海軍の未来?

『海軍建設の今後と仮想敵国に対抗する為の戦略ドクトル』


この論文に書かれた内容は言ってしまえば現在海軍が押し進めている大艦巨砲主義から来る戦艦建造の否定と艦隊保全主義並びに航空主兵論への転換

それに伴う補助艦艇や潜水艦の充実化、海兵魔道士や航空戦力の増強の必要性とそれらを用いた戦術・戦略プラン

また海軍海兵隊の質的改善による強襲上陸能力の強化による敵要所への浸透攻撃が持たらす効果等が書いてある。


「アル・エルドリード少尉。貴官の卒業論文を読ませて貰った。要点が解りやすい素晴らしい論文だ。」


「きょ、恐縮です!!ルーデン・ハイマン少将閣下!!」


鋭い眼光に、左目部分にある傷跡を持つ海軍指折りの名将でもるルーデン少将の言葉に俺は本心では無いだろうと考えていた。


「だが我々海軍としてははっきり言って理解し難い内容だ。我々の仮想敵はこの論文にも有るように連合王国海軍だ。かの国の海軍に勝つには戦艦の建造は止めるわけにはいかんのだ。それに海兵魔道士や航空戦力の充実化でそれらに対抗すると有るがどうするのかね?まあ海兵隊の質的改善には同意するが。」


やっぱり否定してくるか…

確かに今の時代では大艦巨砲主義を捨てると云う選択肢を考えつかないだろう。

だが問題はそこでは無いのだ。


「恐れながら閣下、発言宜しいでしょうか?」


「構わん。私は君の真意を聞くために呼んだのだからな。話してみよ。」


「はっ!!では何故、自分がその論文にある結論にたどり着いたかですが主に3つの理由があります。1つ目は我々が大陸国家だと云う点です。」


「どうゆうことかね?」


俺が云わんとしていることが解らないのか少将は問い掛けて来る。


「大陸国家の海軍である我々と海洋国家の海軍である連合王国海軍では求められる役割が違うと云う訳です。我が国は大陸国家であり、自国内で資源を賄う事が出来、シーレーン防衛を殆ど考えなくて良い我々は今の戦力を維持するだけで連合王国海軍本国艦隊からすれば十分に脅威となりうるのです。」


「なるほど。奴らと我々ではそもそもの在り方が違う訳か。だがそれでも戦艦の建造を続けるべきでは無いのかね?」


「それは2つ目の理由になりますが我々と連合王国では海軍に掛ける予算、人員、港の数、造船所、全てが足りません。このまま建艦競争を続けてもそれらを無駄に消費するだけでなく、何れは今ある艦艇すらまともに動かせない事になるのは明白です。我が国の現状を鑑みればこれ以上の建艦は国防上の致命的な負担になりかねないと思います。」


「我々、軍人の務めは国を、民を護ること。このまま行けば我々こそその最大の障害になるわけか…」


少将はしっかり説明していくに連れて、俺の言いたい事を理解してくれたらしく、顎に手を当てながら唸る。


「はい。ですがこの点は3つ目の理由である2次元戦闘から3次元戦闘への以降で解消されると思います。」


「2次元から3次元への海戦の以降だと?」


「はい。今迄の海戦は2次元。つまり軍艦通しが海上で撃ち合うだけの戦いでした。ですが今、我々には潜水艦や海兵魔道士、航空戦力という3次元で戦う術が有ります。」


「それは敵も同じでは無いか。」


「確かに彼らにもそれらは存在します。ですがそれら新たな兵科はまだまだ戦術が確立されてませんが帝国が彼らに先んじて戦術を確立させたらどうでしょうか?それに合わせた訓練を今から行えばどうでしょうか?」


「それら新戦術に関する運用並びに訓練ノウハウを我々が奴らに先んじて手に入れる訳か。それにその戦術に今から取り組めば有用性に気付き、慌てて組織する彼等より優位に立てる訳か!!それがこの論文にある戦術プランか!!だが本当に出来るのかね?魔道士の攻撃では戦艦は撃沈できんぞ?」


「閣下、確かに魔道士では戦艦のバイタルパートを破る事は出来ません。航空機より速く飛べません。ですが我々、魔道士の利点は小回りが効く上に的が小さく、夜間や悪天候であれ飛行し、敵艦隊に攻撃できます。また無理に撃沈する必要はありません。例えば艦橋やスクリュー、非装甲部分への攻撃による指揮系統や戦闘能力を削ぐことは可能です。また戦艦以下の艦艇で有れば撃沈も十分な装備と人員、練度が有れば可能だと確信しています!!さすれば我が方の主力艦隊を艦隊決戦まで損害を抑える事も可能ですし、艦隊維持も可能になりますが敵は多大な損害が出るだけでなく、何れは艦隊戦力比の逆転も可能だと確信しています!!」


「なるほど。実に斬新かつ、大胆な意見だ。解った!!私から上に話を通そう。私とて無駄な戦艦の建艦競争は常々止めさせたいと思っていた所だ。新しい代役が務まる兵科がある上にコストが安いならそちらが優先だ!!だがそれも本当に役に立つか見極めてからだ!!人員はそうだな取り敢えず1個中隊を預ける!!半年で戦艦を倒せる事を証明せよ!!良いな!!」


「ハッ!!了解しました!!」


ルーデン少将の要求に俺は顔が引き攣りそうになるのを抑えながら敬礼で答える。




コレが後に列強各国が恐れ、模範する事になる帝国海軍海兵魔導航空隊と海軍特殊任務作戦群『スカー』が生まれる切っ掛けになるのだった。

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海軍航空魔道士の奮闘記 @kulou777

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