第2話 未来に向けて

 あれから二か月以上経ち、落ち着いたサルドバルドでは、全土で新皇帝誕生のお祭りがおこなわれていた。

 新皇帝誕生を祝う為、3日間国民の休日として人々はお祭りを楽しむ。

 勿論、お祭りの時に稼ぐ人々もいて、そういう人々にとっては忙しい3日間だ。


 帝国民の大歓声の中、小型サイズの聖獣3匹を従えながらテラスで手を振るララ。手を振るララも、ララを見て歓声を上げる帝国民もとても嬉しそうだ。


「陛下、そろそろお時間です」

 ジュードが1歩ララに近付き声をかける。

「わかったわ」

 ララは手を振りながらテラスを去る。

 ララに従ってジュードとセイラがテラスから部屋の中に入った。


「ふう」

 テラスから戻って来たララは疲れたようにソファーに座る。

 祭りの期間中、ララは午前中4回テラスに出て皆に手を振る事になっていて、今回が初日最後の顔出しだった。

 

「お疲れ様でした」

 リタが水の入ったコップを渡しながら言う。

「ええ!」

「この後は、公務報告が一時間。その後、軽く昼食をとって、任命式の準備です」

 アンナがドレスを選びながら言う。

「ふぅ、皇帝って忙しいのね。アンナが結婚したら困っちゃうかも」

 ララがそう言うと、アンナが微笑む。

「結婚しても、ララ様の侍女は続けますよ」

「ありがたいわ」


 午後、ララは執務室に入り、いろんな人達から報告を受ける。

「マルタンと息子のジェームスの取り調べですが、ほぼ完了しました」

 そう言いながら執務官のひとりがララに書類を渡す。

 ララはため息をついた。

「……あいかわらず、ふたりに反省の様子はないの?」

「マルタン元公爵の方は責任を取る覚悟はあるようですね。人として道を外れた事をした認識はあるようですから。ただ……後悔は無いようです」

「そう……」

 ララは少し下を向いて返事をする。


「でも令息の方は……びっくりするほど馬鹿です。毎日、調査官相手に泣いてみたり、脅してみたり。彼は今の自分の状況がよくわかってないのかもしれませんね」

 執務官が呆れた様子で言うと、ララはため息をつく。


「そう……仕方ないわね。これ以上調査しても意味もないわ。もう、ふたりをドルト共和国に引き渡しましょう。手続きを進めてください」

「あのぅ、マルタン元公爵ですが、命を助けるのですか?」

 事務官の一人が聞いた。


「最終的な処分はドルトの聖職者たちに任せるつもりよ。ロバート枢機卿とも相談したのだけど、公爵から魔王達の情報を出来る限り聞き出して書物にして公開し、情報を未来に残そうと考えているの。今回、私達は沢山の人が暗殺され眷属にされるまで、その存在にすら気が付いていなかったでしょう? そして今もまだ、眷属になるという事がどういうことなのか、曖昧な事が多くてよく分かってない状態よ。また同じことが繰り返されない為には、少しでも情報を残さなければいけないわ。我々は未来の為に、我々の子孫の為に私達が出来る準備をしておかなきゃいけないと考えているの」


