃありませんか?」
「まぁ、ドラゴンの肉なんて不味そうなものを食べようと思えるよな。いや、ゲテモノだからおいしいのか?」
「そこじゃないですよ!もっとあるじゃないですか、最後の一人になったアーサーがドラゴンと戦うところとか!」
魔女がリリィの投げかけに答えるが、リリィは魔女に自身のPRが全然伝わっていないことに憤慨する。
「アーサー……」
「どうしました?もしかして、魔女様も気になってきましたか?」
カラン、カラン……。
ドアのベルが鳴り、二人の会話を遮る。
ドアのところには暗い雰囲気の男が立っていた。彼は控えめに下を向いていて表情はよく見えないが、おそらく雰囲気と同様に沈んでいるのだろう。
「こ、ここが……『魔女の雑貨店』であっているか?」
男は質問か呟きかも分からないような声で話しだす。その声音から臆病な性格が垣間見える。
「そうだが、何がお求めだい?」
「ら、楽に死ねるものが欲しいんだ。」
臆病そうな男がその雰囲気に違わない要求をする。
魔女はその要求を聞いて、期待を外したようにつまらなそうな顔をする。
「そんな簡単に死ぬなんて言ったらダメですよ、命はもっと大切しないと。」
そんな話を聞いたリリィが横から思わず声をあげる。
その声に反応して男が少女のほうに顔を向ける。
「なんだよいきなり、びっくりするじゃないか。僕が何をしようが、君には関係ないじゃないか。」
「そんなことありません。人は生きているだけで生み出せるものがあるんですよ。」
突然の横入に驚いた男はリリィをあしらおうとするが、リリィは負けじと噛みつく。
「じゃ、じゃあそれは何なんだい、君が教えてくれると言うのかい?」
「そ、それは……」
まさかの少女に反論されるとは思わず、男は少しひるんでしまう。
しかしリリィのほうも魔女の視線を感じて、男の質問に二の句を継ぐことができなかった。
少女が言い淀んだことで、自身の問いの答えを持っていないと思った男は少し得意げな表情になる。
「ほら、言い返せないじゃないか。ちゃんと答えられないのなら黙っていてくれないか。」
「う、うぅ……」
リリィは言いたいことを言えず、負けたような扱いをされて悔しそうにする。
「……一応、死にたい理由を聞いておこうか。」
「こんな意味もなく辛くただ長い人生なら、もういっそ死んでしまったほうが幸せなんじゃないか。でも痛いのは嫌だ。だから……」
それを聞いて、魔女はつまらなそうな顔をさらにつまらなそうに歪める。
「はぁ、生存への無気力は本当に面白くない。生憎、そういうものは置いてないんだ。薬師にでも頼んでくれ。」
「……そ、そんな。」
魔女からの拒絶の言葉に男は落胆する。
落胆する男を気にせず、魔女は言葉を続ける。
「楽に死ねるものは無いが、そんなどうしようもない男をどうにかできるものならあるぞ。」
「は?」
魔女の予想だにしていなかった提案に、驚きの声が漏れてしまう。男は口を開けて固まっている。
魔女がその様子を眺めながら、内容を説明する。
「生きる意味が欲しいのだろう。じゃあ、与えてやろうと言っているのだ。」
「なんだ?何かを取って来い、とでも言うのか?他人に作られて意味なんてまっぴらごめんだ。」
馬鹿にされたと感じたのか、妙に怒りっぽくなった男は魔女の言葉を戯言と吐き捨てる。
しかし魔女は男の予想を否定するように首を横に振る。
「違う。生きる意味を与えるのはキミ自身だよ。」
「僕自身が?一体どういうことなんだ?」
魔女は金色の棒状のものを取り出す。
その太さはそれを持つ魔女の腕ほどもあり、その先端は杭のように尖っていた。もう一方の先端は装飾が施されており、翼のような二対の意匠が付けられていた。
「こいつ『大いなる航路』。こいつがキミ自身から生きる気力を与えてくれるはずだ。キミが本当にやりたいことを示してくれる。」
「これが?もしかして催眠とかそういうインチキの類の話なんじゃないか?」
「なるほど、ワタシが詐欺師だと。ならば、まぁこれを受けなくとも良い。このまま店を出て、家に引きこもるなり、自殺するなりなんでもすればいいだろう。」
