第24話 出発
「と、まあ、こんな感じで、自由に扉と扉を行き来できるようになっちゃいまして」
言いながら私はガチャガチャ扉を開け閉めしてみせる。接続先はノワの浴室、にしたら怒られそうだから家の玄関。みんな驚くだろうなーと思って振り返ると案の定空いた口が塞がらないようだった。ノワはひと足さきに先ほどの狼藉を非難しに来て知っていた。
「こんなことってあるんですね」
と、変身さんがつぶやく。みんなもそれにゆっくりと頷いていた。まあ皆さんも大概ですけどね、と私は思うわけだけど。
「Sさん、すごい」
と、今度は祈りさんが言った。
「ありがとうございます、って言っても私はただ祈っているだけなんですけどね」
本当にその通りで、どうしてこんな魔法が使えるのかさっぱり分からない。だから祈りという単純なキーじゃなかったらどうしようもなかった。
「祈りさんとお祈りしていた甲斐がありました」
そう言うと祈りさんは泣き笑いのような表情、初めて見た、で、
「そうだね、私のおかげでもあるかも」
と言った。うん、一生覚えておこう今のお顔。私が心のファインダーを更新していると、過去さん、お爺さん、花せるさんも私を褒め称えてくれた。よせやい、照れるやい。慣れてないから本当に居心地が悪くなるからやめてほしいな、と思いつつ、皆の思いを受け取った。魔法ってすごいな。まさに不可能を可能にする。理不尽に物事を解決してしまう。
「若造、こんな魔法があるなら、戦争になんかならずに魔法狩りをやめさせられるかもしれんぞ」
「ええ、みんなの家族とも無事に再会できそうです。私も菜園のみんなと、茄子の花さんとまた会える」
「会長元気かな。あの子も」
「私はお店が心配」
「僕は両親に会いに行きたいな」
みんな口々にこの二週間で溜まっていた思いを打ち明ける。そしてノワも、
「そろそろあの土管の寝心地が恋しくなっていました」
「ノワ、私は何も言えません」
「い、言ってくださいっ」
とまあみんなご機嫌、私もご機嫌、これで万事解決、と行くのだろうか果たして。あまりにも突拍子のない私の魔法覚醒に私自身が得体の知れない不安を抱いていると、リリリリリンッ、と部屋の呼び鈴が鳴った。ご機嫌だったみんなも私も一斉に肩をビクッと持ち上げて驚いて、扉に振り返った。コンコンとノックも聞こえてきて、慌てて私は扉をホテルの廊下に通じるように祈って開けた。すると目の前には聞かせるさんを王陛下と呼んでいたおじさんが訝しげな表情をして立っていた。
「皆さん自室にいらっしゃらなかったようで探しに参ったのですが、こんな狭い部屋に大勢でお集まりになってどうなさいました」
「なんてことはありません。みんなで人生ゲームをしてたんです。じいさんも一緒にどうですか?」
「いえ、それは結構ですが、あまり心配をかけるような行動は謹んでいただきたいと存じます。では」
と、こちらの返事も待たず、みんな揃っていることだけ確認してじいさん、そう呼んでよかったのだろうか、はそそくさと去っていった。そして私は思った。もうここにいなくてよくね、と。なのでみんなの方を振り向くと、
「行きましょう、Sさん」
ノワが力強くそれを肯定してくれた。みんなも行こうと言ってくれた。
そんなこんなで私たちは元いた国に私の魔法で歩いて渡ったのだった。
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