第25話 これからの話リターンズ

 というわけで、私の家のリビングにみんなをお招きした次第。10畳に満たないので七人もいると狭苦しい。まあそれは今は我慢だ。あ、ていうかみんな靴履いてるじゃん、やめてよもう人ん家ぞ、ここはそういう文化圏じゃないんだから、とみんなに玄関で靴を脱いできてもらっていざこれからの話リターンズ。

「さて、とりあえず状況を整理しましょうか」

「今ごろ聞かせるさんの国では私たちを血眼で探しているでしょうね」

「特にノワのことをですね、そういう取り引きだったわけですから」

 ノワが苦笑しながら言うので、私も釣られて少し笑いながら言う。

「まあそれはどうでもいいんですが。義理も何も、人のことを戦争に巻き込む輩はろくでもないに決まってます。どんな大義名分があるにせよ、私たちは御免です、という理解でよろしいでしょうか、皆さん」

「わしゃあそんなこと思っとらん、反魔法的思想は駆逐せにゃならん」

「お爺さん、私の魔法のことを一番よく知っているのは私なんですよ」

「命には代えられん、ここは情勢を見守るとしよう」

 と、勇むお爺さんをノワが制して、私はみんなを見回す。うん、みんな概ねそんな感じと頷いてくれた。そりゃそうだ。私たちは戦闘民族じゃない。ただの一般魔法使いの面々だ。平和が一番に越したことはない。

「それじゃあこれからとりあえず皆さんの望む場所にお連れしますが、安全第一です、目立つ行動はできませんし、なるべくみんな一緒にいましょう、いつでもあのホテルの部屋に逃げ込めるように」

 ということで、私たちはそれぞれの家族の元へ向かい事情を説明して、いつでもまた会えるように緊急時の待ち合わせ場所や連絡手段を確認して別れた。そして最後に私たちは過去さんのお店で一息ついて、礼拝堂に向かった。ここが緊急時の待ち合わせ場所となるので、どこに行くにしても、まずはここからということになったのだった。

 それにしてもこうもいきなり自由に場所を行き来できるようになるなんて思わなかったから、何だかまだ気持ちが浮ついていて、今ならどこにでも行けそうな気がするし、実際にどこでも行けるのだ、祈りが通じさえすれば、と考えたところで私はやっぱり不安になった。どうして魔法が使えるか分からない。とりあえず通じてほしい場所を祈ってドアを開けるとそこに通じているけれど、それが本当の因果関係にあるのか分からないし、もし何かほかの条件があってそれを見落としているのだとしたら、そう考えるといてもたってもいられなくなる。だからこの魔法の発生原理を知ることができて、正しく魔法を使うことができるのなら、多分何も怖いことはないのだけれど。今の私にはこの魔法を自分の力だなんて思うことは到底できそうにないし、この先も同じだろう。魔法を利用しているというよりは、何か魔法に試されているような気さえする。そう言ったノワの言葉を私は今少しだけ理解し始めようとしていた。師匠の言葉だ、さすが示唆に富んでいる、とノワのことを初めて師匠として意識しつつ、私は私にできることをして、自らの安全を確保しなければならないのだ。

「さて、これでひと段落ついたわけですが、ここで皆さんの意思を確認しておきましょう」

「そうですね、とりあえず身の安全と自由が確保されたんです、ここからはそれぞれが思い思いの行動を取った方がいいでしょうし」

「何にしても私は皆さんの側にいます。私の魔法で行ける場所ならどこにでもお連れしますし、力になれることはなります。せっかくこうして集まった縁ですし、私は大事にしたいと思っています。まあやることがなくて単に手持ち無沙汰なだけなんですけどね」

 私がそう言うのをみんな暖かい目で見守ってくれたことだと思う、各々差はあれど笑顔で頷いてくれた。

「じゃあ変身さんから、これからどうしましょうか」

「そうですね、僕は変身の魔法ですし、自分がないですし、元来やりたいことがあるわけでもありません。だから皆さんのやりたいことに協力したいと思います。きっとお役に立てると思いますので。あ、でも一つだけ。僕の兄を探すのを手伝っていただきたいです。今の情勢でどうしてるかとても心配なので。よろしくお願いします」

「分かりました。こちらこそよろしくお願いします。じゃあ次は花せるさん。これからどうしましょうか」

「僕は大学生でしたが、実はもう4回生で、あとは卒業だけだったんです。就職先も決まってて。ただ、Sさんの魔法を知ってしまって欲が出てしまいました。私は世界中の花と恋愛したい」

「はい?」

 そう言ったのは茄子の花さんの育ての親であるノワだった。まあみんな何言ってんだこの人、という目では見ていた気がする。いや、私はなんかロマンチックだなと思った。いいじゃん。

「ああいえ、もちろん茄子の花さんのことが一番好きです。でも世界中には僕の知らない美しい内面を持った花がまだまだ存在していて、彼女たちと話すことは僕にとっては生きがいなのだとホテルの部屋で過ごしていて思い知りました。だから宜しければ、菜園の管理をお手伝いしつつ、Sさんに外国に連れて行ってもらえればなと」

「僕はいいですけど、観光とかしたいし。でもノワと茄子の花さんが何と言うかは分かりませんね」

「だめ、とは言えませんよ、そんなキラキラした目で言われたら」

「ありがとうノワっ」

「近寄らないでください浮気者」

「ええ」

「まあまあ、それでは次は過去さん。これからどうしましょうか」

「私はお店、というか、お茶とお菓子をみんなに提供できるならどこでもいいんだけど、それができればとりあえずいいかな。あとはみんなにいつでも過去を見せられるようにしておくこと。今はその二つ。よろしくね、みんな」

「はい、よろしくお願いします、過去さん。それじゃあ次はお爺さん」

「わしゃこの国の魔法狩りをやめさせること、そして魔法使いの地位向上に努めることじゃ。老い先短い、いやわしもうゾンビじゃったから老い先ないんじゃが、のすることじゃ、みなが付き合う必要もない、若造は連れていくがの」

「え、それは嫌なんですが」

「さっきみなさんの側におるって言ったじゃろ」

「その皆さんにお爺さんは入っていなかったんですよ」

「じゃかしいっ」

「痛くないですっ」

 と、いつもの杖で叩かれつつ、次、

「祈りさん、これからどうしましょうか」

「私はここの雑用見習いとして、今まで通り魔法に苦しむ人を助ける仕事がしたい。それからSさんとお祈りがしたいな」

「うん、分かりました。私もお祈り、祈りさんとしたいです」

 二人目を合わせて笑い合う。祈りさんは可愛いなあ。娘にしたい可愛さだ。

「それでは最後にノワ、これからどうしましょうか」

「私は、魔法を解きたかったんです。でも、魔法は解けるとか解けないじゃなくて、ただそこに突然現れて、良くも悪くも私たちの運命を上書きする。それが分かった今、魔法を解きたいとは思いません。もっと魔法のことを知りたいと思います。手伝ってくれますよね、Sさん」

「もちろん、弟子ですからね、師匠」

 そう言うとノワは目尻に涙を浮かべて笑ったのだった。

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私と魔法の話 @noixion

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