第41話 久しぶりに悪役を演じなくてはならないのだが 3



うん、話を戻すことに30分以上かかっていた。

普通にダラダラとお茶を飲んでいた後、不意にナツミさんが何かを思い出したように、

サリーさんの手を引いて、なにやら話し込んでいた。

何を話しているんだ???

思いの外、結構話が弾んでいるんだよな……。


「…………」


その間、ウィリムは我関せず、ティーカップを片手に手元にある本を眺めていた。

無駄な時間は増えてゆく一方だし、面識の薄いウィリスに沈黙されると心にゆとりを持てないな……。


「ウィリスは剣が上手いな。親が剣士だったりするのか?」


俺は何となく質問してみた。

前にウィリスと、ブラマ中に剣を交えたことがあるが、普通に強かった。

というか、洗脳されているせいでウィリスの判断力が落ちていたことが唯一の救いだったのかもしれない。

……今、タイマン張ったら普通に負けるかもしれんな。


だから、どうしてそこまで強く慣れたのかを知りたかった。


「っ!!え、えっと……親は剣士じゃないわ!」


急に声をかけられて驚いたのだろう。

ウィリスは、体をビクッと震わせた後、裏返った声で答えた。


「親が剣士じゃない?それじゃ、誰に鍛えてもらったんだ?」


あまり、反応には追求せずに質問を重ねた。


「近くの剣道場で神龍流儀を……見てたの。一緒に高めあうような仲間はいなかったわ」


めちゃくちゃ真顔のウィリス。

さては、俺と話す気がないな。


…………てか、神龍流儀を見て習得って言った?!


つ、つ、つまり……独学かよ!!

しかも、神龍流儀って……あれだけ高度に見える流儀を一人で習得していたとは……

結構尊敬する。


「それは凄いな……。他に特技はあるのか?」


これもあまり考えずに発言したものだった。

しかし、この質問で、ウィリスの家庭事情は顕になる。


「いや……。生活は大半は家事で埋まってる、だから剣以外の特技はないわ……」


「そ、そうか……」


何となくだが、地雷を踏んでしまった感がある。

まあ、この世界自体、福祉とか発展してなさそうだし、そーゆー格差もあるかもね。


それでも、時間のある俺より、ウィリスが強いって、この世界どうなってるんだよ…!

……というか将来の仕事に関わってくるから訓練の仕方が色々違うのか。


俺は何となく、全てを網羅することに重きをおいている。将来的にパーティー皆の特性を理解したいからな。


剣だけを熱心に鍛えるウィリス…。

もしかしたら、ウィリスは帝国騎士あたりを目指しているのかもしれない。

謎にその考えで納得してしまった。


……、時間はないけどできる限り色々手伝いたいな。

時間さえできればウィリムとも剣を鍛える時間ができるし、実戦経験として申し分がなさすぎる。

多分、これからのストーリーでウィリスに会うことはないでしょ?


俺勇者パーティーで帝国に行っちまうし。

ウィリスぐらいだったら、別に仲良くなっても問題ないと思う。


「ヒョーゴ様こそ、様々な技を駆使したあの戦いは見惚れる程だった…」


ウィリスはいつものように特段笑いもせずに平然な顔で答えた。

心なしか頬が赤い気がするけど…。


あー、イビルに洗脳されても記憶あったんだ。

それは逆に洗脳が溶けた後辛いな。

確かに、洗脳を抑えるために自分を刺そうとするのに納得行く。

てか、ヒョーゴ様呼びヤメレ。


「本気で無かったウィリスに、俺自身を評価される筋合いはない。」


俺の跳ね返すような返答にウィリスの顔が少し曇る。

しかしそれを無視するかのように俺は言葉をつづけた。


「だから俺は今度、本気のウィリスと対峙し力の差を見せつけてやる。

俺は手を抜いたウィリスに勝利して喜ぶような無様な姿を見せるつもりはない」


つまり、また勝負しよう。

というかこんなギザな事言っておいて負けるのだけは避けたいところ。

ウィリスが帰った後、剣も念入りに練習しよう。

今の所、俺の雑魚さを知っているのはサリーさんだけだから隠し通せる。


驚いた顔をするウィリム。

あ、あとヒョーゴ様って呼ぶのをやめてね?

なんか同い年ぐらいに言われるのは歯がゆい。

呼び捨てでよろしく。


「アタシも戦いたかった。次は本気で剣を振るわ。」


ウィリムは真剣な眼差しでこちらを見つめた。

そして……。


「だ、だからアタシの家に来なさい!!!」


一転して、顔を赤くしながら俺を見つめてた。

ん?

そこまで気にすることか?



