第5話 「なにわの女は気が強い」
−ふと気づけば頭の中の映画館に到着していた。
今夜は、やけに映画館が明るい様な気がする。レトロなミュージックは影さえ見せずに、耳に残る有名な流行りのラブソングだけが流れる。
「おい・・・これは一体どうなってんねん。」
「お!来たね!昨日はお疲れさん!」
「いやもうそれはええねん、この、アイデンティティを失ったかのような映画館の雰囲気、何がしたいねん」
「いやいや、“俺”は祝いたいのよ?ダブルミーニングでよ。」
「・・、1つ目は?」
「そりゃモヤ解消おめでとう〜!昨日が決定打になったようで?(笑)」
「・・・、2つ目は?」
「え。だって今日、Aについて観るやん?楽しみでしかないに決まっとるやろ!」
「なら、その手に持ってるもんはなんやねん。」
受付の“俺”が持っていたのは、いま“俺”が絶賛片想い中のAのフルネームが貼られたうちわだった。いや、ライブかよ、とこんな安いボケに“俺”のツッコミを消費するのはあまりにも勿体無いと感じ、我慢することにした。
「もちろん、“俺”の分もあるで」
と、こいつは“俺”にうちわを渡してきた。しかし、今日の“俺”は一味違う。ここで断るような釣れない男じゃない。正直、一番楽しみにしていたアーカイブだ。“俺”もこいつも“俺”なんだ。こいつがこんなにも楽しそうなら、それは主人格もそれなりに楽しみにしているということだ。ここで一緒に盛り上げれないようじゃ主人格失格だ。やってやろうじゃないか。“俺”はうちわを受け取ると推しのアイドルライブに参加するかのような気持ちで過去鑑賞に臨む。
− 画面には、真っ赤なガウンと帽子を持つ“俺”が映る。あの日だ。当時、“俺”がアメリカの2年制大学を卒業したので、その時の服を着て一旦の卒業おめでとう会をAと他の友人とした日である。また、時系列で言えばTと縁を切る形になった日から2ヶ月ほどが経った時だ。立ち直れていたかと言えば、フィフティーフィフティー、絶妙なラインだ。ただ、この日は、確認したいことがあってAを誘った次第でもある。
“俺”は、Aが好きなのかもしれないと思ったから、である。
少しAについて話そうか。
AはO阪出身の同い年の女性で、クリっとした目に印象的な
それは、“俺”がTに振られた時であった。
Tに振られた時に話を聞いてくれたAはこう言った。
「ちょっと、Tちゃん最低やな思ってもた。“俺”はそんな子に時間かける必要ないで、もっと良い人が絶対おるから。」
案外、普通の励ましなのかもしれない。だが、当時の俺にとって、あんな柔らかい性格のAが、こんなストレートな発言をすると思わなかったのだ。さすが、なにわの女。O阪の女性に逆らうのはやめておこうと感じた瞬間でもある。少し脱線した、時を戻そう。
−“俺”の卒業式の服を使い、撮影会が始まった。やはり女性陣は“俺”よりも似合う、それに流石に真紅の色がより映える。“俺”はこれが今後の思い出になればいいなとカメラを向けた。
「どう?似合う?」
Aにカメラを向けた時、遠くの電灯とAの頭が重なり、
文字通り“俺”の初恋はここから始まる。
確認したかった“俺”のスタート地点、あの笑顔だった。
受付の“俺”が満足気に話しかけてくる。
「いやーやっぱ、ほんまにばり綺麗やなA。」
「まあな、世界一可愛いな。」
「もうほんま、玉砕覚悟でいってみてや」
「それ、ミスってダメージ食らうのはお互い様なんよ。」
「ま、とりあえず、これで
なるほど、最終問題として、シンプルかつクリアだが、ある意味この手の問題が一番難しい。「現在」の視点から「過去」を振り返り、そして「未来」について考える。我ながら回りくどくも勉強になる教授論だ。
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