自宅警備員まいちゃん!

センセイ

「ふわぁ〜……よく寝たぁ」


朝起きて時計を見ると、時間は六時半。

最近いっつも早起きなのは何でだろうな。


私は寝っ転がったまま少しスマホを覗く。


……実は私、ネットに絵を投稿してるんだ!


そんなに上手じゃないけど、一人にでも認められるのが嬉しくて描き続けてるの。


認められるってこんなに嬉しい事なんだね!

私、初めて知ったかも!


「!」


と、そんな事を考えていると、ドスドスと大きな足音。


この足音は毎日鳴るの。

足音が鳴ってる間は、じっと息を潜めてなくちゃダメなんだ。


だって、見つかったらきっと攻撃されちゃうもん。


「……ふぅ」


足音が遠くに行ってから、私はホッと一息つく。


これから悪い奴の活動が活発になるから、私はその間は二度寝しちゃう。


……二度寝してないで学校に行けって?


残念!私は自宅警備員ってお仕事があるから、学校には行かないんですぅ〜!


……まぁ、冗談はおいといて。


二度寝して起きるのは十時くらい。

起きてからは、朝ごはんを食べに行きます。


ここで注意!

確率が下がるとはいえ、家の中にはまだ悪い奴がいるから、ひっそりと動かなきゃいけないの。


運悪く遭遇しちゃったら、できるだけ何も喋らずに平常心平常心。


三年くらい前だったら、この時間には悪い奴はお外に出ていくんだけど……やっぱり良い事なんて無いね。

悪い奴はずーっとお家に留まってる。


「……!」


キッチンに出て、私はある事に気づいた。


乗り物が無い!


悪い奴の乗ってる乗り物が無い!

やったぁっ!!


きっとどこかに行っているんだ!

やった!やったぁ!!


私は嬉しくなりながら、冷凍庫から取り出した朝ごはんを、裏に書いてある分数分温めて食べた。


……今日はラッキーな日なのかも!


私がルンルンで朝ごはんを食べ終わっていると、どこかからか近所迷惑なくらい大音量の音楽とエンジンの音が聞こえた。


(やばっ!帰って来た!)


私は咄嗟に自分の部屋に戻って一息つく。


危なかった……。


ここで見つかっちゃったら、せっかく居ない間にご飯を食べれた意味が無いもん。


私は心臓をバクバクさせながらも、今日も楽しみの絵を描こうと机に向き直る。


いつも飽きちゃうけど、この趣味だけは半年も続けられてるの。


……まぁきっと、いつか飽きちゃうんだと思うけど……。


……はっ!

いやいや!頑張るって決めたでしょ!まい!


「っ……!」


私は必死にペン先に集中する。


実は私、自宅警備員として働く前から、ここに居る悪い奴らに攻撃されて、後遺症をいくつか負っちゃってるの。


怪我とかだけならまだ良いんだけど……悪い奴らはとっても悪い奴らだから、その他にも変なものから困るものまで色んな魔法をかけてくる。


例えば……気力が出ない魔法。


諦めてしまう魔法。

何事も続かない魔法。

言い返せない魔法。

泣きたくないのに泣き虫になる魔法。


まだまだあるし、多分私が分かってないのももっとあると思う。


そんなに魔法をかけられるもんだから、悪い奴らに会った時は過敏になっちゃって、後ろをドスドス歩かれるだけで、とっても嫌な気分になる様になっちゃったんだよね。


「!」


そんな風に、ちょっぴりナイーブになっちゃっていると、通知音が一つ鳴った。


『まーちゃんさん、今日の絵も可愛いです!』


……嬉しい。

この一文で、今までのモヤモヤ、全部吹っ飛んじゃった。


『ありがとうございます!』


ニヤニヤが止まんない。

絵を描く様になって、私は初めて評価された。


評価されるって、とっても嬉しい事なんだねって、毎回思う。


学校の体育とかテストとか、例え上位の方でも順位がつくのが苦手で億劫だったけど、こういう形の評価って、びっくりするくらい嬉しいんだ。


「……ふふふっ」


私は思わず頬を緩ませて、枕に思い切り抱きついた。


心臓がドキドキ言ってる。

朝の心臓と違って、それはとっても心地良かった。


……あぁ、この時間だけ、ずっと続かないかな。


そしたら私は………………なのに。



****



「……」


嫌がらせなのかな?わざと?それとも偶然?


私がご飯を食べてる時に限って、近くでえずきながら歯磨きしてくるよね。

それね、気持ち悪くて仕方ないんだよね。


あと、私がお風呂に入ってる時、よく脱衣場来るよね。

わざとなの?無意識?


いつも自分勝手だよね。

私、大きな音苦手なのに、扉を閉めても聞こえて来るくらい爆音で音楽流したり、ニュース見てるだけなのにすっごく音量大きくしてさ。


知らない店員に怒鳴るしすぐカッとなってクラクション鳴らすし私のぬいぐるみを投げるしすぐ箸とかリモコンとかを投げつけ……




……あっ。


いけないいけない……取り乱しちゃった。


もうご飯喉に詰まって入らないし、髪の毛の根元はまだじんじん痛むし、ご馳走様にして早く部屋に戻ろう。


私が涙を拭って立ち上がり、食器を片付けて急いでリビングを出ようとした時。


「おい、まい!」


……お父さんの呼ぶ声に、ちょっとびっくりしてしまったよ。


でも私は、それになるべく平常心で振り返るの。


「……なぁに?」


あーあ。

やっぱり声、震えちゃうなぁ。




私はまい。

訳あって、自宅警備員やってます。


……今日も私の活躍で、お家の平和は保たれる。


私が学校に行けなくなったのも、

私が泣き虫になったのも、

私の痣が治らないのも、


全部全部全部全部あいつのせいだけど、私は今日もこの家で、まだ笑えないでいるの。







































































だって、出られないから。


誰か助けて。

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