 ララの言葉に皆引き締まった顔になる。

「そうですね。二度とこんな悲劇が起きないようにしなければ」

 事務官の言葉を聞き、ララは微笑んだ。


「それにね……マルタン親子を殺さないのは、慈悲からではないのよ」

 ララが寂しそうに微笑み言う。


「死んで一瞬で終わらせるなんて嫌だと思っているの。彼らには生き続ける方が辛いはず。長く生きて、辛い思いをすればいいと……そう思っているわ。幻滅したかしら?」


 そこに居た者達は少し驚いて顔を見合わせた。

 それから真剣な顔つきになって言う。

「いえ! 幻滅などしません!」


 その言葉を聞き、ララはまた寂しそうな笑みを浮かべる。

 しかしその後すぐ、気持ちを切り替えたララの顔がぱあと明るくなる。

「さて、じゃあこれで終りね、エバンス」


「はい、陛下」

 エバンスが頭を下げて答える。


「エイドリアンやヘンリー達は準備できてるのかしらね。ふふ、楽しみ」

 ララが書類とトントンと揃えながら言う。


「陛下もそろそろ」

「そうね、皆も早く上がって準備して、今夜のパーティーは楽しんでね」

 ララが立ち上がってそう言うと、皆が頭を下げた。

 部屋の様子を感じてか、廊下からジュードとセイラが顔を出す。

「おまたせ、ジュード、セイラ! 行きましょう!」



 マルタンの反乱の後、ミドルバを再度将軍にという話が出ていたが、ミドルバは引き続きケールで貧困層の救済事業と、散らばった獣人族を連れ戻す活動をするためにケール自治区に戻った。

 ララはその後、ジュードを将軍に任命し、セイラを近衛団の団長に任命した。サルドバルド史上初の女性団長だった。


 ちなみにリタは宮殿の総メイド長に昇進した。


 それから神官の巫女だったリリアンヌは法王様から直々に感謝状を贈られて、最高位の聖女にランクアップ。そして、サルドバルド内の神殿をまとめる長に任命された。


 エバンスは変わらず執事長として働いてもらう事になったが、爵位について子爵から伯爵に格上げとなった。


 アンナの実家のリンドル家も、今回の功績を評価され、伯爵から侯爵家に格上げされた。

 そしてアンナは正式にアーロンと婚約する事になった。

 アンナが結婚後もララの侍女を続けることを希望し、アーロンもアンナの希望を叶えたいと申し出てきたことから、ふたりが帝国側で生活できるよう、ふたりの成婚と同時にアーロンをサルドバルドの公爵に封じ、マルタンから没収した領地の一部を与える方向で調整中だ。


 ヘンリーの護衛騎士だったシークはコタールに戻った後、ヘンリーの推薦で王太子の近衛隊の隊長になったらしい。


 エイドリアンの護衛騎士のトムは変わらずエイドリアンの護衛騎士をしているが、今日からは少し立場がかわるだろう。


 そして、ヘンリーとエイドリアンは……



 ~~*~~

 

 広間には多くの王侯貴族が集まり、今まさに広間の中央で行われれている授与式を見つめていた。


 中央には王冠をかぶったララが立っており、その前にヘンリーが膝をついている。


「コタールの第一王子、ヘンリー=ウォルター公爵。今回公爵がいなければ世界は救われなかったかもしれません。大陸中の人々を代表し、お礼を言わせていただきます」

「ありがたき幸せに存じます。陛下」

 ヘンリーはらしくないセリフを王族らしく言う。


「ヘンリー=ウォルター公爵、ドルト会議にてあなたに英雄の称号を与える事が満場一致で決まりました。どうかその証をお受け取り下さい、大陸の英雄、ヘンリー=ウォルター公爵」

