没落魔法名家の後継者
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第1話
日照りが長く続き村に多大な被害を与えた時代があった。そんな村に1人の旅人が訪れた。
自分達の明日も知らぬ仲、村人は旅人を歓迎した。旅人はその村を大変気に入り、村を助けようとした。
次の日、旅人はお礼がしたいとひび割れた畑へ向かった。
その人が閉じていた瞳を開けて手を振るやいなや不思議なことが起こった。
見渡す限り晴天だった空に雲が集まり、まもなく雲から雨粒が落ち始めた。
乾きかかった地面は潤いを取り戻し、村人は歓喜した。
その人は外敵の脅威から村を守り、不思議な力で村に安寧をもたらした。
おかげで村にはどれだけ人が増えようと飢える者などいなくなった。
しかし彼は村人をより豊かにするために研究を続けた。人々は彼の持つ神秘的な能力のことを魔法と呼んだ。
代々受け継がれた魔法の力のおかげで村はいつしか王国と呼ばれるほど繁栄を築き上げた。
そんな王国の礎を築いた魔法の名門『ハードレッド』
産まれながらに強靭な魔力と卓越した魔法技術を持つ魔術名家は圧倒的な力でウォルティア王国を頂点へ君臨する存在へと押し上げていた。
しかしそれをよく思わない奴らもいた。彼らは互いに協力し、ハードレッドを蹴落とすために団結した。
愚王アレクサンドラはハードレットに怒りを覚えていた。この国の王である自身が富めるような魔法を開発しろと命令するが、彼らは決して首を縦に振らず、国民の生活を豊かにする魔法ばかり研究していたからである。
貴族達からの提案に幸いと飛びついたアレクサンドラ達の手によってハードレット家は没落していくのだった。
彼らに誤算があったとしたらハードレット家が全く反撃をしてこなかった。逆に彼らの行動を後押しするような行動すら取ったのであった。
元々ハードレット家は流浪の旅だ。過ごしやすかったからこそ住み着いただけであり、彼らの本質は変わってなどいないのだ。
愚王の行動を防げたはずの他の貴族達や王女、王子達が気づいた頃には既に家の取り潰しが決まっていたのである。
この400年、王国が続いてきた理由を理解せぬ愚か者達の手により、誰もが恐れた名家ハードレットは静かにその歴史に幕を閉じることとなった。
「これで全部っと……」
ハードレッド家が所有していた屋敷。そこに1人の少年がいた。彼の名前はディラン・ハードレッド。
屋敷に残ったものを亜空間の指輪ストレージへと収納していく。
見事に空っぽになった屋敷。この屋敷で産まれ、15年もの間様々な思い出が詰まった場所。
早く出ていきたい。世界を見て歩きたい。常々考えていたことが、いざその時が来ると少しセンチメンタルな気分を感じていた。
ディランの父親と母親は既に「ここ数年思う存分研究できなかった分未開の地で研究してきます」その置手紙と共に颯爽と出て行っていた。
自由すぎる両親にため息をつきながらこの屋敷の全ての物を片付けたのだった。
「さて、行きますか!」
気持ちを切り替えたディラン。風が吹く次の瞬間には彼の姿は煙のように消えていた。
ディランは微かに太陽の光が差し込む森の中にいた。ティア王国から遥か遠くのナルキア王国のブランデン辺境伯領に存在するオリーブ大森林の中に来ていた。
爽やかな風が頬を撫でる。ディランは久しぶりの外の世界に気分を良くしながら森を歩く。
しばらく歩いていると森を抜け、新しめの馬車の跡が目立つ道に出た。
鼻歌を歌いながら道を歩く。しばらく歩いていると遥か先まで続く巨大な壁が見えてきた。目的地を視界に収めたことにより、無意識に歩く速度が少し早くなる。
僅かに聞き取れた誰かの悲鳴。ディランはすぐさま駆けだした。
「何で町の近くにゴブリンが!?」
ディランの聞こえた悲鳴の先。そこでは複数のゴブリンに囲まれている。
少年達が驚くのも無理はない。安全だといわれている城下町の近くにゴブリンが現れることなど普通は考えられないからである。
武器も持たない少年達がゴブリンを倒せるはずもなかった。首都に近いとはいえ、この数のゴブリンから逃げられるハズもなかった。
少年達の絶望に満ちた表情。それを見たゴブリン達は嬉しそうに声を上げた。
獲物で遊ぶかのようにゆっくりと近づこうとしていた。そんな時だった。
「もう大丈夫だよ」
悲鳴を聞き、急いで走ってきたディランは子供達の前に立つ。子供達の方を向くと安心させるように微笑みを浮かべた。
太陽の光を反射し、輝きを増す金色の髪。吸い込まれそうな赤色の瞳。その姿はおとぎ話に出てくる英雄のようであり、子供達に安心感を与えた。
ゴブリン達は急に現れたディランを警戒し、隊形を組み始めた。
知能の低い魔物であるはずのゴブリンが隊形を組む。異様な光景にディランは警戒レベルを上げる。
ディランが大きく息を吐くと瞳の色が青く染まった。極限まで研ぎ澄まされた精神状態、ゾーンに入る。
ゾーンとはハードレット家に伝わる秘術。これを行うことにより、通常は詠唱が必要な魔法を無詠唱で使うことが容易にできるようになるのだ。
ディランが手をかざす。それだけでゴブリン達は一瞬で燃え上がった。木々に燃え移ることも無くゴブリン達は一瞬で灰になった。
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