第2話

 圧倒的なディランの戦闘能力に子供達は言葉を失っていた。恐怖から解放された子供達は緊張感が解けたのか泣き始めた。

 ディランは子供達が泣き止むまで待っていた。


「あ、ありがとうございます」


 泣き止んだ子供達は誰かが放った一言皮切りに一斉にお礼を伝えた。


「どうして君たちだけでこんな場所に来たんだ?」


 比較的安全な場所とはいえ5,6歳の子供達だけで来るのは不自然極まりない。こんな大きな街から彼らだけで出ようと衛門を通ろうとする時点で兵士に止められるだろう。


 この場所は道や衛門から少し離れており、人通りが悪い地形になっている。そんな場所に子供達だけで来ることはできないだろう。


「おじさんが連れて来てくれたの」


 少年達は冒険者のおじさんから『お手伝い』に誘われてここまで連れてきてもらった。しかしこの場に着いた時にはおじさんはいなくなっており、ゴブリンに囲まれていたという。


 ディランは少年達の発言に少し違和感を覚えたが、まだ幼い少年達の言うことだと一度忘れることにした。


「それじゃあ、街まで戻ろうか。僕は始めてくる街だから案内してほしいな」

「分かった!!」


 ディランが案内を頼むと少年達は笑顔で頷いた。


 ディランは衛門に着くまで少年達と話をする。やはり先ほどの違和感が拭えないでいた。ここまでディランが気にする理由があった。それは誰も冒険者の顔を覚えていなかったからだ。


 衛門までたどり着いたディランは一度少年達と別れた。身分証の持たない者の並ぶ列にて10分ほど待っているとついに順番がやってきた。


「この街に来た目的は?」


 小さな部屋にて兵士と一対一で軽い尋問を受けていた。


「冒険者になりたくて来たんだ」


 冒険者とはそれぞれの目的を胸にどんな仕事でもこなす存在の総称である。世界中にギルドが存在し、犯罪者を除けば誰にでも門を開けている職業である。

 ブランデン辺境伯領では魔物の森での一攫千金を目指し、国内外を問わず様々な人材が集まってくるのだ。


ここなら手っ取り早く身分証を手に入れることができ、世界を見て回るという目的があるディランには都合がいいのだ。


「そうか。これに手をかざしてくれ」


 兵士がそういって出したのは審判の瞳と呼ばれるエンシェントアイテムだった。ダンジョンから容易に手に入れることが出来るこのアイテムは各地の要所に必ず設置されているのだ。


 神が授けたアイテムと呼ばれるそれは犯罪を犯し、罪を償っていない者が触れると赤い輝きを放つのだ。


「分かった」


 ディランは手をかざす。淡い光を放つが兵士は顔色一つ変えなかった。


「これは仮の身分証になる。期限は一週間になるから必ず返しに来ること」


「分かった」


 ディランは文字が書かれた木の板を受け取るとポケットに入れると見せかけながらストレージへと収納した。

 兵士の先導を元に衛門を後にした。


「ブランデン辺境伯領、テイルムの都ようこそ!君が善良な民であることを願っているよ」


 ティア王国と立て方の違う建造物や人々の服装。目に映るもの全てに興味が尽きないディランは思考の海に沈みそうになった。寸前のところで兵士の自慢気な声で意識を戻された。


「どうだい?すごいだろう?」

「あぁ、そうだな」


 ディランは素直な感想を返す。ディランたちを追い越し街へ入っていく誰もが輝きを放つ顔をしていた。


「それじゃあ」

「君の人生に幸あらんことを」


 ディランと別れる間際にもこちらを心配する兵士だったが、悪い気はしなかった。


 兵士と別れたディランは待ち合わせ場所にしていた衛門を出てすぐにある噴水に来ていた。


「あっ!お兄さん!」


 ディランを見つけた子供達は嬉しそうに元気に走って近づいた。


「ここの屋台がおいしいんだよ!」

「ここで友達とよく遊ぶんだ!」


 子供達が我先にとディランへ話しかける。元気いっぱいの微笑ましい光景に思わずディランの顔を綻んだ。


 子供達の案内で孤児院までたどり着いた


「あなたたち無事だったの!?」


 孤児院に着くなりシスター服を着た女性が涙を浮かべながら子供達を抱きかかえた。


「ただいま!ソフィお姉ちゃん!」


 何も知らない子供達は元気いっぱい挨拶をする。

 心労が重なったのだろう。安心しきった表情でソフィは意識を失った。

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没落魔法名家の後継者 sit @starry1113

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