魔女の提案に疑ってかかる男に対して、それならばと魔女は男を突き放す。
あっさりと返されてしまった男は、痛いところを突かれたように言葉に詰まる。
「い、いいだろう。そんなに言うなら受けてやろうじゃないか。」
男は覚悟を決めたのか魔女の提案を受け入れる。しかし、その足は少し震えているように見えた。
「ほう、臆病者だと思っていたが、まさか受けるだけの勇気があるとはな。」
「あ、あなたが言ったんじゃないか。」
挑発した本人である魔女があまり期待していなかったようで、男の返答に幾分驚く。
魔女が驚いたことで、男の恐怖はさらに煽られる。
男の追及には応えず、魔女は話を進める。
「まぁいいや、さっそく準備をしよう。」
「そういえば、それはどうやって使うんだ?」
「キミはなにもしなくていい。ただそこで動かず、立っていればそれでいい。」
「はぁ……」
魔女が準備をはじめようと、『大いなる航路』を持って椅子から立ち上がる。
男は結局自分の疑問が解消されず、呆けたような声を漏らす。
そして、魔女はゆっくりと男に近づいてくる。そこには邪悪とも呼べる笑みを浮かべており、男は思わず後ずさりをしてしまう。
「バカ弟子、そいつが動かないように押さえておけ。」
「は、はいっ。」
「え、え?」
魔女の命令にリリィは慌てて反応し、男は反応できずに状況を理解できずにいる。
男の後ろに立っていたリリィが男を腕ごと抱きしめるように押さえる。
いきなり背後から拘束された男はさらに慌てる。
しかし男が振りほどこうともがいても何故か外れない。男が平均的な男性よりもひ弱な筋力と体格だとしても、少女から想像もできないほどの力を感じる。
「お、おい、何で押さえる必要があるんだ!」
「もうすでに少し察しているかもしれないが、こいつを使うにはこいつを使用者に突き刺す必要があるんだ。結構痛いらしいから我慢してくれ。」
「ふざけるな!そんなこと聞いていないぞ!放してくれ!」
結局は男が危惧したような詐欺みたいな施術であり、そのような横暴に男が激昂する。
しかし魔女は止めるつもりはないらしい。ゆっくりと拘束された男に近づく。
「聞かれなかったからな。用心深い男かと思ったが、そうでもなかったらしい。」
「くそ、くそ、放せ!」
「……」
男は怒鳴り散らすが、その剣幕にも魔女は嘲るようで動じていない。
男を押さえている当人であるリリィは、生贄の羊を見るような憐憫のこもった目で沈黙を貫いていた。
男は唯一動かせる口でこの状況をどうにかしようとする。
「騙しやがって、こんなの拷問じゃないか!」
「鋭いな、こいつは昔戦争の最中にいろいろと酷いことに使われてたらしいぞ。では始めようか。」
「や、やめ……」
魔女が男の制止に一切構うことなく腕に手を掛ける。
「それでは数秒後にまた会おう。」
魔女は男の腕に『大いなる航路』を深々と突き立てた。
「っ~~~~~!!」
男が声にならない悲鳴を上げる。
しかし何故か痛々しく突き立てらた男の腕の傷から血が出てこなかった。
そんな不可思議な光景に疑問を覚えることもなく、男はもだえ苦しみ続ける。
そしてついに脳が痛みに耐えきれなくなったのか、気絶して倒れ掛かる。
さすがに男が気を失ったことに慌てて、リリィは押さえていた手を放し、その場に男を横たわらせる。
「あわわわ、ほんとに大丈夫なんですか、魔女様。」
「何を言っている。ほら、起きるぞ。」
ほとんど時間も経過していないのに、男が先ほどのことなど無かったようにむくりと起き上がる。
「うわっ!」
「ここは……?」
起き上がった男に驚いているリリィをよそに、男は寝ぼけているように辺りを確認する。
男の目には先ほどとは違い、光が宿っているように感じられる。
「おはよう、気分はどうだい?」
「ああ、心の闇が晴れたような気分だよ。」
「自分のやりたいことは見えてきたかい?」
魔女は男に問いかける。何か見えてきたものはあるか、と。
「……ドラゴンの肉を手に入れたいと思っている。」
男は少し逡巡したのち、自身の目標を口にする。
魔女はその目標を聞いて、理解したように首肯する。