ナツミさんは俺の事を過大評価しすぎだから、俺の実力事態なんとなくバレていない気がする。

………いや、でも、帝国一の実力を持つ騎士だもんな。

洞察力を侮ってはいけない。

普通に、勇者になるにあたってモチベーションをわざわざ上げようとしている線もあるし……。


「……」






~~~~~~~~





「ヒョーゴ少年。これを渡す」


不意にナツミさんは、手に持っていた紙を渡した。


中身を確認してみると、どうやら【勇者パーティーの招待状】らしきものであった。


「契約書なり。……まあだが、気軽にサインしてほしい。結局は勇者になったからには強制的に帝国に行かなくてはいけないなり」


ほうナツミさんは……これを渡しに俺の下に訪れたって訳かな?

賢者からもらったヤツよりも詳細に書かれている。

なんか勇者になるっていう実感がわいてきたぞ。

【偽勇者】だけども……。


「あと、ヒョーゴ少年も知っていると思うが、勇者パーティーにはレオンも一応加盟してもらう。あいつが使えるとは到底思えないが、勇者ならしょうがないなり」


うんうん、使えるとかは考えてないんだよなー。

とりあえず、魔王にとどめを刺せる権能を持つのが【勇者】だし、

レオンは必須だな。……性格がどうであれ、


「それと聖女という役職所持者も、称号を受け取り次第で強制的にパーティー加入する、という仕来りがある」


聖女と勇者の称号は同じ扱いなんだー。


「それと、パーティーというからには他の参加者が存在するということを伝えておく。帝国独自の試験を通して、決定するなり。だから他の参加者の腕は信用してもいい」


試験あるんだー。ほう。

だったら、サリーさんも試験通してパーティー加入でいいじゃんね?

その契約書には勇者パーティーの内訳も記載されていた。

大体、部門ぐらいあるらしい、


勇者(試験の必要なし)二人←今回は予測不能の事態が発生したため二人

聖女(試験の必要なし)一人

魔導士(試験あり)一人

盗賊(試験あり)一人

剣士(試験あり)一人


勇者パーティーのそれぞれの役職と試験が必要かどうかを纏めてみた。

魔導士、盗賊、剣士に試験が必要なのかー。

多分、帝国直轄の団体だから、魔物に殺されずに生きている限り将来は安泰だよなー。

倍率とか普通にえぐそう。

だって、1部門に対して、入ることが出来るのは一人でしょ?


……それでも、俺が憑依する前のヒョーゴはブータ貴族に無理矢理勇者パーティーにねじ込まれたんだっけ?

なんか試験に闇がありそうだと感じたのは俺だけだろうか?

ナツミさんの言う通り、確かに腕のある人だけ集まるというのも間違いじゃないけど、

経済力関係で、正統じゃない方法で入ってくる人もいるかも…?

反会的なやつ。


まあ、そんなわけないか。人類を統括するような帝国がそんな薄汚い真似をするわけない(フラグ)


「私は盗賊シーフ部門で試験を受ける予定です。」


すると横からサリーさんが声を出してくる。

サリーさんも勇者パーティーに加盟する予定なのね。

あ、盗賊って「とうぞく」じゃなくて「シーフ」って読むのか。異世界感を感じる。

てか、試験の存在を知らなかったの俺だけじゃん。

前まで普通にお偉いさんに頼み込んで入れるのかと思った。

『上に認められたら、即勇者パーティー採用!!』とはいかなかった。


意外と勇者パーティーの設備はしっかりとしているようだった。


「帝国からこれを渡すように頼まれて来たなり。というか、長期休暇中だというのに……」


説明しながらナツミさんは少し疲れてそうな声のトーンに切り替わる。


―――帝国騎士、帝国直轄の勇者パーティーとは別の最高主力部隊。

そのため普段から途方もない鍛錬を重ねている。

休みはほとんどなく、毎日、どこかの街に出向いては凶暴化して手の付けられない魔物を排除する仕事。

そんな大変な仕事である、帝国騎士は三年に一回3か月の休暇が与えられる。

それが長期休暇と言われるもの――――


長期休暇中に魔王幹部と出会うとか不運でしかないな……。

どうやら、教会に出向いたのは興味本位らしい。

しかもその興味本位で出向いた、教会で勇者を引くものが現れるなんて相当な確率だよな。


「まあ、経過なんてどうでもいいなり。それより真の勇者に会えて十分満足しているぞ」


……真の勇者……。

え、多分パーティー追放の頃には俺は偽物勇者だって気付かれるよな?

うわー、今のうちにナツミさんから株価を上げられるのは苦しんだけど!


俺は必死に否定しようと考える。

しかし、ナツミさんからの熱い視線に、結局何も言えずじまいだった。

――やっぱ戦闘訓練だけじゃ、得られない忍耐力もあるんだな。

遂に変な事まで悟りだした。


「ヒョーゴ様が真の勇者なのは当たり前。

将来はアタシと一緒に魔王を倒すわよ」


飄々とナツミさんの期待の直球を避けていたつもりだったが、

次はウィリスから横やりが入った。


「……同じパーティーに入る前提で話されているみてえだな」


魔王……か。

まあ俺は偽勇者だからとどめを刺せないんだけどね。

でも、火力的にウィリスをパーティーに入れた方が魔王討伐への道は近そう……。

でもそしたら、同じパーティーに入る同士、俺は悪役だからこれから優しくできないよなー。


色々話が複雑そうになってきたから口を閉じた。

嫌われていないことは悪い気がしないが、こうも期待をかけられていると

プレッシャーしか感じなかった。




