第15話 暗部と発覚
リュミール王国 アンジェ迷宮伯領 トルム村 ダンジョン深部―――
「現状では、こちらの目論見通り進んでいる、と言ったところだね」
ダンジョンの奥では、4体の魔物……エスト、ネイ、ソフィア、サイエが円卓に座していた。
ネイが羊皮紙にかかれた内容を共有し、現状の説明を行っているところだった。
「
冒険者間での装備を巡った殺人も、発覚したものだけでもかなりの数だ。
もっとうまい具合に射幸心を煽って、彼らの道徳を麻痺させる手段はないかな?」
「それなら『
記憶を一時的に消したり、常習性のある
「なるほど、試してみましょう」
ソフィアがネイに意見し、ネイはその発言をメモしていく。
そしてふと、顔を上げた。
「さて、こちらもそろそろ次の手を打つべきでしょうが……。
その前に、まずは『受け』ないといけないかな。
そろそろ、人間側にも、この村の異常さに気が付いた者が出てくるはずだ」
リュミール王国 バーゾク伯爵領 都市アルビア―――
サーモ伯爵は羊皮紙に書かれた内容を、真剣に読んでいた。
そしてふと顔を上げ、他の羊皮紙や
内容を見比べると……彼はさらに、顔を険しくさせた。
「如何しましたか、サーモ様」
カランが紅茶を手に書斎へと入ってくる。
サーモは礼を言って、菓子は食べずに紅茶だけをすぐに飲み干した。
「例のダンジョン……復興したトルム村の税収報告のことなんだけどね」
「ああ。やはり、あの新領主では、とても運用できず赤字ということですかな?」
カランが溜息をつくが、サーモは「いいや」と首を振る。
「違う……むしろ逆だよ。トルム村は順調に経済発展しているんだ。
税収だけで言えば、僕の管轄の開拓村の中でも屈指だよ。
今一番勢いがあるといっても過言じゃあないね」
「それは、良いこと……ではないのですか?」
カランは首をかしげる。
儲けが十二分に出ている、と言うサーモ伯爵の顔が、余りに険しかったからだ。
「そうなんだけど……順調すぎるんだよ。」
サーモ伯爵は書物や羊皮紙を取り出す。
古いものもあれば新しいものもある。
中にはサーモ伯爵が産まれる前に書かれた古いものもあった。
サーモ伯爵はそれらの中からいくつかを取り出し、机の上に並べた。
「僕だって伯爵として仕事して、それなりに経験踏んでると自負しているけどさあ。
ダンジョンって、経済的には安定しないんだよね。
まあ単純に考えて、市井の冒険者がどういう風に動くかなんて予測つかないし……
例えば偶然、同種の魔物が沢山出現して、その魔物が落とす素材とかが過剰供給になって値崩れしたりとか。
全部ひっくるめると最後には儲けられるんだけど、山あり谷ありあって当然な物件なんだ、ダンジョンって」
サーモ伯爵が羊皮紙をカランに見せる。
そして、その内容を見たカランもまた、怪訝な表情を浮かべた。
過去の
「……これは」
「そう。とても順調だろう?
まるで線を引いたよう……誰かが定規で線を引いたような。
とても理想的……あまりに理想的すぎるんだよ、この収益。
でも報告を見る限り嘘じゃあないみたいなんだ。
夢のようなことが実際に起きているみたいなんだよね。
まるで、ダンジョン自身が儲けをコントロールしているみたいに」
サーモは報告の羊皮紙を手放すと、新しい羊皮紙を取り出してペンを走らせる。
そしてサインで締めると、封をしてカランへと手渡す。
「調査員を出そう。あの村はどうも、おかしい」
【未完】惨禍の迷宮 三二一色 @321colors
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