無差別テロ

寝る犬

無差別テロ

 タイムマシンを開発した。

 残念ながら位置を移動することはできないが、時間だけならば未来へも過去へも1,000分の1秒単位で移動することができる優れものだ。

 時間移動ののち、最初に設定した時間の経過後には、安全に元の時間へと戻るように設計されていた。


――理論上は。


 記念すべき第一回目の実験。

 わたしは部屋に迷い込んだハエを未来へ送ってみることにした。

 移動時間は1時間後、滞在時間は10秒。

 設定を何度も見直し、スイッチを押す。

 その瞬間、ハエは見事に消え去った。


「成功だ!」


 思わず大声を出してしまう。

 しかし、10秒たってもハエは戻ってこず、1時間後にも過去から送られてくるはずのハエは現れなかった。


 なにがいけなかったのだろう?

 何度も検算し、理論を見直したがどこにも問題は見つからない。

 その後も昆虫や植物など、周囲で見つけたもので何百何千と実験を重ねたが、結果は同じだった。

 物体は時間を超え、消える。

 しかし戻ってこない。


 数日間、実験と理論の検証を続けたわたしは、ついに答えにたどり着いた。

 結論として、理論もタイムマシンも完ぺきだった。


 ただし、位置は移動することができないのだ。

 地球は時速1,600kmで自転し、太陽の周りを時速10万kmで公転している。

 太陽系は銀河系を時速85万kmで公転し、銀河系は宇宙の膨張に乗る形で、時速216万kmで移動しているのだ。


 1時間後へと送られたハエは、数百万km彼方の宇宙に姿を現し、10秒後にはもともと地球があったさらに数百万km彼方の宇宙へと戻る。


 やはり理論もタイムマシンも完ぺきだった。

 成功だ。


 わたしは意気揚々とタイムマシンを開発したと大々的に発表する。

 しかし、タイムマシンにより時間移動を成功したことを証明することができず、研究の成果が認められることはなかった。

 一時はネットでも面白おかしく取り上げられたが、ただそれだけ。

 わたしに残ったのは、失意と借金のみだった。


 ◇ ◇


 そのころ、宇宙のいたるところで突然現れた謎の生物による汚染により、数個の惑星で生命が全滅した。

 宇宙警察局はこのテロ行為の犯人を割り出し、反撃の宇宙艦隊を派遣することが決定したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無差別テロ 寝る犬 @neru-inu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