~~~~~~~~~~~~




「グワア、グワア!!」


不意に背後から聞き覚えのある鳴き声が聞こえる。

後ろを振り向くとそこには、ゴーレムが突っ立っていた。

……たしか畑栽培しているゴーレムだった気がする。

一段落仕事を終えて、俺の所に作業内容を報告しに来たのだろう。


「…………要注意モンスターの土ゴーレム」


穏やかなムードだった、リビング。

しかし、ゴーレムという存在のせいで、一人だけピリついている者がいた。


「な、ナツミ、とりあえず剣を鞘にもどしてくれないか?」


そう、魔物絶対許さん性格の帝国騎士様ナツミだった。

ただこれはヒョーゴが転生者で魔物に対してそこまで強い嫌悪感を持っていないのがこの世界にとって変な事なのだ。

だからこそ、ヒョーゴの言葉を完全にナツミは遮った。


「確かに、イビル戦の時はゴーレムに助けられたことを忘れてはいない。

しかし!!それとこれとは話が違うなり」


ゴーレムの危険性を熱弁するナツミの姿がそこにあった。


「このゴーレムは多分、ここの家では重要な家事での戦力になっている。だが、ゴーレムは初戦魔物、もし魔王に操られてなんかでもした場合には、寝ているところにこのゴーレムがお前の首をはねるために近づいてくるなり」


そういうなり、今度は俺の首元にナツミは剣を添えた。

自由に身動きが取れなくなったとは、こういう事を言うのだろう。


「だからこそ、このゴーレムを捕獲して、帝国で調査することが求められるなり。

なので我がこのゴーレムを頂戴する」


そういうなり、ナツミは高速で動いて、ゴーレムの頭を鷲頭紙にした。

やはり、ゴーレムはナツミに到底、戦闘能力で超えられることは無かったのだろうか?

また前回、賢者にやられた時と同じように……

ナツミはそのまま引きずられるように家から引きずり出そうとする。


「……グワア!!!!!」


しかし、ゴーレムは雄たけびを上げると、魔法陣を展開し始める。


「……何!?」


それも一つどころではない。

人間は到底なし得ない、8つ以上の魔方陣を展開していた。


「ゴーレム……はやり製作者が勇者なだけあって侮れないなり」


ナツミはゴーレムを睨みつける。

対してゴーレムは素早く複数の魔法を起動して、

彼女に攻撃を当てようとしていた。しかも家を全く傷付けずに。


なんか、二人で盛り上がっているなー。

別に俺としては、家さえ壊されなければ、どうだっていいんだけど。


ナツミは剣を最小限に振って、スキルによって魔方陣を断ち切る。

対するゴーレムは、魔方陣の生産が追いつきにくくなり、困惑している様子だった。

つまり、彼女が圧倒的優勢なのだ。

そこでナツミはゴーレムの腕を斬り落とそうとする。

完全に魔法を出させないようにしようと考えた結果だった。


「……グワア」


そして一瞬のうちに彼女は距離を詰めて、ゴーレムの腕を斬った。

最後に次の攻撃で残ったもう片方の腕を斬ろうと準備しているところだった。

しかしそこで、彼女にとって思わぬことが起こった。


バフッ!!


突如として、落とされた腕が膨張してきたのだ。

ただの切り落とされた使えない土としか認識していなかったものは、

直ぐにナツミの体を絡めとる。

そして…………


「グワア!!グワア!!」


「クッ!!なぜ拙者がこのような辱めを受けなくてはならないのだ!!」


即落ち2コマかな?

今の状況は、完全に気まずかった。

……たぶん、ゴーレムは自分の腕に大量に砂を仕込んで、魔法で凝縮していたのだと思う。

きっとそうすることによって、筋肉の動きの様に、もっと力強く、柔軟な動きができるからだろう。

しかし、今回はその仕組みを逆手にとって、自分の腕を爆弾の様に扱ったのだ。

そして自分の腕が爆散してから大量の砂がナツミにかかる。

最後で仕上げとして、土を固めたのであろう。


……ではなぜこのような考察に行きついたのか?


―――だって、下半身だけ見えている状態で土に埋まっているのだ。

息はしているから反対側で、上半身だけが見えているのであろう。

まあ、要するにあれだ、壁〇っていう上級者向け性癖的なやつ。

まさにそのプレイをゴーレムにしてやられたという感じだ。


「帝国騎士としての恥だ……。ここで首を切って死にたい……」


壁越しに、不穏な発言がチラホラと聞こえる。

とりあえず早めに救出した方がいいだろう。

かといってゴーレム本人は魔法を解く気が無いらしい。

……だから俺はどうやって、彼女を壁からだすのかを考え始めた。






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女神さまに頼まれて勇者パーティーで悪役を演じることになりました。精一杯演じているけど勇者以外にバレてる気がするんだが…?【20万PV感謝!】 九条 夏孤 🐧 @shirahaku

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