第10話 問題児だらけの艦隊(1)
「軍隊」と聞いて、いったいどんなイメージを持つだろうか?
法令遵守で堅苦しいとか、訓練が大変とか、上官にぶん殴られるとか(?)
まぁ、大方そんな事が思い浮かぶか思う。
私もそうだと思っていた、というか実際昔はそうだった。
軍隊というものが正常に動くためには、上官から下された命令やその場の状況に対して、兵士たちが常に対応できるようにしなければならない。
ましてや軍艦に関しては乗組員一人ひとりがその艦にとっての手足である。たとえ世界一の性能を誇る戦艦であろうとも、各部署がまともに動かなければただのデカい的と化してしまう。
国の存亡と乗員全員の命がかかった戦闘中にミスは許されない。そのため、日頃の部下への対応はどうしても厳しいものになってしまう。
それ故、どう見てもただのバットにしか見えないものに「海軍精神注入棒」なんて大層な名前を付けて、何かやらかした兵の尻を殴り飛ばすなんて悪しき風習が生まれたりもした。
ただ、やはり時代の流れとともに海軍というものも変わっていくらしく、何かあればとりあえず鉄拳制裁の時代ではなくなったらしい。それ自体はいいことだと思うのだが・・・
・・・何故私がこんな話をしたのかというと、目の前の惨状が私の「海軍」のイメージからかけ離れていたからなのだ。
電に通された会議室は酷くとっ散らかっていた。あちらこちらにつまみの袋や酒瓶が転がり、とてもじゃないが人を集められる状態ではない。大東亜戦争末期の松代の地下壕だって、ここまで酷くはなかったろう。
で、ソファーにはこの惨状を作り出した元凶あろう白髪の女が一人、いびきをかいて寝転がっている。おそらく彼女も電と同じ人型の艦船なのだろう、手には転がっている瓶と同じものを抱えて、気持ちよさそうに眠っている。
「い、伊勢さんまた会議室で寝てる・・・すみません、今起こしますね・・」
我々が入室してもいまだ起きる気配のない伊勢と呼ばれた艦船は、電に強く揺さぶられてやっと反応を返した。
「い、伊勢さん。早く、早く起きてください~!」
「んぅ・・もう少しだけ寝かせて・・・せめてあと三時間くらい・・・」
まるでテンプレのような言葉が返ってきたが、要求する時間が長すぎやしないか。相場は3分とかだろ。
「駄目ですよぉ・・今日は新しい提督さんが来てるんですから、せめて今日くらいしっかりしないと・・・」
「んぇ、てい、とくぅ・・?」
電の言葉でようやく私の存在に気づいたらしく、
「あでで・・ん、よぉ、あんたが新しい提督なのかい?」
「あ、あぁそうだ。伊藤整一という。君は・・」
「アタシは伊勢だ、伊勢型戦艦の一番艦。海軍の人なら名前ぐらいは知ってるだろ?」
戦艦伊勢。
「ま、とりあえず一杯飲もうや。話はそれからだ」
「ちょ、ちょっと待て」
私は新しい酒瓶を開けようとする伊勢を制止した。
「なぁんだよ、酒飲めないのか?」
「いや、飲めはするが・・ずいぶん飲んだんじゃないのか?周りの酒瓶、これ全部君のだろ?」
まるでタマ無しと言わんばかりの目線を向ける伊勢だが、この状況を見れば誰だって止めるはずだ。軽く見ただけで少なくとも5本以上の酒瓶が転がっている。機械だからもしかすると何ともないかもしれないが、普通の人間なら泥酔では済まないだろう。
「大丈夫だって多分ただの二日酔いだし、ほらほらぁ~」
間違ってもそれは大丈夫とは言わない、二日酔いの意味知ってるか?
こんなところで吐かれたら困る。艦隊に着任して最初の仕事が部下(人工物)の吐いたゲロの掃除とか、絶対に嫌だ。
「・・・まだ夕方だし、晩酌に回してもいいか?」
「んー・・・分かった、約束だぞ?」
伊勢は渋々納得してくれた。しかし主力艦がこれでは前任が指揮にてこずるというのも納得のいく話である。
というか戦う以前の問題だ。いざというときに酔っぱらっているようでは砲の狙いが定まらないどころか、まともに動いてくれるかさえ怪しい。
なんだってこいつらの開発元はこんな造りにしたんだろうか。
「え、えっと。伊勢さん、普段こんな感じですけど、やるときはちゃんとやるので、大丈夫です。多分・・・」
私の心情を察したか、電が伊勢を擁護する。駆逐艦に心配される戦艦ってのは、果たしてどうなんだろう?
ちなみに、当の伊勢はそんなこと全く気にしていないようだ。
「つーか、新しい指揮官が来たっての、皆に言わなくていいのか?」
「あ、そうでした!今呼んできまぁす!」
トテトテと走り出す電を、酒瓶片手に見送る伊勢。完全に後輩を使いっ走りにする上級生の図である。
「苦労してるんだな、電・・・」
「へへへ、アイツは艦隊一の真面目ちゃんだからな、無駄に生真面目な奴は苦労すんのさ。アタシみたいに上手い休み方も覚えにゃならんっていってるんだがな~、どうもその気は無いみたい。ありゃ早死にするぞ」
「上手い休み方っていうか、君のはただのサボりだろう・・・」
機械が過労で倒れるのかは知らないが、仮にそんなことがあるとするなら少なくとも原因の大部分は伊勢だろう。
無能な上司に振り回される部下、今も昔も変わらない社会の闇を見た瞬間であったような気がする。昔の海軍もこんな感じだったなぁ。
伊勢の時点で既に不安しかないが、ここで投げてしまっては本土の神田さんに合わせる顔がない。それに電を含めてまだ二隻目である。他の艦船たちはまだマトモかもしれない。
淡い期待をまだ見ぬ残りの艦隊メンバーに賭けつつ、伊勢が飲み散らかした酒瓶を端に片付けながら、艦隊のメンツが揃うのを待つことにした。
転生NIPPON帝国海軍 陸奥ノ国 @mutunokuni
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