「分かるぞ、やはりどんな味なのか気になるよな。」
「は?」
魔女の理解は真実から程遠かったようだ。男は訳が分からないという顔をする。リリィは呆れた顔をする。
「かの英雄が手に入れた力を自分のものにしたいと思っている。すまないが、こうしてはいられなくなった。早く準備をしなければ……」
男は言うや否や、居ても立っても居られないというように雑貨店を飛び出していった。
カラン、カラン……。
嵐が去った後のように店の中に静寂が戻る。
過ぎ去った男を思い返し、リリィが言葉を漏らす。
「なんか全然変わっちゃってましたね。」
「そもそも本当に死んでもいいと思ってる人間は、自分から「死にたい」などと吹聴したりはしない。表面に見えているものはその裏にあるものを隠すためにあるのだ。よく見てきたことだろう。」
リリィは男の変わりように驚くが、魔女はそうでもなさそうだ。
そもそもドラゴンを今まで引きこもっていたような男が倒しに行くのは、自殺と変わらないような気が魔女はしたが口にはしなかった。
椅子に戻った魔女はそれまでのことで少し気になったのか、「アーサーの伝説」を手に取りページを開いてみる。
「しかしあんな男でも知っているんだな。」
「そうですよ。昔からずっと語られている物語なんですから、そこら中で聞けるはずですよ。」
魔女は聞くでもなく、パラパラとページをめくりながら呟く。
魔女はリリィの返答から少しした後、何か納得したように顔を上げる。
「ああ、思い出した。似たような話を昔におしゃべりな奴から聞いたことがあったな。」
「なんですか、魔女様も知ってるじゃないですか。」
魔女の言葉にリリィは少し安心したように言う。
しかし、魔女は何かつっかえるものがあるようで、首を縦に振ることはなかった。
「いや、似てはいるが違う内容だった。そんなに都合のいい話ではなかった。あいつが改悪した可能性もあるか。」
「う~ん、たしかに真似した作品もたくさんあるって聞きますし、それのひとつですかね。」
話を終え、魔女たちは再び日常へ戻っていった。
『魔女の雑貨店』は今日も迷い人を探す――。
◇◇◇◇◇
むかしむかし、ある国にアーサーという勇敢な男が住んでいました。アーサーはとても強い剣の使い手で、王国で一番の戦士でした。
彼はいつも真面目で誰にでも優しく、困っている人を放って置けない人でした。そのため、王国の民から好かれていましたが、偉い人たちからは疎まれていました。
ある日、王国に大きな恐ろしいドラゴンが現れました。このドラゴンは燃え盛る炎を吐いたり、大きな足で家々を壊すことができるほど恐ろしい生き物でした。王国の人々はそのドラゴンをとても怖がりました。偉い人たちはある企てを思いつきました。
そこで、アーサーは王国の平和を取り戻すために立ち上がりました。彼は紹介された仲間たちとともに、ドラゴンが住処とする火山へ向かいました。
アーサーについてきた仲間たちは、実は偉い人たちからの刺客でした。それでもアーサーは刺客たちをなんとか返り討ちにして進んでいきました。ついに火山の頂上に到達し、アーサーはひとりで恐ろしいドラゴンと対峙しました。
ドラゴンはとても強かったですが、アーサーは勇敢に戦いました。アーサーは壮絶な戦いを繰り広げ、恐ろしいドラゴンを倒しました。
しかし、アーサーはすでに心も体もボロボロでした。そんなアーサーに対して、ドラゴンは仕返しとして不死の呪いを与えました。
絶望の最中にいるアーサーの体の傷がみるみるうちにが治っていき、なんとか生還を果たしました。
アーサーは王国に戻り、ドラゴンを倒した英雄として称えられました。偉い人たちはいつ復讐されるのか、内心怯えていました。彼は結局、追放されるように旅に出て、各地でさまざまなことをやり遂げました。
魔女の雑貨店 星海月 @ririariadne
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔女の雑貨店の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます