ベッドメイクは知らないの 🏩

上月くるを

ベッドメイクは知らないの 🏩





 懐かしいのとはちがうけど(経験がないのだから)、そうとしか言いようがない。

 妙な気持ちに駆られたのは某小説の「解体はベッドメイクより金になる」の一節。


 挫折した中年男性が東南アジアから来た若者に危険な仕事に就いた理由を訊くと、家族に仕送りして弟を大学にやっており、自分もやがて母国で家庭をもつからだと。


 じわじわ……なかったものとしていた部屋から、せめぎ上がって来るものがある。

 ヨウコさんの友人たちも、日本で稼いだお金を倹約して母国へ仕送りをしていた。


 母親に家を買ってあげたことが誇り……けれど、その家には兄一家が住んでいる。

 もうひとりも、土地や家屋の名義を兄弟にしてあるから、気軽に里帰りできない。


 冷えるスーパーの惣菜売場ではたらき、日本人の夫に気兼ねしながらの暮らし。

 みんな初心すぎ、人が好すぎ、ああ、なんと言ったらいいか分からないよ~。💧

 


 

      🛏️




 半世紀に近い社歴の幕を閉じたあと、なにもせず家にいることが堪えがたかった。

 秒針の刻みごとに心臓に釘を打ちこまれるようで、心拍数は危険ラインに達した。


 で、なんでもいいから仕事をしたくて、ネットやハローワークで懸命に探したが、当時はまだ高齢者の年齢制限がきびしく、年齢を告げたとたん門前払い状態だった。


 なんとか見つけたのが3Kの代表格の清掃員、しかもパチンコ店や大型スーパーの開店前の数時間のみ、もっと働きたいとビル管理会社の担当者にホテル清掃を打診。


 すると、かえって来たのは「ベッドメイクを舐めてもらっちゃ困りますね~。いままで重労働に就いたことがない人など一か月ともちませんよ」クールな笑いだった。


 それからベッドメイクに特別な思いを抱くようになり、冒頭の記述へとつながる。

 ドラマでそういうシーンがあると、メイク手順を頭に入れている自分が可笑しい。




      🏠




 コロナによる分断で東南アジアから来た子たちとも久しく会っていないが、みんな元気にしているだろうか、日本人としての社会保障、ちゃんと受けているだろうか。


 どの子も数年に一度の里帰りをなにより楽しみにしていたが、きつい労働に堪え、日本人夫に服従して買ってあげた家に、家主らしく、堂々と泊まれているだろうか。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ベッドメイクは知らないの 🏩 上月くるを @kurutan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