最終話 「紫色のクロッカス」

「せやなあ、まず“俺”はほんまに恵まれて生きてきたんやな。今も過去も全部通して、俺は気付かされる連続や。ほんまにみんなに支えられてここまで来た、みんなおらんかったらここまで来れへんかったかもしれん。やから、このまま進む道を信じて進んでいきたい。それがみんなへの恩返しになる、と思っとる。」

「なるほどなあ、それが“俺”の描く“”か。ほんで、その道中の構想に、Aはいるのかい?」

「はあ・・ほんま、我ながらお前もアホやなあ。もちろん、“俺”はAが好きや、けど選ぶのは“俺”じゃない、Aや。ただ、別に諦めるとは一言も言ってへん、むしろなんか、お前のおかげで自信湧いたわ。」

「でも、もしそれで、誰にも相手にされない未来がくるとしたら?なんでそんな余裕でいれる?なんでそんな自信を持てる?過去を見て今を変えたところで、明るい未来なんてないかもしれんのやぞ。」


全く、、心配性の“俺”を手懐てなずけるのもマスターの仕事だ。主人格ながら自身を賞賛する。きっと、悩んでいた“俺”のことが心配になって、こいつは過去の案内人として出て来てくれたのだ。ありがとう、でももう大丈夫、心配すんな。

そして“俺”は、受付の“俺”にこう返す、


「自信もなにも、そりゃ“俺”が“俺”やから、やろ。さっき“俺”は、みんなの支えが大きかったて言うたやろ、けど、ずっと一緒に楽しい時も苦しい時も頑張ってきたんは、何より“俺”自身やろ。お前もその1つや。“俺”は、お前らのおかげで成長出来た。お前らとなら、これからもなんぼでもやってけると思うねん。」

「・・・なら、この道の先の未来が明るくなかったら?」

「正直、未来がどうなるかは保証できん。けど、未来で、“今”である“過去”を振り返った時、いい選択だったなあって、お前とまた仲良く映画を観れる、そんな未来を“俺”が作るわ。やからさ、今は、“”くれ。」

「・・・ふぅ、オッケー。主人マスターの言葉をこれからも信じていくわ。けど、A好きなんはやめんなよ?!」

「はいはい、わーっとる(笑)“俺”がいつも好きなんは、目標への近道、やったか?」

「いや、険しい道の歩き方、やな。」

「そゆことや。それに“俺”は最強や、任せんさい。」

「どうにもモヤが晴れて完全復活ってところやな。やっぱ君が主人マスターやわ。最後に答えを聞けて良かった。もう当分、映画館を開けることはないだろう。」

「そっか、なんかその、ありがとう。もう会うこともなさそうやけど、最後に伝えとくわ。」

「なんやねんそれ(笑)自分に感謝されるん違和感やわ、それじゃ、一番近いとこで、最高の景色を見せてな、バイバイ」


おう、またな。



−ピピピピピピピピ。

スマホのアラームが鳴り響く、急に起こされる時ほど機嫌が悪いものはない。

「あー、もう朝か。」

昼前から支度を始めるのは、ここ最近では久しぶりだ。

花を探しに花屋に向かおうという次第だ。日頃の感謝を伝えるには良い日なのだ。

そう、今日は母の日である。


「おばちゃん、母の日のお花あるー?花束作って欲しいんやけど。」

「いらっしゃい、準備するから待っときや〜」

地元での買い物はフランクで助かる。


多種多様の花が、売られていることを知らなかった俺は少々驚いた。たくさんの花たちを眺めていると、ガーデニング用の花がやけに目に留まる。


「ごめん、おばちゃんこれなんて花?」

「あ、それね、クロッカス言うねん。クロッカスはいろんな色の花が咲くんやけど、紫だけはあまり好かれへんねん、キレイなんやけどねえ。」

「へえ、また何故に紫だけ?」

「それは花言葉が関係してるんよ。紫だけ、“恋愛の後悔”?みたいな悲しい言葉で、育てるにもプレゼントにも適してないのよ。」

「・・・なんか、紫色のクロッカスの写真とか見れたりしますかね。」

「あるよ!えっとね、こんな感じなのよ、ほら、キレイでしょ?花言葉に合わずキレイに咲くのよ。勿体無いわよね。」


思わずにやけが止まらない。変わった花もあるものだ。


「紫色のクロッカス。もしかしたら、“俺”、この花が一番好きかもしれません。」



“俺”の中の後悔は、未来での結実けつじつのために道標として今日も輝く。

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紫色のクロッカス 赤石賢帝 @kenty_y

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