かすれゆく血みどろ

「タンスを処分したいんです」

「タンス引き取りのご相談ですね。後日自宅のほうへ、見積もりに伺わせていただきますが、よろしいでしょうか」

「はい、ええと、ちょっと待ってください」

いいですよね、と確認すると、彼女は小さくうなずいた。

「はい、大丈夫です」

「それではご住所のほう......」


「終わりましたよ。今度の火曜日の10時です。カレンダーにも書いておきますけど、自分でも覚えておいてくださいね」

私がこう伝えると、彼女は笑顔で、ありがとうと返した。


 彼女は数週間前から、最近よく聞くようになった終活というものを始めている。職業柄、高齢の方に接する機会は多いが、終活代行、というのは、なかなか新鮮だ。


「じゃあ次は..このお店、調べてもらえる?」

そう言って、彼女はケータイの画面を見せてきた。

「このお店おすすめされたんだけど、ちょっとよくわからないのよ」

「はい、一緒に見ましょうね......」


弟を除いて、彼女に肉親はいない上、その弟さんとも、あまりうまくいっていないらしい。それもあってか、自分の終わり方に、気が抜けないんだと以前話していた。


「......助かったわぁ。こういうの、私一人だと文字が小さくてよくわからないから」

「いいんですよ。それより、そろそろビデオメッセージの撮影のお時間ですよね。このまま準備しますね」


(100も超えそうだっていうのに、本当に、尊敬しかないよな)


パソコンとカメラの位置を、彼女の正面に整える。


彼女は今日も、彼女の記憶を、世に残し続ける。








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「タンスを処分したいんです」 ゴキヴリメロン @dktry

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