番外編1 リンゴ飴みたいに真っ赤なほっぺ

「藤堂はほんとに、何考えてるかよくわかんないよなぁ」


 呆れたような、感心したような声で、千村がそう言った。

 色々あって、泉と二人でするつもりだった大学の講義の課題を、このいけ好かない男も一緒にすることになり、その準備のため家に招いたわけだが、泉と僕の関係をどうにかして探ろうとするので、のらりくらりと躱していた。

 

「お褒めに預かり光栄です」


 嫌味なくらい満面の笑みを浮かべてそう返せば、「怖いなぁ」とわざとらしく肩を抱く。内心、そっちの方が何考えてるかわからんわ、と毒吐き、相手と自分の相性の悪さを感じていれば、


「そうかな、僕は要が何考えてるかすぐわかるけど」


と、恐らく俺と千村が考えていることなんて凡そわかっていないであろう泉がカットインしてきた。


 あまりに得意気な顔でそんな可愛いことを言う泉に、思わず俺は吹き出し、千村は腹を抱えて笑い出した。勿論、泉は訝しげな表情をするだけで、何故俺たちが笑っているかはわかっちゃいない。本当に無垢というか天然というか。


 一頻り笑った千村は、泉の肩にぽんと手を置いて言った。


「正直、名取の考えていることなら、俺、すぐわかっちゃうよ」

「なんだと! お前僕のことやっぱり馬鹿にしてるだろ!」


 きゃんきゃん吠える泉を嗜める千村、正直見ていて気分のいいものではない。

 なんて言ったって、泉と俺はお付き合いをしているのだから。


 課題もほぼ完成しているし、そろそろお引き取り願おうと、俺が口を挟む前に、怒りが頂点まで達したらしい泉が


「もうお前帰れ!」


と、ごめんごめんと笑いながら謝る千村を追い出そうとするので、願ったり叶ったりで笑顔で奴に手を振った。

 泉にコートやら鞄やらを投げつけられ、漸く観念した千村は


「わかったよ、帰るから、もうそんなに怒るなよ、な、名取。悪かったって」


なんて謝りながら、玄関口に逃げるように向かった。

 そして、靴を履いている途中、こちらを振り返って


「でも、藤堂も、名取ってばこんなに鈍くて困らない? よく我慢できるよね」


と、自分に問い掛けてきたので、適当に受け流そうとしたら、またもやその前に泉が


「ふん、お前とは出来が違うからな」


なんて、得意気にカットインしてきた。

 ああ、もう、なんなんだこの泉の突然のデレはもう!


 そんな俺の様子に何かを察したらしい千村は、


「あー……ごちそうさまでーす」


と捨て台詞を残し、帰って行った。勿論泉は、何がごちそうさまなんだ? という顔をしている。

 あいつ、どこまで俺たちのこと勘付いてるんだろう。


 そんな一抹の不安を抱きつつも、もう辛抱堪らず、何もわかっていない彼に近づき、囁いた。


「可愛いこと言ってくれるじゃん」

「……なにが」

「俺の出来、いいんだ?」


 しまったと言わんばかりにばつの悪そうな顔をして、千村よりはな、と呟きそっぽ向いてしまった。


「泉ちゃん、照れちゃった?」

「あー、もーうるさい!」


 もうだめ、語彙力ないけど、ほんとにもう、まじで可愛い。

 そっぽ向いててもね、泉。真っ赤な耳は丸見えなんだよ。


「いーずみちゃん」

「なんだよ」


 キスしていい、と尋ねると、あからさまに嫌な顔。


「や、なんで、そんなこと、いちいち聞くんだよ……」

「いいじゃん」


 聞いちゃダメなの、と距離を一歩詰めたら、少し焦って後退った。


 馬鹿だなぁ、逃げてもすぐ後ろは壁があるのに。


「つかまえた」

「……っ、かな」


 ぐ、と顎を掴んで、尻餅ついた彼の顔を上げさせ、自分の方に向かせたら、ギュッて音が聞こえるんじゃないかってくらい、きつく目を瞑った。

 可愛い反応に、むずむずと嗜虐心を刺激される。

 耳と同じく、泉のほっぺは真っ赤になっている。リンゴ飴みたいだ、赤くて甘くて、美味しそうな。


「泉」

「あ……っ、かな、め……ちょっと待っ……!」


 今まさに、いただきます、と押し倒した瞬間だった。


「ごめん、忘れものしちゃってさ」


 扉の外から聞こえた憎たらしい声に、さっきまで可愛かった泉が、かっと目を見開いて、慌てて俺の下から這い出した。


 なんてバッドタイミング。


 ああ、もう!

 こんな可愛い泉を前にして、お預けなんて、ひどすぎる! やっぱり俺は、千村が嫌いだ、大嫌いだ!

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いとお菓子 石衣くもん @sekikumon

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