ユートピア

紅野素良

すれちがい


「久しぶりだね」


「この前あったばっかりでしょう?」


 彼女は笑って答える。

 蝉の静かな夏の夜、僕は初恋の人と再会を果たした。


 きっかけは2週間前の同窓会。

 適当に座った席の隣が初恋の人という、まるでアニメのような再会だった。


 高校時代、遠くで眺めているだけだった憧れの人。博識で物静かではあるが友人は多い。目元の涙ぼくろが特徴的な綺麗な人だった。放課後はひとりで本を読んでいる所をよく見かけた。

 特段目立つところは無いが、彼女は他の誰よりも輝いて見えていた。


 お酒の勢いを借りて話しかけてはみたが、正直なにを話したか覚えていない。

 それほど酔っていたが、LINEを交換していた自分を褒めてあげたい。


 必死に文面を考え、連絡を続け、1週間前に意を決して今日の花火大会に誘ってみたところ、まさかのOK。


 断られると思っていた俺は心底ビックリしたが、今日のために美容院にも行き、ともだちにオシャレを教えてもらったりと、念入りな準備をおこなって、今に至る。


(出来すぎたぐらいに順調だな)


 そんなことを考えながら、ゆっくりと会場に向かう。


「どこに向かっているの?」


「実は穴場があるんだよ、ちょっと歩いたところだけど綺麗に見えるところがあるんだ」


「へー、よく知ってるね」


 そこから、そこそこ会話に花を咲かせながら歩くと目的の場所に着く。


「誰もいないね」


「穴場だからかな」


 僕達はベンチに腰掛けてまた暫し思い出話に花を咲かせた。


 程なくして一発目の花火が上がった。


「綺麗、お花みたい」


「ほんとに綺麗だ」


 彼女の横顔が色とりどりの光に照らされる。

 それは、当たり前だが、高校時代に見ていた横顔そのものだった。

 もう一度見られるとは思っていなかった。


 想いを伝えるなら今しかない。

 もう後悔はしたくない。



「❋❋❋、」


「どうしたの?」


色とりどりの花が空に咲く。


「実は、高校時代からずっと好きだったんだ、もしよかったら僕と付k──────
















「お時間を迎えました、×××様。」


 その声でふと我に返った。

 僕は取り付けていた機器を外し、声のするほうを向く。


 目の前には綺麗な女の人が立っていた。


「空想空間へのダイブお疲れ様でした。延長致しますか?」


「いや……大丈夫です」


「では、お会計となります。お値段…8万3100円です。」


「分かりました」


 そう、今までのは世界はAIが見せてくれる空想空間での出来事。

 現実には一切関係ない。

 彼女とも高校を卒業して以来会ったことなどなく、どこで何をしているのかも知る由もない。



「………………×××様、」


「?……まだなにか?」


「いえ…………お気を付けてお帰りください」


「…………ありがとうございます」



 店員さんも目元に涙ぼくろがあった気がしたが、気の所為だろう。







「────またのご利用お待ちしております。」

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ユートピア 紅野素良 @ALsky

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