第14話 末路と始まり
リュミール王国 アンジェ迷宮伯領 トルム村 レイード武具店―――
「はっ?!」
アイは跳ね起きた。
頭に乗っていた水で冷やされた布切れが落ちる。
周囲を見渡すと、ここはどこかの宿屋の一室のような部屋だった。
簡素な調度品が置かれ、アイはベッドに寝かされていたらしい。
「わ、私は一体……ダンジョンに入って、『
混乱するアイだったが、ノックと共にドアが開く。
アイが目を向ければ、そこには武具商人のレイードだった。
下働きのメイドの女性も控えている。
「気が付いたかい?君は、ダンジョンで倒れていたらしくてね。
たまたま見つけた冒険者が連れてきてくれたんだ。
ちょうど買い物をしてくれたから顔も覚えていたしね。
……あ、介抱は彼女に任せたからね、安心してくれ」
「は、はい……ありがとうござい、ます」
アイは未だ混乱から立ち直れず、釈然としないながらも、しかし感謝を口にする。
が、周囲をもう一度見渡すと、思わずレイードに尋ねた。
「あ、あの……私の仲間……男性2人の、オーンと、エーウは……」
「……ああ、彼らかい」
レイードは実に、残念そうな表情を浮かべた。
「二人とも死んでしまったそうだ……ダンジョンの中でね。
魔物の持っている武器で攻撃された痕があった……きっと君を守ろうとして、最後まで戦ったんだろう」
「そんな!」
アイはベッドから立ち上がり、レイードに詰め寄ろうとしたが、しかし足元がふらついてしまう。
それをメイドが介助し、落ち着かせるようにゆっくりとベッドに座らせた。
アイは顔を両手で覆い、やがて、むせび泣きはじめる。
「…………」
レイードはその様子を視て……アイから自分の表情が見られない今だからこそ……ニヤリと笑った。
数度、自身の唇を舌で舐め、さも真剣そうな、きりっとした表情を浮かべてアイに話しかける。
「大丈夫だ、この村には教会がある。
そこに連れて行き、お布施を支払い、祈り念じれば……生き返らせることができるのだ」
「!」
その言葉にアイはガバっと顔を上げる。
「払います!だから2人を……」
「お布施は1人につき、最低でも金貨が4枚……つまり8枚必要になる。払えるかい?」
「き、きんか8まい?!」
アイは絶叫する。
金貨8枚なんて、単なる農民で駆け出し冒険者の自分たちが払える額ではない。
村に戻って皆からお金を借りて、かき集めても足りない。
絶望するアイに、しかしレイードは穏やかに話しかけた。
「もし君が望むなら……代わりに、私が出してあげてもいい」
「え?!ほ、ほんとうですか?!」
「だが流石に金貨8枚……無償とはいかない。
君には、金貨8枚分の対価として……奴隷として働いてもらおう」
「そ、そんな……それは……」
顔を青くするアイに、レイードは続ける。
「いやなら構わない。
君を助けた分は私の善意なので構わないが……2人の死体は私が預かっているので君に返そう。
メイド、彼らの遺体の準備を……」
「……わ、わかりました、なります、奴隷になりますから、どうか……」
顔を伏せるアイに、レイードは満面の笑みを浮かべた。
「ふふ……じゃあ書面にて、契約を結ぼうか。
さて、奴隷としての君の仕事だが……」
レイードがアイの頬に触れる。
身体をびくりと震わせる彼女に、レイードは再度笑みを浮かべ、唇を舌で濡らした。
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