「ありがたく頂戴いたします」

 ララはヘンリーの首から英雄を示すメダルのついたネックレスをかける。

「本当にありがとうヘンリー」

 ララがヘンリーを見てそう言うとヘンリーはニカッと笑う。


「うう、うぉぉ、うっく」

 突然、変な声が聞こえて、ララとヘンリーが驚いて声の方を見る。

「うぇ、ヘンリー様っ、ううっ、おめ、でと、ございます」

 クロード伯爵がうれし泣きなのかボロボロ泣いていた。


「ったく……」

 ヘンリーは照れながらクロードの方に行き、「泣くなよ恥ずかしい」なんてことを言いながらクロードの背中に手を置いている。

 このクロードも今回の活躍がコタールでも評価され、王宮の教育機関の教授に任命され、王都に戻ることを許されたらしい。


 ララは二人を見て微笑み、そして次に控えるエイドリアンの方を見た。


 今日のエイドリアンは式典用の白い騎士服を着ており、とても素敵だ。

 目が合い、エイドリアンが微笑む。


「エイドリアン=クルーゾン、前に」

 進行係の男性の声が響き、エイドリアンがララの前に進む。


 目の前に来たエイドリアンを柔らかい笑みで迎え、ララが言う。

「エイドリアン=クルーゾン……この度の働き、感謝します。あなたのおかげで世界が救われました」

「もったいないお言葉です。陛下」

 エイドリアンが柔らかい笑みを浮かべ、優しい瞳をララに向ける。

 ララも優しい瞳をエイドリアンに向けた。


「エイドリアン=クルーゾン、あなたにケール自治区をお返しする為に、……あなたをケール大公に任命します」

 皆がおおっと感嘆の声を上げた。

 エイドリアンが驚いた顔をする。

「大公?」


「はい。わたくしはサルドバルドの皇帝として、あなたがたケールの人々に公式にお詫びいたします」

 そう言いララは姿勢を正し、真っ直ぐエイドリアンを見た。

 エイドリアンはその様子に驚いている。


「ケールを攻め、滅ぼしたのは我が帝国の誤りでした。本当に……」

 そこまで言い、ララはゆっくり深く腰を折った。 


「大変申し訳ございませんでした」

 ララが深く頭を下げてそう言うと、サルドバルドの人々もエイドリアンの方を向いて一斉に深く頭を下げた。


 エイドリアンやトムだけではなく、外国から来ている人々も皆、その様子に絶句する。


 皆、ずっと顔を上げない事で、エイドリアンがハッとして口を開く。


「あ、いや、顔を、顔をお上げください。魔王とマルタンの仕業です。あなた方が悪いわけではなかったと、今は分かっていますから」

 少し焦ったようにエイドリアンが言う。

 こんな展開になるとは聞かされてなく、完全にサプライズだ。


「ありがとう」

 そう言いララが顔をあげると、周りの人達も顔を上げた。


「それでもう一つ…… 貴方に我儘なお願いがあります」

 ララが恥ずかしそうに言う。

「は、はい。なんでしょうか?」


「我々はケールについては当面、税を取るつもりはありません。実質大公の国として運営してください。ただサルバドル帝国の中の国ですので、なにかあれば帝国が助けます。安心してください」

「あ、は、はい。ありがとうございます」


「でも、大公、……貴方には帝都で私を支えて欲しいのです」

 ララの声が段々と小さくなっていく。

「大公領の運営はあなたが選任した者達に任せて、それから…… いずれは生まれる子供に領土を任せるようにしてですね…… あなた自身は…… その…… 帝都に残って……」

 ララの顔が段々と真っ赤になっていくのをエイドリアンは驚いてみていた。


「あなたは…… その、私と共に……」


 ばっとエイドリアンは突然膝をついた。

 一瞬、皆、エイドリアンが断るつもりか!? と思い心配になる。


「覚えていますか? 問題が解決したら、この命をあなたにあげると約束したことを。だから既にこの命は、サルドバルドの至宝である陛下のものです。……そんな私ではありますが、僭越ながら言わせてください」

 エイドリアンの言葉に皆が息をのみ、会場が静まった。


「この命尽きるまで、あなたを……どうか、伴侶となり、私の腕の中であなたを守り続ける権利を、……私にお与えください、陛下」


 誰もが緊張した面持ちで音も立てず、ゆっくりララの顔を見る。

 ララの顔は真っ赤だ。


「……はい、権利を与えます」


 その日、帝国中が幸せな光に包まれた。



End



  長かったララと仲間達の物語はこれで終わりです。

  ララ達はこれからも、全ての人が幸せに暮らせるように

  努力を続けていくことでしょう。

 

  最後までお読みくださった皆様、

  誠にありがとうございました!

  Thanks a lot!                あきこ

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戦う皇女ララの物語 あきこ @Akiko_world

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