地蔵街道

@Ak-oz

地蔵街道

 怖い話を聞きたい?うーん、何を話そうか……そうだ、取っておきの話をしてあげよう。


 数年前、夜中まで残業した帰りに普段は通らない山道を通ったんだ。そこ通った方が近いんだけど、獣は出るし、見通し悪いし、何より行きつけのラーメン屋に行くために街中通るから普段は通らないんだ。その時はさっさと家に帰って寝たかったから、近道をしたって訳。


 山道に入ってしばらく進むと、地蔵街道ってところに差し掛かる。地蔵街道って言われてるからには地蔵がずらっと並んでるのかと思うだろうけどそうでも無いんだよ。


 その街道って言われてる一帯の道の両端に地蔵があるんだ。普通の地蔵は道に対して直角に立っているだろ?ところがその地蔵は道に対して平行に立って、街道の内側を向いているんだ。


 それなりに長い道のりだから片方の地蔵からもう片方の地蔵は見えないんだけど、地蔵同士で向かい合ってるみたいだったな。


 お、勘が鋭いね。その通り、怖い話ってのはその地蔵に関係するのさ。


 地蔵街道に差し掛かると、右側に俺と同じ方向を向いた地蔵がいた。まぁ、前にも通ったことはあったし、知ってたから何も気にしなかったんだけどさ。


 そのまま数キロくらい進んで、左側に俺の方を向いた地蔵が見えてきた。そこが地蔵街道の終点だったんだ。本来なら。


 まぁ、疲れてたからしばらく何も考えないで道通りに運転してたんだけど、地蔵街道を通り過ぎてから違和感があったんだ。


 なんか違和感を感じながらも、車を転がしてたんだけど、しばらく進んでおかしいことに気がついたんだ。


 また左側にこっちを向いた地蔵がいるんだ。


 そんなはずは無いんだよ。そもそもその道の途中、地蔵がいるのは街道の始まりと終わりの2体だけなんだよ。


 まぁ、その時は前来た時に見つけなかっただけなんだろうってスルーしたんだけどさ。


 3体目の地蔵の横を通り過ぎて、本来なら家に着くくらい走ったんだけど、それでもたどり着かない。


 疲れて回らない頭で、早く家に帰りたい一心で走らせてたんだけど、見えてきたのはこっちを向いた4体目の地蔵。


 さすがにちょっとおかしいと思って、道を調べたんだ。そしたら、未だ地蔵街道から出てなかったんだよ。


 疲れて鈍った思考が一気に冷めたよ……とっくに地蔵街道は通り過ぎたはずだったからね。


 とりあえず、カーナビの地図を表示したまま、4体目の地蔵の横をとおりすぎたんだ。


 そしてすぐに車を止めて地図を見たら、地蔵街道の始点に戻っていた。右を見たら、俺と同じ方向を向いた地蔵。


 さすがにパニックになったよ……


 何よりおかしいのは、同じ道を通ったらさすがに分かるはずなのに、全く気づかなかったんだ。


 さすがにおかしいと思ってとりあえず、反対側の地蔵のところまで行って、なんで同じ道だって気づかなかったかわかった。


 道が微妙に違うんだ。たぶん、ループする度に道が変わるんじゃないかな?そして、暗いからヘッドライトで照らされた部分しか見えないんだ。そりゃ気づくわけないよね。同じ場所でループしてても、違う道なんだもん。明るければ周りの景色で気づけたのかもしれないけど……


 とりあえず、また地蔵の横を通り過ぎたんだ。そしたら予想通り、始まりの地蔵のところに戻ったんだよね。


 ここで疑問に思ったのが、始まりの地蔵の方に引き返したらどうなるのかってこと。道の途中にあった広いところで車を回して引き返したら、案の定、終わりの地蔵のところに戻っていたよ。


 何度行ってもだめ。残業明けでただでさえ疲れてるのに、こんなのに巻き込まれたもんだからもう、怖いとかよりも苛立ちの方が大きかったよ。


 で、その後にも何周もして、さすがに限界でさ。終わりの地蔵のちょっと手前で車から降りて、懐中電灯をもってその地蔵を近くで見てみたんだ。


 見た目は普通の地蔵とほとんど変わらなかったんだけど、いくつか変なところがあった。


 格好は普通の地蔵と同じだったんだけど、顔とか見えてた手足が猿みたいで、しかも角が生えてたんだ。そして、何となく腹立つ表情をしていた。なんというか、嘲笑うような感じ。


 ただでさえ疲れてたのに、そんな顔してたもんだからもう腹立ってさ。とりあえず、全力で蹴り飛ばしたんだ。


 そしたら、石なのに簡単に砕け散って、しかも結構な音量で叫び声みたいなのが聞こえたんだ。


 イライラしてたとはいえ流石に気味悪くなってさっさと車に乗って、砕け散った地蔵の横を通り過ぎた。そしたら、一瞬視界がぐにゃって歪んだんだ。で、右を見ても地蔵はいないし、地図を見る限りそこは抜け出ていた。


 そのあとは普通に家に帰って、寝たよ。家にたどり着いたのがあと2、3時間で夜明けってくらいの時間だったし。


 後で気になって地蔵街道について近所の人に聞いてみたんだけど、とくに不思議な話はなかった。


 「優しい顔したお地蔵様が左右にずらーっと並んだ道」だってさ。


 それ聞いた時、本当に怖くなったよ。あの日通った道はなんんだったんだろうって言うのと、いつ、あの地蔵街道について知ったのか、分からなかったから。


 そして、あの日通ろうとしたルートには地蔵なんて、立ってなかったから。


 ハハッ、なんで間違って覚えてたんだろうな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

地蔵街道 @Ak-oz

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